陸上部のエースより速い帰宅部ですが、恋からは逃げきれないようです

週明け。

昇降口へ行く途中、宏弥に高城とのことを話した。

高城に、練習はもう終わりだと言ったこと。勝手に決められたのが腹立たしかったこと。あいつが何を考えているのか、結局よく分からなかったこと。

宏弥は口を挟まず、弓袋を肩にかけて歩いていた。

全部聞き終えると、少し考えてから言う。

「それ、ちゃんと言ったほうがいいんじゃない?」

「言った。練習は終わりだって」

「それは怒った勢いで言っただけでしょ」

余計なところだけ鋭い。

「慧介が悪かったって話じゃなくて、侑ちゃんがこれからどうしたいか」

「それが分からないから困ってるんだろ」

「分からないってことも、そのまま言えばいいじゃん」

校舎の角を曲がると、風が吹き抜けた。

「勝手に答えを決められるのが嫌だったんでしょ。だったら、まだ決められないことも含めて、自分で決めるって言わないと」

宏弥は肩にかかった弓袋を持ち直すように、わずかに揺した。

「的を見ないで怒ってても当たらないよ? 慧介本人に言わないと」

「……」

「弓は離したあとも、矢が届くまで見る。言葉も同じ。投げて終わりにしたら、どこへ刺さったか分かんない」

「たまに全国優勝者みたいなこと言うな」

「実際そうなんだけど」

宏弥は笑った。

「矢だって、放しただけじゃ終わりじゃないからね。どこに届いたかまで見ないと」

「結局、弓の話にするんだな」

「分かりやすいでしょ」

分かりやすいのが、少し腹立たしい。

高城に何を言いたいのか、まだうまく言葉にはできない。

けれど、あのままで終わらせたくないことだけは分かった。



翌朝、昇降口の掲示板に新しい紙が貼られていた。

陸上競技県大会出場者。

百メートル、高城慧介。来週日曜、午後二時。県総合運動場。

誰かに誘われたわけではない。八代も、有川も、宏弥も、見に行けとは言わなかった。

俺はスマホを出し、日程を予定へ入れた。

走りたいのかは、まだ分からない。
陸上部に入るかなんて、もっと分からない。

でも、高城が走るところを見たい。

そのあと、あいつに言いたい。俺が分からないまま考えることも、走るか走らないかを決めることも、全部俺のものだと。

そして、もしもう一度隣を走るなら、それも俺が選ぶ。

来週の日曜、県総合運動場へ行く。

誰にも頼まれていない。

俺が、そうしたいからだ。