恋を知らない私への処方箋――エリート上司と癒やし系同僚がくれる、ほんものの愛

 その夜、月明かりが差し込む部屋で
 私はベッドの上に横になったまま眠れずにいた。

 淡くやさしい光をぼんやり見つめながらため息をこぼす。

 ……眠れるわけないじゃん。だって、告白されたんだよ。

 いや、まあ桐生さんからもされてるけど。でも、なんか違う。

 桐生さんのときは、それはもう嬉しくてドキドキして、舞い上がって。
 初めての経験だったから、気持ちの高ぶりがすごくて落ち着く暇なんてなかった。

 でも、今回はなんていうか。
 じんわり広がる感じというか、安心感がある。うまく言葉にできないけど。

 素直に嬉しかった。ドキドキがないわけじゃないし、ときめきもある。でもそれ以上にすとんと受けとめられた。

 桐生さんのときには、感じたことのない感覚だった。

 ……あれ? これって、どっちなんだろう。好きなのってどっちだ?

 もちろん、桐生さんのことも好き。でも、土岐くんのことだって負けないくらい好き。

 彼といると落ち着くし安心できる。ありのままでいられる気がして無理をしなくていいし、肩を張らずに対等に向き合える。
 気づくといつも自然に笑っている。

 桐生さんは、あんなに素敵な人はいないと思う。

 格好良くて仕事もできて女性への接し方もスマートで。正直言って、完璧だ。
 桐生さんから好きって言われたら、たいていの女性は喜ぶはず。

 そんな人から告白されて、付き合っているなんて。
 奇跡みたいなもので私は幸せ者なんだと思う。すごく光栄なことなんだから。
 ……って。なんだか自分に言い聞かせてるみたい。

 前から少しは思っていた。私、無理してる?

 初めての恋。初めての恋人。そんな状況に、ただ舞い上がっているだけなのかな。

 もし、どっちかを選ばなきゃいけないとしたら。私は……。


 * * *


 朝が来た。
 重い瞼をなんとか開けてむくっと起き上がる。そのままベッドの上でぼーっと前を見つめた。
 ほとんど眠れなかった。でも不思議と気持ちは落ち着いていた。

 私……土岐くんと一緒にいたい。それが答えだった。

 もちろん、桐生さんのことが好きなのは本当だし、傍にいたいとも思う。
 でも、ずっと一緒にいたいかと聞かれると、素直にうなずくことができなかった。

 緊張して疲れちゃう。なによりドキドキしすぎてきっともたない。
 気を遣ってばかりで余裕がなくなりそう。
 好きっていう気持ちだけでは続けていけない。

 それに比べて、土岐くんは傍にいても平気だった。
 彼といると自然体でいられて、気負わずに笑っていられる。
 もちろんドキドキはする。でも、それは激しいものじゃなくて、ほんわかした感じ。

 土岐くんが笑うと、ほっとする。
 彼となら、ずっと一緒にいるのも苦じゃない。そう思えた。

 そして何より。もしどちらかと永遠に会えなくなるとしたら。
 土岐くんと会えない方が辛い。

 ……これはもう、そういうことだよね。恋愛音痴の私にもさすがにわかった。

 桐生さんのことでいっぱいいっぱいだったから気づかなかったけど。
 私の中で、土岐くんの存在は、いつの間にか大きなものに育っていた。

 ほんと、私にはもったいない状況だよ。

 桐生さんだって、とっても素敵な男性なのに。
 少し前の私が今の状況を知ったら、きっと驚いて腰を抜かすよ。

 ふっと息をつき目を閉じた。

 ひとつ深呼吸して、私は朝の準備に取り掛かった。