雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

小さな水滴がぽつ、と水面に落ちて、静かに円を描く。
弾かれた透明な個体が、私の意識をゆっくりと覚醒させていく。
そんな風に、私は目を覚ました。

今日はずっと、頭の奥で冷たい雨が降り続いている。
ざあざあと響く耳鳴りが、私の思考を白く塗り潰していくみたいだった。
「……さっきまで、私、何してたんだっけ」
いつからだろう。まともに親が家に帰ってこなくなったのは。

どれだけ忙しいのかは知らないけれど、今の私は、世界にぽつんと取り残されたみたいに独りぼっちだ。
冷え切った身体の奥で、突然、鼓動がうるさく跳ねた。

……助けたい。理由なんてない。ただ強烈に、誰かに何かをしてあげたいと思ったのだ。
たとえば、いつかの雨の日。
ずぶ濡れで震える捨て猫を見つけた瞬間、必死でコンビニに走ってビニール傘を買った、あのときのように。猫に傘を翳してあげながら、「私って我ながら優しすぎるな」なんて、一人で苦笑いしたっけ。
だけど、そんな風に誰かの雨を止めようとしていた私は、自分の雨に気づいていなかった。

ある夜の、激しい豪雨の街。
私たちは家族三人でドライブに出かけることになった。
車の窓ガラスを激しく叩く雨粒の向こう、外の景色はどこを見渡しても漆黒で。
その底なしの暗闇が、なんだかどうしようもなくおかしくて、私の口元からふっと笑みがこぼれてしまう。
本当に、馬鹿らしい。
何に対して笑っているのか、自分でも全然分からなかったけれど。ワイパーが激しく視界を拭う。

車がスピードを上げたとき、フロントガラスの向こうに、うっすらと黒い海が見え始めた気がした。冷たい雨の音を遠くに聞きながら、私はそのまま、二度と目覚めないような深い眠りへと落ちていった。