雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

夕刻になり、面会時間が終わると、病室には俺と詩織の二人だけになった。

オレンジ色の夕日が、白いシーツを血のような赤色に染めていく。

「……詩織、まじですまん。本当にすまん……。俺があんなことを言ったせいで、お前をこんな目に遭わせてしまった。もう、遅いよな。謝ったって、届かないよな。俺、最低の兄貴だろ。生まれてこなきゃよかったのは、詩織じゃなくて、俺の方だったんだ」

俺は壊れた人形のように、詩織の動かない耳元でずっと、幼い頃の思い出や後悔を、掠れた声で語り続けていた。
小学生の頃、俺が試合で初めてシュートを決めて、お前が自分のことみたいに飛び跳ねて喜んでくれたこと。
中学の時、くだらないことで喧嘩して、お前を泣かせてしまって激しく後悔したこと。
二人でこっそりお小遣いを出し合って、近くの公園までアイスを買いに出掛けたこと。
両親がまだ生きていて、四人でくだらない冗談を言いながら笑い合った、あの眩しい家族旅行の記憶。

あの日、俺のバスケの遠征さえなければ。俺がバスケなんていうスポーツを、傲慢に続けていなかったら、両親はあの豪雨の交差点に居合わせることもなく、事故に遭わなかったかもしれない。
俺がもっと妹の孤独に寄り添える、優しい兄だったら、詩織をここまで追い詰めることもなかった。

全部、俺が原因だ。俺がすべてを破滅させたんだ。
何かを思い返すたび、堰を切ったように、頬に熱い液体がつたってボロボロと溢れ落ちる。
シーツに落ちた涙は、詩織の体温を吸い取るように冷たく染み込んでいった。

夜になり、一時帰宅を許された俺は、主のいなくなった静まり返った一軒家にいた。
電気をつける気にもならず、暗闇の中、浴槽に溜めたお湯に一人で沈んでいた。
首まで湯船に浸かり、顔を半分ほど水面に沈めながら、薄暗い天井を見つめる。
耳まで水に浸かると、ドクドクと刻まれる自分の心臓の音だけが、やけに大きく響いた。

ああ、今まではいつも近くに詩織がいて。
俺の視界を遮るように立ち塞がっては、歪んだ嫉妬や狂気じみた執着を向けてきて、それがたまらなく鬱陶しくて、息が詰まりそうだったけれど。
皮肉なことに、一人きりになって初めて気づいた。
あの鬱陶しいほどの執着は、詩織が俺を必要としてくれていた証拠だったんだ。
妹がいてくれたから、俺は誰かのために強くなろうと思えた。

妹がいないこの家は、まるでただの冷たい箱だ。妹がいないと、俺は自分の存在理由さえ見つけられないんだって、今更になって気づかされる。
失ってから気づいたって、もう何もかもが遅すぎるのに。
「詩織……、ごめん……、ごめん……」
浴槽の水面に、俺の目から溢れた涙がぽつぽつと落ちて、静かな波紋を広げていく。俺のせいで、すべてがなくなってしまった。この降り止まない絶望の雨の中で、俺は一生、溺れ死んでいくんだ。