雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

激しい風に髪をくしゃくしゃにされた和奏が爆笑している隣で、俺はベンチに座り、ただただ真顔で胃のあたりを押さえていた。
絶叫マシンなんて何年振りだろう。
心臓が口から飛び出るかと思ったが、隣で子供みたいに大はしゃぎして、俺の袖をちぎれんばかりに引っ張っていた和奏の顔を思い出すと、不思議と嫌な気分ではなかった。

「もう、橘くん、絶叫系弱いの?バスケのエースだったのに意外とヘタレじゃん」
「ヘタレ言うな。……お前が元気すぎる」

「あは。じゃあ次は、ちょっと休憩ね。あ、あそこでお揃いのカチューシャ売ってる!橘くん、犬の耳つけて!」
「絶対に無理。断固拒否する」
「えー。じゃあ私が猫の耳つけるから、橘くんは写真撮って!」

和奏はショップに駆け込み、白い猫耳のカチューシャを頭に乗せて、店の鏡の前でポーズを取った。
「にゃーん」とか言いながら首を傾げる彼女の姿がどうしようもないくらいおかしく、俺は無表情のままスマホのシャッターを切った。
画面の中の和奏は、世界で一番幸せそうに笑っていた。

その後も、和奏の勢いは止まらなかった。
お昼ご飯のホットドッグも、おやつのチュロスも、和奏は「はい、お財布はしまって!」と、全部自分の財布からお金を出した。
「和奏、やっぱり悪い。飯の代くらいは払わせろ」
「だーめ!橘くんがガチの笑顔になるまで、私は一歩も引かない。ほら、次はあっちのゴーカートに乗ろ!」
申し訳なさが胸に募るけれど、それ以上に、こうして和奏と過ごす時間が、驚くほど心地よかった。

気がつけば、園内を包む空気は少しずつ変わり、西の空がゆっくりと茜色に染まり始めていた。
たくさんのアトラクションを巡り、賑やかな音楽が響く園内を歩く。
和奏は相変わらず、俺の右腕に自分の腕をしっかりと絡めたままだ。
歩くたびに、彼女の髪が俺の肩に触れる。
「あー、楽しかったなぁ。橘くん、ちょっとは息抜きになった?」
和奏が下から覗き込んでくる。
相変わらず俺は真顔のままだ。
だけど、夕日のせいにできないくらい、顔が熱くてたまらなかった。

「……まあ、悪くはなかった」
「ふふ、橘くんの悪くはないは、最高の褒め言葉だからね~!」
和奏は嬉しそうに俺の腕にぎゅっと力を込めた。
園内の街灯にぽつぽつと明かりが灯り始め、お昼の賑やかさから、少しずつロマンチックな夜の雰囲気が漂い始める。
暗くなるまでの、ほんの短い、だけど愛おしい時間が、ゆっくりと流れていた。