雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

荒い呼吸。ボタボタと床に落ちる汗。
それだけじゃない。瑞稀は、自分の頭を何度も拳で殴りつけていた。
『……お前なんか、生まれてこなきゃよかったんだ』自分が放ったあの凶悪な言葉の呪縛に、今も一人で、この暗闇の中で引き裂かれそうになっている。

瑞稀は、泣いていた。
声も出さずに、ただ顔を歪めて、溢れ出る涙を拭おうともせず、呪われたようにマシンの鉄枠をタオルでゴシゴシと擦り続けている。
(……声を、かけられねえ……)
拓海は、一歩も前に進めなかった。

今、自分たちのような過去の栄光の象徴が目の前に現れたら、瑞稀のズタズタのプライドは完全に粉砕されてしまう。
あいつが命を削って守ろうとしている妹のための意地を、ただの同情で踏みにじるわけにはいかなかった。
「拓海、先輩……?瑞稀先輩、あんなにボロボロで……。早く助けないと……っ」
木村が泣きだしそうな声で拓海の袖を引っ張る。
だが、拓海は悲痛な面持ちで、木村の肩を強く抱き寄せ、首を横に振った。

「ダメだ、木村。……今は、引き下がるぞ」
「なんでですか……!?」
「あいつの目を見ろ。誰の助けも拒絶して、一人で罪を背負う目をしてる。今の俺たちじゃ、あいつを救えない。……行くぞ」

拓海は悔しさに唇を噛み締め、血が滲むほどの力で拳を握り締めながら、瑞稀に気づかれないよう、静かに裏口へと引き返した。
背後ではただ一人、世界の中心に取り残されたかのように黙々と掃除を続ける瑞稀の小さく震える背中だけが、薄青い光の中に浮かんでいた。

外に出ると、豪雨が二人の身体を容赦なく濡らした。
拓海は天を仰ぎ、雨水なのか涙なのか分からない液体を顔中に浴びながら、自分の無力さに激しく毒づいた。