雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

放課後の体育館から響くボールのバウンド音を聞きながら、俺は校舎の裏へと続く階段を静かに下りていた。

日曜日。
病室の床を照らしたあの眩しい太陽の光が、今も俺の網膜に焼き付いて離れない。

稼がなきゃいけない。
詩織をあそこから引き戻すために、俺はもっと強くなれる。
だけど、前を向こうと決意したからこそ、胸の真ん中に居座もう真っ黒な違和感が無視できない大きさに膨らんでいた。

校舎の裏、普段は誰も来ない古い木造のベンチ。
頭上からは、相変わらず蝉の声がシャワーのように降り注いでいる。

「じゃじゃーん!橘くん、今日はお待たせ!肉汁たっぷりハンバーグ弁当でーす!」
ベンチに腰掛けた瞬間。
待ってましたと言わんばかりに、隣から高いトーンの声が響いた。

夏服の制服のスカートをふわりと揺らし、和奏が嬉しそうに箱の蓋を開ける。
フワリと、香ばしいデミグラスソースの匂いが広がった。

「ほら、夜勤明けでガリガリなんだから、ちゃんと全部食べないとダメだからね。はい、お箸!」
和奏はパチンと小気味良い音を立てて割り箸を割ると、いつものように俺の手元へ無理やり握らせてこようとした。

だが、俺はその箸を受け取らなかった。
「……橘くん?」
和奏が不思議そうに首を傾げ、大きな瞳で俺の顔を覗き込んでくる。

俺はキャップのひさしを少しだけ押し上げ、彼女のそのガラスのような瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。

「和奏。飯を食う前に、お前に聞かなきゃいけないことがある」
「えー?何それ、改まっちゃって。もしかして、ついに私への愛の告白とか?待って待って心の準備が――」

「冗談じゃない」
はっきりとした声で、俺は彼女の言葉を遮った。

裏庭を吹き抜けるぬるい風が一瞬だけ、二人の間で冷たく凍りついたような気がした。

「俺は、お前に深夜のジムのバイトを紹介された」

「うん、そうだね。時給、破格でしょ?役に立てて良かったなーって」
和奏はいつもと変わらない悪戯っぽい笑顔のまま、首を縦に振る。