翌朝、目が覚めたとき、部屋にはもう彼女の姿はなかった。
パイプ椅子は元の位置に戻され、テーブルの上にはきれいに洗われたプラスチックの空容器だけが、ぽつんと残されている。
あの出汁の効いた肉じゃがの温もりも、驚くほど冷え切っていた彼女の指先の感触も、すべては真夏の夜が見せた都合のいい白昼夢だったのではないか。
そんな錯覚さえ覚えるほどの、いつもの静寂が部屋を支配していた。
けれど、俺の胃袋はあの温もりを記憶していた。
数日ぶりにまともな固形物を受け入れた身体は、皮肉なほどに軽かった。
死んだように天井を見つめるだけの昨日とは、明らかに何かが違っていた。
「……稼がなきゃ、な」
カサカサに乾いた声が、誰もいないリビングに響く。
和奏の言った通りだ。
生活保護の受給費用は、俺と詩織が文字通り最低限の文化的な生活を維持するためだけのもので、昏睡状態のままいつ目を覚ますかも分からない妹の将来的な先進医療や転院の費用を賄えるような額では到底ない。
俺はソファの上に転がっていた、画面の至る所にヒビの入ったスマートフォンを拾い上げた。
蜘蛛の巣状に割れたガラスの向こう。
検索欄に『高校生 バイト』『高収入』『日払い』と、泥をあさるような気持ちでキーワードを打ち込んでいく。
画面をスクロールするたびに、きらきらとした飲食店や、賑やかそうなコンビニの募集要項が流れていく。
だが、どれを見ても胸の奥がズキリと痛んだ。
「接客業なんて、できるわけがない」
今の俺の顔には、他人を不快にさせるような暗い陰が張り付いている。
愛想笑いの一つも作れない人間に、そんなバイトが務まるはずがなかった。
ならば、深夜の工場での仕分け作業か、あるいは人目に触れない解体工事の現場か。
ボロボロのスマホを睨みつけ、指先で画面を叩くように探していると、通知欄が不意に震えた。
登録した覚えのない、見知らぬアドレスからのメッセージ。
『橘くん、スマホばっかり見てると目が悪くなるよ。それより、今日の午後、ちょっと都会に出てこられない?駅前の、あの新しくできた大きなビルの一階にあるカフェで待ってるから。いいバイト、見つけといたよ!』
送り主の名はなかった。だけど、脳裏にあの屈屈のない、だけど不気味なほど冷たい指先を持つ少女の笑顔が浮かんだ。
「……なんで、俺のアドレスを知ってんだよ」
背筋に冷たいものが走る。彼女はただの他クラスの生徒ではない。ストーカーという言葉すら生ぬるい異常性だ。無視するべきだ。関わってはいけない。そう理性が叫んでいるのに、俺の指は、気づけば画面をタップしていた。
和奏の言っていた効率よく稼げるバイトという言葉が、今の俺にとって、悪魔の誘惑のように抗いがたい光を放っていたからだ。
――妹を救うためなら、悪魔に魂を売ったって構わない。
俺はクローゼットの奥から、数少ない私服の中から一番まともそうな黒いパーカーを引っ張り出し家を出た。
数ヶ月ぶりに乗る電車は、ひどく息が詰まった。
お盆前の時期ということもあり、車内は買い物に出かける家族連れや、楽しそうに笑い合う同世代の学生たちで溢れかえっていた。
彼らの鮮やかな私服や、弾けるような笑い声が、俺の着ている薄汚れた黒いパーカーに容赦なく「お前は異物だ」と突きつけてくるようだった。
世界にはこんなにも色があったのだと、眩暈がするような感覚の中で、俺はただ電車の床だけを見つめて耐えていた。
目的の駅に到着し、人の流れに押し出されるようにして改札を出る。
地方の静かな住宅街とは違い、ここは高いビルが林立し、ガラス張りの建物が夏の強い陽射しを乱反射させている都会だった。
駅前のロータリーを抜け、一際高くそびえ立つ商業ビルの向こうに、そのカフェは見つかった。全面ガラス張りで、天井が無駄に高い。お洒落なジャズの音が微かに外まで漏れ聞こえてくるような、俺のような人間が一番足を踏み入れてはいけない雰囲気の場所だった。
自動ドアが開き、涼しいエアコンの風と一緒に、香ばしい珈琲の香りが鼻腔をくすぐる。
「あ、橘くん! こっちこっち!」
店内の奥、窓際の席から、ブンブンと大きく手を振る人影があった。
和奏だった。
彼女は学校の制服ではなく、白いノースリーブのブラウスに、淡いデニムのスカートという驚くほど爽やかな私服姿だった。
その姿は、この洗練されたカフェの風景に、驚くほど自然に溶け込んでいる。
俺は周囲の目を盗むようにして、猫背のまま彼女の対面の席へと滑り込んだ。
和奏の前には、すでに半分ほど減ったストロベリーのフラペチーノが置かれており、ガラスの表面に結露した水滴がキラキラと光っている。
「本当に、来たんだね。無視されるかもって、ちょっとだけドキドキしちゃった」
和奏はストローをくわえたまま、悪戯っぽく目を細めて笑った。
「……お前、どうやって俺の部屋に入った。それに、連絡先はどこで手に入れたんだ。質問に答えるまで、バイトの話なんて聞かないからな」
俺は声を潜めながらも、威嚇するように彼女を睨みつけた。
だが、和奏は動じなかった。それどころか、困ったように首を傾げると、ふふっ、と小さく吹き出した。
「橘くんって、本当に真面目だね。そんなに怖い顔しなくても、私は橘くんの味方だよ?侵入経路?それは……秘密。女の子には色々あるんだよ。あ、それより注文しなよ。ここ、チョコバナナパフェがすっごく美味しいんだから。私の奢り!」
「いらない。用件だけ話せ」
「冷たいなぁ。じゃあ、これ、本題ね」
和奏は自分のトートバッグから、一冊の折りたたまれた情報誌と、手書きのメモ用紙を取り出した。
メモには、いくつかの住所と時給、そして仕事内容が驚くほど細かく書き込まれていた。
「橘くん、体格いいし、バスケやってたから体力あるでしょ? だから、普通のバイトじゃなくて、夜間の高級マンションの夜間フロント警備か高級フィットネスジムの夜間清掃・器具メンテナンスがいいと思うんだよね」
和奏は細い指先で、メモの項目をトントンと叩いた。
「……警備に、清掃?」
「そう。どっちも夜間だから時給がめちゃくちゃ高いの。それに、高級マンションのフロント警備なんて、基本的には座ってモニターを見てるか、夜回りで少し歩くだけ。フィットネスジムのメンテナンスも、一人で黙々と器具を拭くだけだから、人と話す必要がほとんどないでしょ。今の橘くんの誰とも話したくない貯金マシーン状態には、これ以上ないくらいピッタリだと思うんだ」
和奏の言葉は、驚くほど的を射ていた。
彼女が提示した時給は、俺がスマホで見ていた飲食店のそれよりも、はるかに破格の数字だった。
これなら、昼間は学校(籍だけはある状態だが)や詩織の面会に時間を割き、夜中に効率よく大金を稼ぐことができる。
「なんで……ここまでしてくれるんだよ」
俺は和奏の顔を、探るように見つめた。
「お前と俺は、ただの他クラスの同級生だろ。話したこともなかったはずだ。なのに、なんで俺のために部屋に惣菜を届けて、バイトまで探して……。可哀想な奴を助けて、満足したいだけの偽善か?」
尖った言葉が、俺の口から飛び出す。傷つけるための言葉。拒絶するための壁。だが、和奏はその壁を、実にあっけなく、そして優しく壊した。
「偽善だよ」
彼女は、あっさりと認めた。ストローから口を離し、真っ直ぐに、吸い込まれそうなほど大きくて綺麗な瞳で、俺を見つめてくる。
「私ね、橘くんが苦しんでるの、見てられないの。あの日……橘くんがバスケ部を辞めて、職員室から出てきたときの顔、私、見てたんだよ。まるで世界中の絶望を全部一人で背負い込んだみたいな、今にも消えちゃいおきそうな顔してた」
和奏の声から、先ほどまでのふざけたトーンが消えていた。
「私は、ただの通りすがりの親切な同級生。だけど雨に濡れている人をみつけたら自分の傘を翳してあげたくなるでしょ? 理由なんてそれだけだよ。橘くんがもう一度、心から笑えるようになるまで、私は何度でも君の部屋に行くし、何度でもお惣菜を届けるよ」
その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも重かった。
ただ、俺という存在の暗闇に、無理やり光を投げ込もうとする、圧倒的なまでのエゴだった。
「……勝手にしろ」
俺は視線をそらし、和奏から差し出されたメモを、ぎゅっと握りしめた。
その時、彼女の手が、また俺の指先に触れた。
あの日と同じだった。エアコンが効いた涼しいカフェのはずなのに、彼女の指先は、凍りつくような冷気を放っていた。まるで、生身の間の人間のそれとは思えないほど、冷たく、儚い。
「冷え性……なんだよな、お前」
俺の問いに、和奏は一瞬だけ、本当に一瞬だけ、ひどく寂しそうな、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめた。
だが、次の瞬間には、いつもの眩しい笑顔に戻っていた。
「うん! 万年氷みたいな冷え性なの。だからさ、橘くんがバイトしてたくさん稼いだら、今度は橘くんの奢りで、あったかいお鍋でも食べさせてね」
窓の外では、都会の冷たいアスファルトを、真夏のギラギラとした太陽が白く焼き尽くそうとしていた。
パイプ椅子は元の位置に戻され、テーブルの上にはきれいに洗われたプラスチックの空容器だけが、ぽつんと残されている。
あの出汁の効いた肉じゃがの温もりも、驚くほど冷え切っていた彼女の指先の感触も、すべては真夏の夜が見せた都合のいい白昼夢だったのではないか。
そんな錯覚さえ覚えるほどの、いつもの静寂が部屋を支配していた。
けれど、俺の胃袋はあの温もりを記憶していた。
数日ぶりにまともな固形物を受け入れた身体は、皮肉なほどに軽かった。
死んだように天井を見つめるだけの昨日とは、明らかに何かが違っていた。
「……稼がなきゃ、な」
カサカサに乾いた声が、誰もいないリビングに響く。
和奏の言った通りだ。
生活保護の受給費用は、俺と詩織が文字通り最低限の文化的な生活を維持するためだけのもので、昏睡状態のままいつ目を覚ますかも分からない妹の将来的な先進医療や転院の費用を賄えるような額では到底ない。
俺はソファの上に転がっていた、画面の至る所にヒビの入ったスマートフォンを拾い上げた。
蜘蛛の巣状に割れたガラスの向こう。
検索欄に『高校生 バイト』『高収入』『日払い』と、泥をあさるような気持ちでキーワードを打ち込んでいく。
画面をスクロールするたびに、きらきらとした飲食店や、賑やかそうなコンビニの募集要項が流れていく。
だが、どれを見ても胸の奥がズキリと痛んだ。
「接客業なんて、できるわけがない」
今の俺の顔には、他人を不快にさせるような暗い陰が張り付いている。
愛想笑いの一つも作れない人間に、そんなバイトが務まるはずがなかった。
ならば、深夜の工場での仕分け作業か、あるいは人目に触れない解体工事の現場か。
ボロボロのスマホを睨みつけ、指先で画面を叩くように探していると、通知欄が不意に震えた。
登録した覚えのない、見知らぬアドレスからのメッセージ。
『橘くん、スマホばっかり見てると目が悪くなるよ。それより、今日の午後、ちょっと都会に出てこられない?駅前の、あの新しくできた大きなビルの一階にあるカフェで待ってるから。いいバイト、見つけといたよ!』
送り主の名はなかった。だけど、脳裏にあの屈屈のない、だけど不気味なほど冷たい指先を持つ少女の笑顔が浮かんだ。
「……なんで、俺のアドレスを知ってんだよ」
背筋に冷たいものが走る。彼女はただの他クラスの生徒ではない。ストーカーという言葉すら生ぬるい異常性だ。無視するべきだ。関わってはいけない。そう理性が叫んでいるのに、俺の指は、気づけば画面をタップしていた。
和奏の言っていた効率よく稼げるバイトという言葉が、今の俺にとって、悪魔の誘惑のように抗いがたい光を放っていたからだ。
――妹を救うためなら、悪魔に魂を売ったって構わない。
俺はクローゼットの奥から、数少ない私服の中から一番まともそうな黒いパーカーを引っ張り出し家を出た。
数ヶ月ぶりに乗る電車は、ひどく息が詰まった。
お盆前の時期ということもあり、車内は買い物に出かける家族連れや、楽しそうに笑い合う同世代の学生たちで溢れかえっていた。
彼らの鮮やかな私服や、弾けるような笑い声が、俺の着ている薄汚れた黒いパーカーに容赦なく「お前は異物だ」と突きつけてくるようだった。
世界にはこんなにも色があったのだと、眩暈がするような感覚の中で、俺はただ電車の床だけを見つめて耐えていた。
目的の駅に到着し、人の流れに押し出されるようにして改札を出る。
地方の静かな住宅街とは違い、ここは高いビルが林立し、ガラス張りの建物が夏の強い陽射しを乱反射させている都会だった。
駅前のロータリーを抜け、一際高くそびえ立つ商業ビルの向こうに、そのカフェは見つかった。全面ガラス張りで、天井が無駄に高い。お洒落なジャズの音が微かに外まで漏れ聞こえてくるような、俺のような人間が一番足を踏み入れてはいけない雰囲気の場所だった。
自動ドアが開き、涼しいエアコンの風と一緒に、香ばしい珈琲の香りが鼻腔をくすぐる。
「あ、橘くん! こっちこっち!」
店内の奥、窓際の席から、ブンブンと大きく手を振る人影があった。
和奏だった。
彼女は学校の制服ではなく、白いノースリーブのブラウスに、淡いデニムのスカートという驚くほど爽やかな私服姿だった。
その姿は、この洗練されたカフェの風景に、驚くほど自然に溶け込んでいる。
俺は周囲の目を盗むようにして、猫背のまま彼女の対面の席へと滑り込んだ。
和奏の前には、すでに半分ほど減ったストロベリーのフラペチーノが置かれており、ガラスの表面に結露した水滴がキラキラと光っている。
「本当に、来たんだね。無視されるかもって、ちょっとだけドキドキしちゃった」
和奏はストローをくわえたまま、悪戯っぽく目を細めて笑った。
「……お前、どうやって俺の部屋に入った。それに、連絡先はどこで手に入れたんだ。質問に答えるまで、バイトの話なんて聞かないからな」
俺は声を潜めながらも、威嚇するように彼女を睨みつけた。
だが、和奏は動じなかった。それどころか、困ったように首を傾げると、ふふっ、と小さく吹き出した。
「橘くんって、本当に真面目だね。そんなに怖い顔しなくても、私は橘くんの味方だよ?侵入経路?それは……秘密。女の子には色々あるんだよ。あ、それより注文しなよ。ここ、チョコバナナパフェがすっごく美味しいんだから。私の奢り!」
「いらない。用件だけ話せ」
「冷たいなぁ。じゃあ、これ、本題ね」
和奏は自分のトートバッグから、一冊の折りたたまれた情報誌と、手書きのメモ用紙を取り出した。
メモには、いくつかの住所と時給、そして仕事内容が驚くほど細かく書き込まれていた。
「橘くん、体格いいし、バスケやってたから体力あるでしょ? だから、普通のバイトじゃなくて、夜間の高級マンションの夜間フロント警備か高級フィットネスジムの夜間清掃・器具メンテナンスがいいと思うんだよね」
和奏は細い指先で、メモの項目をトントンと叩いた。
「……警備に、清掃?」
「そう。どっちも夜間だから時給がめちゃくちゃ高いの。それに、高級マンションのフロント警備なんて、基本的には座ってモニターを見てるか、夜回りで少し歩くだけ。フィットネスジムのメンテナンスも、一人で黙々と器具を拭くだけだから、人と話す必要がほとんどないでしょ。今の橘くんの誰とも話したくない貯金マシーン状態には、これ以上ないくらいピッタリだと思うんだ」
和奏の言葉は、驚くほど的を射ていた。
彼女が提示した時給は、俺がスマホで見ていた飲食店のそれよりも、はるかに破格の数字だった。
これなら、昼間は学校(籍だけはある状態だが)や詩織の面会に時間を割き、夜中に効率よく大金を稼ぐことができる。
「なんで……ここまでしてくれるんだよ」
俺は和奏の顔を、探るように見つめた。
「お前と俺は、ただの他クラスの同級生だろ。話したこともなかったはずだ。なのに、なんで俺のために部屋に惣菜を届けて、バイトまで探して……。可哀想な奴を助けて、満足したいだけの偽善か?」
尖った言葉が、俺の口から飛び出す。傷つけるための言葉。拒絶するための壁。だが、和奏はその壁を、実にあっけなく、そして優しく壊した。
「偽善だよ」
彼女は、あっさりと認めた。ストローから口を離し、真っ直ぐに、吸い込まれそうなほど大きくて綺麗な瞳で、俺を見つめてくる。
「私ね、橘くんが苦しんでるの、見てられないの。あの日……橘くんがバスケ部を辞めて、職員室から出てきたときの顔、私、見てたんだよ。まるで世界中の絶望を全部一人で背負い込んだみたいな、今にも消えちゃいおきそうな顔してた」
和奏の声から、先ほどまでのふざけたトーンが消えていた。
「私は、ただの通りすがりの親切な同級生。だけど雨に濡れている人をみつけたら自分の傘を翳してあげたくなるでしょ? 理由なんてそれだけだよ。橘くんがもう一度、心から笑えるようになるまで、私は何度でも君の部屋に行くし、何度でもお惣菜を届けるよ」
その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも重かった。
ただ、俺という存在の暗闇に、無理やり光を投げ込もうとする、圧倒的なまでのエゴだった。
「……勝手にしろ」
俺は視線をそらし、和奏から差し出されたメモを、ぎゅっと握りしめた。
その時、彼女の手が、また俺の指先に触れた。
あの日と同じだった。エアコンが効いた涼しいカフェのはずなのに、彼女の指先は、凍りつくような冷気を放っていた。まるで、生身の間の人間のそれとは思えないほど、冷たく、儚い。
「冷え性……なんだよな、お前」
俺の問いに、和奏は一瞬だけ、本当に一瞬だけ、ひどく寂しそうな、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめた。
だが、次の瞬間には、いつもの眩しい笑顔に戻っていた。
「うん! 万年氷みたいな冷え性なの。だからさ、橘くんがバイトしてたくさん稼いだら、今度は橘くんの奢りで、あったかいお鍋でも食べさせてね」
窓の外では、都会の冷たいアスファルトを、真夏のギラギラとした太陽が白く焼き尽くそうとしていた。



