雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

「ふふ、とっても元気で、でも感受性が豊かな女の子なんですね。お客様のことが本当に大好きなんだなぁって、お話を聞いているだけで伝わってきます」
「……俺はただ、お礼がしたくて」
俺はフイッと視線を逸らした。

真顔をキープしようと必死だが、店員さんの言葉が頭の中でリフレッシュされ、耳の裏まで一気に熱くなっていくのが分かった。
顔が赤くなっているのを隠すために、キャップのひさしをさらに下げる。
「それなら、普段使いできるお洒落な髪留めや、お家で使えるリラックスグッズなんていかがでしょう?毎日お弁当を作ってくれる優しい女の子なら、こういうお洒落なエプロンや、可愛いヘアアクセサリーがきっと似合いますよ」

店員さんが案内してくれた棚には、様々なデザインのヘアクリップが並んでいた。
その中で、俺の目に留まったのは、小さくて鮮やかなひまわりのモチーフがあしらわれた、透明感のある綺麗な髪留めだった。
(ひまわり……)
あの時、俺があいつの料理を美味かったと言った時、あいつはひまわりが咲いたような笑顔で笑った。
あいつの眩しい笑顔に、この黄色い花は、どうしようもないくらいぴったりだと思った。

「……これにします」
俺がそれを指差すと、店員さんは嬉しそうに両手を合わせた。
「とっても素敵です!笑顔にぴったりの、温かいチョイスですね。彼女さん、絶対に喜びますよ!」
「彼女じゃ……ないです」
「今は、ですね。応援しています!」

最後まで店員さんにいい感じに弄られながら、俺は綺麗にラッピングされた小さな紙袋を受け取った。
財布から数千円を支払い、お釣りを受け取る。
だけど、俺の逆襲はこれだけでは終わらない。
封筒の中には、まだ数万円の予算が残っている。

俺はそのまま、モールの地下にある高級スーパーへと向かった。
いつも美味しいご飯を作ってくれる和奏のために、今度は俺が手料理を振る舞う。
そのための、普段の生活保護の予算では絶対に買えないような、最高級の食材を買い揃えるためだ。
「ええと……レシピは……」

スマホの画面でレシピサイトを見つめながら、俺は真剣な眼差しで肉のコーナーへと進んだ。
いつも和奏が作ってくれるような、肉汁たっぷりでジューシーなハンバーグ。
それを再現するために、俺は一切の妥協を許さない貯金マシーンの集中力を発揮していた。

「国産黒毛和牛の合い挽き肉……これか。それから、玉ねぎと、高級なオーガニックのデミグラスソース……」
カゴの中に、次々と贅沢な食材が収まっていく。
手料理なんて詩織が倒れて以来、ほとんど作ったことがない。

だけど、医療系の難しい本を読み漁るくらいの根気なら、今の俺にはある。
レシピの文字を一文字も逃さないように頭に叩き込みながら、俺はカゴを抱えてレジへと向かった。
カバンの中には、ひまわりの髪留めが入った小さな紙袋。

両手には、最高級のハンバーグの材料が詰まったレジ袋。
「待ってろ、和奏」
夕暮れ時のショッピングモールを出ると、外の空気は少しだけ涼しかった。

いつも一方的に俺のテリトリーを侵略してくるあいつに、明日、学校帰りにこれらを全部叩きつけてやる。
あいつがどんな顔をして驚き、どんな風に大騒ぎするのか。