食べ終えると、桐生さんは何でもないことのように尋ねてきた。
「で、どうなの? 土岐とは」
「え!」
飲んでいたお茶を吹き出しそうになって、むせる。
「ごめん。いや、もう言ったのかなって、気になってさ」
にこりと爽やかな笑顔を向けられ、訝しげに見つめてしまう。
いったい、どんな気持ちで聞いてるんだろう。振られたばかりの相手に、そんなことを。
「ん? どうしたの?」
不思議そうに問われ、はっとする。とりあえず、今は質問に答えないと。
どうせ私には桐生さんの考えなんて読めない。
「いえ……まだです」
正直に答えた。昨日の今日でそんな余裕はない。早く言わなくちゃ、とは思ってるけど。
もじもじしていると、彼がくすりと笑い、少しあきれた顔で言う。
「そっか。まあ早く言ってやってよ、きっと待ってるからさ。
っていうか、ずーっと前からだけど。あいつ、望月さんのこと好きだもんなあ」
あまりにもあっけらかんと言われて、唖然とした。
「え、あの……桐生さんは土岐くんの気持ち、知ってたんですか?」
「うん、気づいてたよ。見てればわかる、土岐ってわかりやすいし」
何かを思い出すように笑う桐生さんを、目を瞬かせながら見つめる。
「土岐はさあ、たぶんだけど。
俺よりずっと前から望月さんのこと、好きだったんじゃないかな。勘だけど」
さらに衝撃的な言葉が飛び出して、さすがの私もそれは信じられなかった。
「なんでそんなことがわかるんですか?」
「うーん、だってさ。
前の部署にいたとき、俺が君のことを『いいなあ』って話したら、すごく動揺したんだよ。
その反応を見て、ピンときた」
桐生さんがにやりと笑う。
また衝撃の事実が増えた……。ぽかんと口を開けたまま、彼を見つめた。
そっか。二人は同じ部署だった。今は桐生さんが企画開発部だけど、その前は営業。土岐くんと同じだ。
「俺のことは気にしなくていいよ。もう、あきらめるって決めたから」
優しく微笑まれて、どう返せばいいのかわからず口をもごもごさせる。
桐生さんは、そっと私の頭を撫でた。
「そんな顔しないで。
望月さんと土岐は、お似合いだと思うよ……じゃあ」
そう言って、彼は席を立った。
「あ……」
何も言えなかった。
だって今さら、私に何が言える?
最後に向けられた微笑みは、ほんのりと寂しさが混じっていたような気がする。
遠ざかっていく背中を見つめながら、ふとさっきの話を思い返す。
……土岐くんが、そんなに前から私のことを?
でも、それって。
自分の気持ちを隠したまま、相談に乗ってくれて、寄り添って、励ましてくれていたってことだよね。
信じられない。ほんと、お人よしなんだから。
でも、そんな土岐くんが、たまらなく愛おしい。
私は席を立ち、食堂を出て人の少ない場所を探した。
そして息を整え、意を決して電話をかける。
コール音がもどかしい。早くこの気持ちを伝えたくて、しかたがなかった。
『もしもし』
声が耳に届いた瞬間、鼓動が速まった。
「あ、土岐くん? 望月です」
『うん……』
少しかたい声。緊張しているのかな……って、私もドキドキしてるけど。
「話したいことがあるんだ。もしよかったら、今日の夜に会えないかな?」
少しの沈黙のあと、
『わかった』
短い返事が返ってきた。
* * *
帰宅した私は、そわそわしながら土岐くんを待っていた。
そういえば、何時に来るのか約束していなかったな。いつ頃になるんだろう。
ゆっくり話がしたかった。
夜だし、店で話せるような内容でもない。だから、どちらかの家で話すことになった。
さすがに彼の家に行くわけにもいかず、うちに来てもらうことになったんだけど。
緊張する。家に招くのは初めてだし、急いで掃除したけど大丈夫かな。
っていうか、それより、部屋に二人きりなんだよね……。
なに考えてるのよ。彼はそんな変なことしたりしないんだから。とっても優しくて、紳士的なんだから。
それよりも。告白よ、告白。
想いを伝えなくちゃ。それが目的でしょ。
一度、ゆっくり深呼吸する。さっきから何も喉を通らない。気晴らしにお風呂に入りたいけど、土岐くんが来たら困るし。
うーん、電話してみようかな。
そう思ってスマホを手にするけれど、指が小さく震えてしまう。
ど、どうしよう。めちゃくちゃ緊張する。告白って、こんなに大変なことなんだ。
桐生さんも土岐くんも、こんな思いを抱えながら告白してくれたんだよね。
恋のパワーって、すごいなあ。
そんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。
き、きた!
インターホンのモニターに目を向けると、土岐くんが映っていた。
私は慌てて玄関へ向かい、扉を開ける。
「ど、どうも……」
照れたように笑うその顔が可愛くて、胸がきゅっとなる。
「う、うん。どうぞ、あがって」
「おじゃまします」
彼はどこかぎこちない動きで、ゆっくりとドアの内側へ入ってくる。
思えば、部屋に男性が来るのは初めてだった。
桐生さんでさえ、まだ来たことなかったな。
男性と部屋にふたりきり。今さらこの事態の重大さを実感する。
もしかして私、めちゃくちゃ大胆なことをしてしまったの?
やばい。心臓がうるさい。
目をくるくるさせていると、土岐くんがふっと笑った。
「安心して。僕のことは、日本一安全な男だと思ってくれていいよ。
君を傷つけるようなことは、絶対にしないから」
優しく微笑みながら、そう諭される。
はは、ぜんぶ見抜かれていた。
そうだよね、彼が何かするわけないじゃない。何を今さら焦ってるんだか。
ふっと緊張が解ける。私が笑うと、彼もふわりと笑った。
「で、どうなの? 土岐とは」
「え!」
飲んでいたお茶を吹き出しそうになって、むせる。
「ごめん。いや、もう言ったのかなって、気になってさ」
にこりと爽やかな笑顔を向けられ、訝しげに見つめてしまう。
いったい、どんな気持ちで聞いてるんだろう。振られたばかりの相手に、そんなことを。
「ん? どうしたの?」
不思議そうに問われ、はっとする。とりあえず、今は質問に答えないと。
どうせ私には桐生さんの考えなんて読めない。
「いえ……まだです」
正直に答えた。昨日の今日でそんな余裕はない。早く言わなくちゃ、とは思ってるけど。
もじもじしていると、彼がくすりと笑い、少しあきれた顔で言う。
「そっか。まあ早く言ってやってよ、きっと待ってるからさ。
っていうか、ずーっと前からだけど。あいつ、望月さんのこと好きだもんなあ」
あまりにもあっけらかんと言われて、唖然とした。
「え、あの……桐生さんは土岐くんの気持ち、知ってたんですか?」
「うん、気づいてたよ。見てればわかる、土岐ってわかりやすいし」
何かを思い出すように笑う桐生さんを、目を瞬かせながら見つめる。
「土岐はさあ、たぶんだけど。
俺よりずっと前から望月さんのこと、好きだったんじゃないかな。勘だけど」
さらに衝撃的な言葉が飛び出して、さすがの私もそれは信じられなかった。
「なんでそんなことがわかるんですか?」
「うーん、だってさ。
前の部署にいたとき、俺が君のことを『いいなあ』って話したら、すごく動揺したんだよ。
その反応を見て、ピンときた」
桐生さんがにやりと笑う。
また衝撃の事実が増えた……。ぽかんと口を開けたまま、彼を見つめた。
そっか。二人は同じ部署だった。今は桐生さんが企画開発部だけど、その前は営業。土岐くんと同じだ。
「俺のことは気にしなくていいよ。もう、あきらめるって決めたから」
優しく微笑まれて、どう返せばいいのかわからず口をもごもごさせる。
桐生さんは、そっと私の頭を撫でた。
「そんな顔しないで。
望月さんと土岐は、お似合いだと思うよ……じゃあ」
そう言って、彼は席を立った。
「あ……」
何も言えなかった。
だって今さら、私に何が言える?
最後に向けられた微笑みは、ほんのりと寂しさが混じっていたような気がする。
遠ざかっていく背中を見つめながら、ふとさっきの話を思い返す。
……土岐くんが、そんなに前から私のことを?
でも、それって。
自分の気持ちを隠したまま、相談に乗ってくれて、寄り添って、励ましてくれていたってことだよね。
信じられない。ほんと、お人よしなんだから。
でも、そんな土岐くんが、たまらなく愛おしい。
私は席を立ち、食堂を出て人の少ない場所を探した。
そして息を整え、意を決して電話をかける。
コール音がもどかしい。早くこの気持ちを伝えたくて、しかたがなかった。
『もしもし』
声が耳に届いた瞬間、鼓動が速まった。
「あ、土岐くん? 望月です」
『うん……』
少しかたい声。緊張しているのかな……って、私もドキドキしてるけど。
「話したいことがあるんだ。もしよかったら、今日の夜に会えないかな?」
少しの沈黙のあと、
『わかった』
短い返事が返ってきた。
* * *
帰宅した私は、そわそわしながら土岐くんを待っていた。
そういえば、何時に来るのか約束していなかったな。いつ頃になるんだろう。
ゆっくり話がしたかった。
夜だし、店で話せるような内容でもない。だから、どちらかの家で話すことになった。
さすがに彼の家に行くわけにもいかず、うちに来てもらうことになったんだけど。
緊張する。家に招くのは初めてだし、急いで掃除したけど大丈夫かな。
っていうか、それより、部屋に二人きりなんだよね……。
なに考えてるのよ。彼はそんな変なことしたりしないんだから。とっても優しくて、紳士的なんだから。
それよりも。告白よ、告白。
想いを伝えなくちゃ。それが目的でしょ。
一度、ゆっくり深呼吸する。さっきから何も喉を通らない。気晴らしにお風呂に入りたいけど、土岐くんが来たら困るし。
うーん、電話してみようかな。
そう思ってスマホを手にするけれど、指が小さく震えてしまう。
ど、どうしよう。めちゃくちゃ緊張する。告白って、こんなに大変なことなんだ。
桐生さんも土岐くんも、こんな思いを抱えながら告白してくれたんだよね。
恋のパワーって、すごいなあ。
そんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。
き、きた!
インターホンのモニターに目を向けると、土岐くんが映っていた。
私は慌てて玄関へ向かい、扉を開ける。
「ど、どうも……」
照れたように笑うその顔が可愛くて、胸がきゅっとなる。
「う、うん。どうぞ、あがって」
「おじゃまします」
彼はどこかぎこちない動きで、ゆっくりとドアの内側へ入ってくる。
思えば、部屋に男性が来るのは初めてだった。
桐生さんでさえ、まだ来たことなかったな。
男性と部屋にふたりきり。今さらこの事態の重大さを実感する。
もしかして私、めちゃくちゃ大胆なことをしてしまったの?
やばい。心臓がうるさい。
目をくるくるさせていると、土岐くんがふっと笑った。
「安心して。僕のことは、日本一安全な男だと思ってくれていいよ。
君を傷つけるようなことは、絶対にしないから」
優しく微笑みながら、そう諭される。
はは、ぜんぶ見抜かれていた。
そうだよね、彼が何かするわけないじゃない。何を今さら焦ってるんだか。
ふっと緊張が解ける。私が笑うと、彼もふわりと笑った。



