雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

「あ見つけた!橘くん探したよー!」
静まり返りかけた廊下に、高い声が響き渡った。

生徒たちが一斉に声の主へと視線を向ける。
人混みをかき分けるようにして走ってきたのは和奏だった。

その腕には、ずっしりと重そうな、可愛らしい風呂敷に包まれた箱が抱えられている。
「和奏……?お前なんでここに……」

俺の困惑を完全に無視して和奏は拓海と木村の間に割り込むと、俺の腕をぎゅっと抱きしめるようにして捕まえた。
「もう、橘くんが全然お昼休みに部屋から出てこないから、わざわざきちゃったじゃん。はい、これ今日の差し入れ!今日はね、橘くんの大好きな唐揚げてんこ盛り弁当だよ!」
「おい、離せ……!みんな見てるだろ!」

周囲の視線が、さらに異様なものへと変わっていくのが分かった。

教室内からも、何事かと覗き込む生徒たちの顔が見えた。
拓海と木村は腕を掴む彼女の手を見つめ呆然としていた。

「……瑞稀、その子は?」
「あ、初めまして方々!私は橘くんの非公認・専属栄養士の和奏です。橘くん、今はちょっと私がリハビリ中なのであんまりイジめないであげてくださいね!」
和奏はペコリと頭を下げると俺の腕を引っ張って歩き出した。

「ほら橘くん行くよ!屋上が鍵閉まってたから、裏庭のベンチで食べよ!」
「待て和奏……!」
抵抗する力も出ないまま、俺は和奏の圧倒的なペースに巻き込まれ廊下から連れ去られた。

背後で拓海が何かを言いたげに手を伸ばし、木村が目を見開いたまま固まっているのが見えた。
校舎の裏の誰も来ない木造のベンチ。

和奏はベンチに腰掛けると、風呂敷を広げ、箱の蓋を開けた。
フワリとお香のようにも思える、どこか懐かしくて香ばしい醤油と生姜の香りが広がる。

「……お前、これ、自分で作ったのか?」
俺はベンチの端に座り、警戒するように箱を見つめた。

「うん!朝早くから頑張っちゃった。はいお箸」
和奏は前と同じようにパチンと割り箸を割って俺に握らせてくる。