雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

最寄り駅を出ると、生温い潮の匂いが一気に全身を包み込んだ。
白い砂浜に白い波。

木村と後輩たちは、駅のトイレで水着に着替えるなり、叫び声を上げながら海へと飛び込んでいった。
「瑞稀!お前も早く来いよ!コートの上とは違うドライブ見せてやるからな!」
拓海が波打ち際で、大きな手をブンブンと振っている。

俺は砂浜に置かれた古い木製のベンチに腰掛け、黒いキャップを深く被り直した。
「行かない。俺はここで荷物番だ」
「えー、ケチ。せっかく拓海くんたちが誘ってくれたんだから、ちょっとくらい泳げばいいのに」
隣に、ふわりとサマーニットの裾を揺らして和奏が座った。

「……和奏、お前は行かないのか」
「私はいいの。こうやって、橘くんがみんなと楽しそうにしてるのを見てるのが、今の私の一番のごちそうだから」
和奏は膝の上で両手を組み、海で大はしゃぎしているバスケ部の面々を、本当に愛おしそうな目で見つめていた。

夕刻になり、浜辺の端にある赤提灯の吊るされたバーベキュー場へと移動した。
「よし!橘先輩の深夜バイト完全脱出、そして俺たちの夏休みに……乾杯!」
木村の音頭で、冷たいコーラの缶がカチンと音を立てる。

鉄板の上では、拓海が豪快にトングを振り回しジウジウと美味そうな音を立てて肉を焼き上げていく。
「ほら瑞稀、食え!胃袋に叩き込め!」
「……死ぬだろ。誰がそんなに食うか」
俺がいつもの真顔で突っ込むと、周りの後輩たちがゲラゲラと笑う。

賑やかな笑い声。

夜の帳が下り、バーベキュー場が片付けの時間を迎える頃。
俺と和奏は、少しだけみんなの輪から離れ、波の音がザザーンと響く静かな波打ち際を二人で歩いていた。
頭上には、都会では決して見られないような、満天の星空が広がっている。

「……楽しかったね、橘くん」
和奏が、俺の右腕に自分の腕をしっかりと絡めたまま、小さな声で言った。
「ああ。……みんな、お前のこと、普通にダチだと思って接してくれてたな」
「うん。拓海くんも木村くんも、みんな本当に良い人たち。橘くんが、あの中に早く戻れるといいな」

和奏は歩みを止め、寄せては返す白い波を見つめた。
彼女のひまわりの髪留めが、星の光を反射して輝いている。

「和奏。お前……夏休みが終わったら、どうするんだ」

俺はポケットの中で、じわりと汗ばむ手をぎゅっと握り締めた。
進路のこと、これからのこと。
ずっと聞けずにいた問いを、静かに投げかける。
和奏は一瞬静かな目をして俺を見つめた。

「どうするって、決まってるじゃん!橘くんにお惣菜を届けて、ちゃんと会いに行って、橘くんの真顔のツッコミを回収するの!」
和奏は俺の腕をぎゅっと引っ張るとベロを出した。

「……いや、俺は真面目に」
「私はいつでも本気。……ねえ、橘くん。次は、約束通り、私の家に来てくれる?」