雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

放課後のチャイムが鳴り響くと同時に、俺はいつもより少しだけ早い動作でカバンを肩にかけた。
「あれ、瑞稀。今日はお見舞い直行か?」
隣の席で伸びをしていた拓海が声をかけてくる。

「いや、ちょっと駅前のショッピングモールに寄ってから行く」
「へえ、ショッピングモール?お前がそんな色気のある場所に行くなんて珍しいじゃん。……あ、もしかして」
拓海がニヤニヤと笑みを浮かべ、俺の肩を肘で小突いてきた。

「和奏ちゃんへの貢ぎ物でも買いに行くのか?お前、デートのあと、なんかずっと上の空だったもんなぁ」
「……貰いっぱなしは俺のプライドが許さないだけ」
俺はいつもの真顔のまま、足早に教室を後にした。

カバンの中には、これまでの歪んだ生活の中で、詩織の治療費とは別に
「いつか和奏へ返すための感謝分」
として、少しずつ削って貯めていた数万円の入った封筒がある。
いつも美味しいお惣菜をくれて、あの夢のような遊園地と高級ホテルを全おごりしてくれた彼女に、俺なりの逆襲を仕掛ける時が来たのだ。

駅前の大型ショッピングモール。
きらびやかな建物に足を踏み入れた瞬間、俺は猛烈な後悔に襲われていた。
見渡す限り、お洒落な女子高生やカップルばかり。
BGMとして流れる軽快な洋楽すら、今の俺には居心地が悪くてたまらない。

「……落ち着け。ただの買い物だ」
俺は事前に調べておいたレディースの雑貨やコスメが並ぶフロアへと向かった。
だけど、並んでいる可愛いリボンや、きらきらしたリップ、いい匂いのする香水の棚の前に立つと、何をどう選べばいいのかさっぱり分からない。

真顔で棚を見つめたまま固まっている俺の姿は、周囲から見れば完全に不審者だった。
「あの……何かお探しですか?」
背後から、優しそうなトーンの声が響いた。
振り返ると、この店の制服を着た20代くらいの女性店員さんが、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。

「あ、いや……その」
俺は思わず喉を詰まらせた。
いつも和奏にあれだけツンツンと言い返しているのに、いざ見知らぬ大人の女性を前にすると、どう言葉を発していいか分からなくなる。
「プレゼントですか?もしよろしければ、お相手の方の雰囲気などを教えていただければ、ご一緒にお選びしますよ!」
店員さんの親切な申し出に、俺は意を決して、できるだけ小さな声で切り出した。
「……同じ学校の仲いい、女子生徒、なんですけど」
「まあ!同級生の女の子へのプレゼントですね。素敵です!」
店員さんはパッと表情を輝かせた。

「その子は、どんな雰囲気の方なんですか?クールな感じ、それとも可愛い感じですか?」
「可愛いっていうか……うるさいです。毎日ストーカーみたいに俺の後ろにくっついてきて、大騒ぎしながら笑うような奴です。……あ、でも、たまに寂しそうな顔をします」
一気に喋り終えると、店員さんは一瞬きょとんとした後、クスッと優しく吹き出した。