その日の深夜。
俺は数週間お世話になったフィットネスジムの事務所の前に立っていた。
静まり返ったフロアには、マシンの金属音が響いている。
トントン、とドアをノックする。
「失礼します。橘です」
「あ、橘くん。どうしたの、こんな時間に」
デスクで書類をめくっていた責任者の男性が、顔を上げて俺を見た。
俺は一歩前に進み出て、深く頭を下げた。
「夜遅くに申し訳ありません。実は……学校の勉強と、妹の看病の両立がどうしても難しくなってしまいまして。体調を崩しがちになってしまったので、このバイトを今月限りで辞めさせていただきたいんです。急な相談になってしまって、本当にすみません」
一気に言葉を吐き出すと、一瞬の沈黙が流れた。
引き止められるか、あるいは怒られるか。
身を硬くして待つ俺に、責任者の人は小さく息を吐き、困ったような苦笑いを浮かべた。
「……そっか。やっぱりきつかったよね高校生に深夜労働は。でも、橘くんはいつも真面目に、本当に綺麗に掃除してくれて助かってたよ。橘くんの友達っぽい女の子からも、事前に無理をさせちゃうかもしれないから、本人が限界そうならすぐ止めてあげてほしいって言われてたんだ」
「え……?和奏が、ですか?」
「うん。だから気にしなくていいよ。体調の方が大事だからね。今までありがとう、お疲れ様」
予想外の言葉に驚きながらも、俺はもう一度深く頭を下げて事務所を後にした。
外に出ると、生ぬるい夜風が火照った顔を掠めていく。
肩の荷が下りたような軽さと共に、俺の頭の中は和奏のことでいっぱいになっていた。
(あいつ……そこまで考えて、このバイトを俺に……)
あのうるさくて、お節介で、お調子者の女。
明日、学校でちゃんと会って、話をしなきゃいけない。
俺は数週間お世話になったフィットネスジムの事務所の前に立っていた。
静まり返ったフロアには、マシンの金属音が響いている。
トントン、とドアをノックする。
「失礼します。橘です」
「あ、橘くん。どうしたの、こんな時間に」
デスクで書類をめくっていた責任者の男性が、顔を上げて俺を見た。
俺は一歩前に進み出て、深く頭を下げた。
「夜遅くに申し訳ありません。実は……学校の勉強と、妹の看病の両立がどうしても難しくなってしまいまして。体調を崩しがちになってしまったので、このバイトを今月限りで辞めさせていただきたいんです。急な相談になってしまって、本当にすみません」
一気に言葉を吐き出すと、一瞬の沈黙が流れた。
引き止められるか、あるいは怒られるか。
身を硬くして待つ俺に、責任者の人は小さく息を吐き、困ったような苦笑いを浮かべた。
「……そっか。やっぱりきつかったよね高校生に深夜労働は。でも、橘くんはいつも真面目に、本当に綺麗に掃除してくれて助かってたよ。橘くんの友達っぽい女の子からも、事前に無理をさせちゃうかもしれないから、本人が限界そうならすぐ止めてあげてほしいって言われてたんだ」
「え……?和奏が、ですか?」
「うん。だから気にしなくていいよ。体調の方が大事だからね。今までありがとう、お疲れ様」
予想外の言葉に驚きながらも、俺はもう一度深く頭を下げて事務所を後にした。
外に出ると、生ぬるい夜風が火照った顔を掠めていく。
肩の荷が下りたような軽さと共に、俺の頭の中は和奏のことでいっぱいになっていた。
(あいつ……そこまで考えて、このバイトを俺に……)
あのうるさくて、お節介で、お調子者の女。
明日、学校でちゃんと会って、話をしなきゃいけない。



