雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

図書室での穏やかな時間から数日後。
俺の身体は、いよいよ悲鳴を上げ始めていた。
授業中、激しい睡魔と頭痛が何度も俺を襲う。

黒板の文字が二重にブレて、教師の声がノイズのようにしか聞こえない。
昼間は普通の高校生として授業を受け、放課後は詩織の病院へ通い、深夜から明け方にかけてはあのフィットネスジムで限界まで身体を動かして清掃をこなす。

そんな生活が、長く持つはずがなかった。

(さすがに、もう無理だ……)

詩織のためにお金を稼ぎたいという気持ちは微塵もブレていない。
だけど、このまま寝不足で倒れて自分が病院に担ぎ込まれたら、それこそ本末転倒だ。

俺は大きなため息を吐きながら、重い足取りで中央廊下を歩いていた。

今日の夜、ジムの責任者にバイトを辞めさせてほしいと直接伝えに行こう。
そう心に決めていた。

「あれ、橘先輩じゃないすか!こんちゃっす」
不意に、前方から威勢のいい声が響いた。
見ると、そこにはバスケ部の後輩たちが数人、汗拭きタオルを首にかけた状態で立っていた。

その中心には、もちろん拓海と木村の姿もある。
「おう瑞稀。なんだよ、随分と酷いツラしてるな。目の下にめちゃくちゃクマできてるぞ」
拓海が俺の顔を覗き込み、呆れたように眉をひそめた。

木村も隣で心配そうに俺を見つめている。
「橘先輩、本当にお疲れ気味ですね……。あ、そういえば先輩、最近放課後に体育館の近く、全然通ってくれないじゃないですか。みんな先輩がアドバイスしに来てくれるの待ってるんですよ!」
後輩の一人が、人懐っこい笑顔で俺の肩を小突いてくる。
かつてエースだった俺を、彼らは今でも変わらずに先輩と慕ってくれていた。

「悪い。ちょっと、最近いろいろと忙しくてな」
俺は力なく笑ってみせる。
その覇気のない返事に、拓海が怪訝そうな表情を浮かべた。
「おい瑞稀。お前身を削るようなことしてたら、詩織ちゃんが泣くぞ」
拓海の鋭い指摘に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。