放課後の体育館に、キュッ、とバッシュが床を擦る高い音が寂しく響いていた。
いつもなら、地を震わせるようなボールのバウンド音と、怒号のような声が飛び交っているはずの時間。
だけど、インターハイ予選で敗退した新チームの練習は、どこか熱を失ったままで、重苦しい空気が淀んでいる。
「木村。今日の練習、ここまでだ。お前、ちょっと面貸せ」
部員たちが片付けを始める中、キャプテンの拓海は、汗を拭いながら後輩の木村に声をかけた。
拓海は185センチの長身に、切れ上がった涼しげな目元を持つ、学校でも一際目を引く存在だ。普段は冷静沈着で、女子生徒からの人気も高いが、コートの上では誰よりも熱く、泥臭い男だった。
体育館の裏手、夕暮れ時の赤紫色の空が広がる踊り場で、拓海は自販機で買った冷たいスポーツドリンクを木村に放り投げた。
「……ありがとうございます。拓海先輩」
木村はそれを受け取り、昼間の廊下での出来事を思い出したのか、すぐに俯いてしまった。
「木村。お前も気づいてるな」
拓海は缶のプルタブを引き抜くと、遠くの街並みを見つめながら、低く掠れた声で言った。
「瑞稀の奴……あいつの身体、もう限界だ。昼間、腕を掴みかけたとき、驚くほど細くなってやがった。あいつ、生活保護を受けてるって言ってたが、絶対にそれだけじゃねえ。別の何かをやってる」
木村がハッとして顔を上げた。
「やっぱり、あの噂……本当なんですか?瑞稀先輩が、夜中に街のほうで働いてるって……」
「ああ。部活のOBの大学生から連絡があった。深夜の2時か3時頃、駅前の高級ジムのガラス越しに、瑞稀によく似た奴がマシンの掃除をしてるのを見たってな」
拓海は缶を握り締め、ギリ、と奥歯を噛み締めた。その端正な顔立ちが、怒りと悔しさで激しく歪む。
「あいつは、妹の治療費のために自分を削り殺す気だ。高校を卒業するっていう最低限のラインだけを守って、残りの命を全部、金に換えてやがる」
「そんなの……!そんなの間違ってますよ!」
木村が叫ぶように言った。
大粒の涙が、彼の健康的な小麦色の頬をつたう。
「瑞稀先輩は、俺たちのエースなんです。あの人のいないコートなんて、俺、今でも信じたくない。金が必要なら、俺が、俺たちが死ぬ気でバイトしたって……!」
「馬鹿言え」
拓海は木村の頭を、大きな手でクシャリと手荒に、だけど愛おしそうに撫で回した。
「あいつのプライドを知ってるだろ。同情の金なんか、一円だって受け取るような奴じゃねえ。……それに、昼間出てきたあの他クラスの女子生徒、和奏だっけか」
拓海の脳裏に、昼間の廊下で見た少女の姿が浮かぶ。
「あいつ、瑞稀の腕を掴んで非公認・専属栄養士なんてふざけたことを言ってたが……目が、普通じゃなかった」
「え……?」
「可哀想な奴を助けて気持ちよくなってる偽善者か、あるいは……」
拓海はそこまで言って、言葉を濁した。
いつもなら、地を震わせるようなボールのバウンド音と、怒号のような声が飛び交っているはずの時間。
だけど、インターハイ予選で敗退した新チームの練習は、どこか熱を失ったままで、重苦しい空気が淀んでいる。
「木村。今日の練習、ここまでだ。お前、ちょっと面貸せ」
部員たちが片付けを始める中、キャプテンの拓海は、汗を拭いながら後輩の木村に声をかけた。
拓海は185センチの長身に、切れ上がった涼しげな目元を持つ、学校でも一際目を引く存在だ。普段は冷静沈着で、女子生徒からの人気も高いが、コートの上では誰よりも熱く、泥臭い男だった。
体育館の裏手、夕暮れ時の赤紫色の空が広がる踊り場で、拓海は自販機で買った冷たいスポーツドリンクを木村に放り投げた。
「……ありがとうございます。拓海先輩」
木村はそれを受け取り、昼間の廊下での出来事を思い出したのか、すぐに俯いてしまった。
「木村。お前も気づいてるな」
拓海は缶のプルタブを引き抜くと、遠くの街並みを見つめながら、低く掠れた声で言った。
「瑞稀の奴……あいつの身体、もう限界だ。昼間、腕を掴みかけたとき、驚くほど細くなってやがった。あいつ、生活保護を受けてるって言ってたが、絶対にそれだけじゃねえ。別の何かをやってる」
木村がハッとして顔を上げた。
「やっぱり、あの噂……本当なんですか?瑞稀先輩が、夜中に街のほうで働いてるって……」
「ああ。部活のOBの大学生から連絡があった。深夜の2時か3時頃、駅前の高級ジムのガラス越しに、瑞稀によく似た奴がマシンの掃除をしてるのを見たってな」
拓海は缶を握り締め、ギリ、と奥歯を噛み締めた。その端正な顔立ちが、怒りと悔しさで激しく歪む。
「あいつは、妹の治療費のために自分を削り殺す気だ。高校を卒業するっていう最低限のラインだけを守って、残りの命を全部、金に換えてやがる」
「そんなの……!そんなの間違ってますよ!」
木村が叫ぶように言った。
大粒の涙が、彼の健康的な小麦色の頬をつたう。
「瑞稀先輩は、俺たちのエースなんです。あの人のいないコートなんて、俺、今でも信じたくない。金が必要なら、俺が、俺たちが死ぬ気でバイトしたって……!」
「馬鹿言え」
拓海は木村の頭を、大きな手でクシャリと手荒に、だけど愛おしそうに撫で回した。
「あいつのプライドを知ってるだろ。同情の金なんか、一円だって受け取るような奴じゃねえ。……それに、昼間出てきたあの他クラスの女子生徒、和奏だっけか」
拓海の脳裏に、昼間の廊下で見た少女の姿が浮かぶ。
「あいつ、瑞稀の腕を掴んで非公認・専属栄養士なんてふざけたことを言ってたが……目が、普通じゃなかった」
「え……?」
「可哀想な奴を助けて気持ちよくなってる偽善者か、あるいは……」
拓海はそこまで言って、言葉を濁した。



