まだ唇に彼の熱が残っている。
恥ずかしくて顔が上げられない。私はさっきからうつむいたまま黙り込んでいた。
帰りの車内はとても静かだった。カーステレオから流れる音楽だけが、かすかに耳に届く。
桐生さんはいったい何を考えているんだろう。
さっぱり見当もつかないけれど、もしも私と同じ気持ちなら、嬉しい。
しばらくして、家からほど近いコンビニに停車した。最初に待ち合わせをした場所だ。
ふっと緊張がやわらぐと同時に、ほんのりとした寂しさが胸に広がった。
もうお別れなんだ。
「桐生さん、今日はありがとうございました」
頭を下げて顔を上げた瞬間、すぐ目の前に桐生さんの顔があった。
息を呑む間もなく、彼が私に口づけた。
「っ……」
不意打ちに驚き、息が止まる。
さっきの優しいキスとは違う。感情をぶつけるみたいな激しいものだった。
心臓が破裂しそうで、頭が真っ白になる。とっさに軽く押し返した。
「あ、あの、ちょっと、ま……」
いったん唇が離れたのに、すぐにまた塞がれてしまう。
体がじんわりと火照り、口づけはさらに深くなる。初めての感覚に身をよじるけど、彼は身を引く気配がない。
「んっ……」
抵抗するつもりで腕を伸ばすが軽く掴まれてしまった。
そのままシートが倒されて、仰向けになる。桐生さんが覆いかぶさるように身を寄せてきた。
「ま、待って」
「好きだよ、花音」
ドクン。名前を呼ばれると、体の力が抜けてしまう。
甘く痺れるような感覚はあるけど、急すぎて気持ちがついていかない。
ふいに柔らかな感触が首筋に触れた。
「あっ」
ど、どうしよう。まだ心の準備が。
「い、いや!」
思わず声が出た。桐生さんの動きがぴたりと止まる。
彼の瞳が悲しそうに揺れた。
「あ、あの、私、まだ……」
躊躇いを見せると、彼は押し黙り、ゆっくりと口を開いた。
「わかった」
それだけ言って、桐生さんは眉をひそめた。
ズキッと胸が痛む。
あきれた? 怒った?
桐生さんはすっと身を引いた。
ゆっくり起き上がって、そっと彼を見る。桐生さんは下を向いたまま黙り込んでいた。
「き、桐生さん……」
「うん。ごめん。もういいから」
こちらを見ない。少し冷めたようなその口調に、血の気がさっと引いた。
だ、だめだ。
嫌われた。
そのあと、桐生さんは何も話さなくなった。
気まずい空気に耐えきれず、私は「じゃあ、帰ります。さようなら」とだけ言って車を飛び出した。
逃げるように走って、家まで帰った。
荒い息を整えながら部屋の真ん中で立ち尽くす。
絶対嫌われた。呆れてたよね。「ごめん。もういい」って、そういう意味だよね?
私、振られたの?
いや、まだそうと決まったわけじゃない。別れようって言われたわけでもない。……でも。
私はその場でひとり膝を抱えた。
やっぱり私じゃ桐生さんを満足させることなんてできないんだ。
似合ってないってことは最初からわかってた。それでも、自分なりに彼にとっていい彼女でいようって思って、頑張ったつもりだった。
でもこんな彼女、嫌だよね。あんなふうに拒絶して。
「はぁ、どうしたらいいの?」
頭の中がもやもやして、何も考えられない。
ふと、土岐くんの顔が浮かんだ。
まただ。最近よく彼のことを考えてしまう。
そうだ、また彼に相談をって……さすがにそれは無理か。
「はは、私なに考えてるんだろう」
悩みは尽きることなく、夜は更けていった。
恥ずかしくて顔が上げられない。私はさっきからうつむいたまま黙り込んでいた。
帰りの車内はとても静かだった。カーステレオから流れる音楽だけが、かすかに耳に届く。
桐生さんはいったい何を考えているんだろう。
さっぱり見当もつかないけれど、もしも私と同じ気持ちなら、嬉しい。
しばらくして、家からほど近いコンビニに停車した。最初に待ち合わせをした場所だ。
ふっと緊張がやわらぐと同時に、ほんのりとした寂しさが胸に広がった。
もうお別れなんだ。
「桐生さん、今日はありがとうございました」
頭を下げて顔を上げた瞬間、すぐ目の前に桐生さんの顔があった。
息を呑む間もなく、彼が私に口づけた。
「っ……」
不意打ちに驚き、息が止まる。
さっきの優しいキスとは違う。感情をぶつけるみたいな激しいものだった。
心臓が破裂しそうで、頭が真っ白になる。とっさに軽く押し返した。
「あ、あの、ちょっと、ま……」
いったん唇が離れたのに、すぐにまた塞がれてしまう。
体がじんわりと火照り、口づけはさらに深くなる。初めての感覚に身をよじるけど、彼は身を引く気配がない。
「んっ……」
抵抗するつもりで腕を伸ばすが軽く掴まれてしまった。
そのままシートが倒されて、仰向けになる。桐生さんが覆いかぶさるように身を寄せてきた。
「ま、待って」
「好きだよ、花音」
ドクン。名前を呼ばれると、体の力が抜けてしまう。
甘く痺れるような感覚はあるけど、急すぎて気持ちがついていかない。
ふいに柔らかな感触が首筋に触れた。
「あっ」
ど、どうしよう。まだ心の準備が。
「い、いや!」
思わず声が出た。桐生さんの動きがぴたりと止まる。
彼の瞳が悲しそうに揺れた。
「あ、あの、私、まだ……」
躊躇いを見せると、彼は押し黙り、ゆっくりと口を開いた。
「わかった」
それだけ言って、桐生さんは眉をひそめた。
ズキッと胸が痛む。
あきれた? 怒った?
桐生さんはすっと身を引いた。
ゆっくり起き上がって、そっと彼を見る。桐生さんは下を向いたまま黙り込んでいた。
「き、桐生さん……」
「うん。ごめん。もういいから」
こちらを見ない。少し冷めたようなその口調に、血の気がさっと引いた。
だ、だめだ。
嫌われた。
そのあと、桐生さんは何も話さなくなった。
気まずい空気に耐えきれず、私は「じゃあ、帰ります。さようなら」とだけ言って車を飛び出した。
逃げるように走って、家まで帰った。
荒い息を整えながら部屋の真ん中で立ち尽くす。
絶対嫌われた。呆れてたよね。「ごめん。もういい」って、そういう意味だよね?
私、振られたの?
いや、まだそうと決まったわけじゃない。別れようって言われたわけでもない。……でも。
私はその場でひとり膝を抱えた。
やっぱり私じゃ桐生さんを満足させることなんてできないんだ。
似合ってないってことは最初からわかってた。それでも、自分なりに彼にとっていい彼女でいようって思って、頑張ったつもりだった。
でもこんな彼女、嫌だよね。あんなふうに拒絶して。
「はぁ、どうしたらいいの?」
頭の中がもやもやして、何も考えられない。
ふと、土岐くんの顔が浮かんだ。
まただ。最近よく彼のことを考えてしまう。
そうだ、また彼に相談をって……さすがにそれは無理か。
「はは、私なに考えてるんだろう」
悩みは尽きることなく、夜は更けていった。
