日曜日。
私は鏡の前でひとり悶々としていた。
映る自分を見つめながら、手に取った服を次々と体にあてていく。
「これも違う。うーん、これも可愛くない」
ぽいとそれを放り投げ、また新しい一枚を引っ張り出す。
いったい何着試したのか、もうわからなかった。
……ろくな服がない。
床に散らばった服を見下ろすと地味な色合いや無難すぎるデザインのものばかり。
そりゃそうよ。
今までデートなんてしたことないし、彼氏がいたこともなかった。
お洒落を頑張ろうなんて思ったこともないし、男性の好みを考えて服を選んだことなんて、もちろんない。
ひしひしと感じる。
私って、センスないよね。
今どき流行りの服? そんなものは持っていない。
それどころか、なにが流行っているのかさえよくわかっていなかった。
桐生さんはきっと今風で素敵な格好でやってくるんだろう。
私の姿を見て、がっかりされたらどうしよう。
ああ。でも、今さら買いに行く時間もない。
待ち合わせの時間まで、あと三十分。
どうする?
私は完全に追い詰められていた。
結局、手持ちの中でいちばん「女性らしい」と思えた淡い色のブラウスと紺のフレアスカートを選ぶ。
それらを身に着け、もう一度鏡の前に立った。
うん、まあまあじゃない?
そう自分に言い聞かせて、なんとか納得する。
髪はどうしようかな。せめて髪型だけでもちゃんとしたい。大人なんだし、ここは色っぽくまとめ髪……?
くるくると髪をまとめ、バレッタで留める。前に勢いで買ったものだけど、ちょうどよかったかも。
ふと時計を見ると、かなり時間が迫っていた。
「やばっ、もう出ないと」
ばたばたと出かける用意をして、私は家を飛び出した。
待ち合わせは、私のマンションからほど近い場所にあるコンビニだった。
桐生さんが車で迎えに来てくれる約束だ。わざわざいいって言ったんだけど結局、押し切られてしまった。
速まる鼓動を抑えつつ足を早める。コンビニに辿り着くと、息を整える間もなく辺りを見回した。
――いた。
目が釘付けになる。
だって遠くから見ても格好いいんだもん。誰よりも光り輝いて見えてしまう。
彼は車に寄りかかっていて、こちらに気づくと軽く手を振ってくれた。その仕草に胸が弾み、私は急いで駆け寄っていった。
「お、お待たせしました」
なんだか恥ずかしくて、まともに顔を見られない。
「望月さん……」
桐生さんがつぶやく。
顔を上げると、そこには爽やかな笑顔と優しい眼差しがあった。
「いつもと雰囲気ちがうね。可愛いよ」
にこりと微笑まれて、心臓が暴れだす。
「い、いえ! そんな……ありがとうございます」
めちゃくちゃ嬉しい。
……お世辞かもしれないけど。
そっと彼を見つめる。
白いシャツに淡い色のジャケット、すっきりしたパンツ姿。まるで雑誌から抜け出してきたみたいだった。
うっとり目を奪われていると、彼がふっと笑う。
「どうしたの?」
「いえ……あの、桐生さんも素敵です」
顔が、熱い。
「ありがとう」
彼の顔が近づき、そのまま頬にやわらかな感触が触れた――。
「ふぇっ」
驚いて変な声が出てしまう。い、今、ほっぺにちゅうされた。
目をまん丸にして見つめると、桐生さんはくすりと笑った。
「ははっ、やっぱり可愛い。さ、行こうか。どうぞ乗って」
そう言って、助手席のドアを開けてくれる。
「し、失礼します」
車に乗り込むと、ふわりといい匂いが鼻をかすめた。
これは、車の匂い?
それとも……。
「どうかした?」
運転席の桐生さんが問いかける。
「え? あ、すみません」
恥ずかしい。なにやってんだ、私。
「いや、あやまらないで。どこに行こうか。少しドライブでもする?」
「は、はい」
き、緊張する。
彼と会ってからずっと精一杯で、身体も気持ちもどうしようもなく固かった。
それを、彼はわかっているみたいだった。
「そんなに緊張しないで……。まずはドライブしてからお昼にしよう。そのあと映画って思ってるんだけど、どうかな」
「あ、それでいいです」
小さくうなずくと、桐生さんは優しく微笑んだ。
私は鏡の前でひとり悶々としていた。
映る自分を見つめながら、手に取った服を次々と体にあてていく。
「これも違う。うーん、これも可愛くない」
ぽいとそれを放り投げ、また新しい一枚を引っ張り出す。
いったい何着試したのか、もうわからなかった。
……ろくな服がない。
床に散らばった服を見下ろすと地味な色合いや無難すぎるデザインのものばかり。
そりゃそうよ。
今までデートなんてしたことないし、彼氏がいたこともなかった。
お洒落を頑張ろうなんて思ったこともないし、男性の好みを考えて服を選んだことなんて、もちろんない。
ひしひしと感じる。
私って、センスないよね。
今どき流行りの服? そんなものは持っていない。
それどころか、なにが流行っているのかさえよくわかっていなかった。
桐生さんはきっと今風で素敵な格好でやってくるんだろう。
私の姿を見て、がっかりされたらどうしよう。
ああ。でも、今さら買いに行く時間もない。
待ち合わせの時間まで、あと三十分。
どうする?
私は完全に追い詰められていた。
結局、手持ちの中でいちばん「女性らしい」と思えた淡い色のブラウスと紺のフレアスカートを選ぶ。
それらを身に着け、もう一度鏡の前に立った。
うん、まあまあじゃない?
そう自分に言い聞かせて、なんとか納得する。
髪はどうしようかな。せめて髪型だけでもちゃんとしたい。大人なんだし、ここは色っぽくまとめ髪……?
くるくると髪をまとめ、バレッタで留める。前に勢いで買ったものだけど、ちょうどよかったかも。
ふと時計を見ると、かなり時間が迫っていた。
「やばっ、もう出ないと」
ばたばたと出かける用意をして、私は家を飛び出した。
待ち合わせは、私のマンションからほど近い場所にあるコンビニだった。
桐生さんが車で迎えに来てくれる約束だ。わざわざいいって言ったんだけど結局、押し切られてしまった。
速まる鼓動を抑えつつ足を早める。コンビニに辿り着くと、息を整える間もなく辺りを見回した。
――いた。
目が釘付けになる。
だって遠くから見ても格好いいんだもん。誰よりも光り輝いて見えてしまう。
彼は車に寄りかかっていて、こちらに気づくと軽く手を振ってくれた。その仕草に胸が弾み、私は急いで駆け寄っていった。
「お、お待たせしました」
なんだか恥ずかしくて、まともに顔を見られない。
「望月さん……」
桐生さんがつぶやく。
顔を上げると、そこには爽やかな笑顔と優しい眼差しがあった。
「いつもと雰囲気ちがうね。可愛いよ」
にこりと微笑まれて、心臓が暴れだす。
「い、いえ! そんな……ありがとうございます」
めちゃくちゃ嬉しい。
……お世辞かもしれないけど。
そっと彼を見つめる。
白いシャツに淡い色のジャケット、すっきりしたパンツ姿。まるで雑誌から抜け出してきたみたいだった。
うっとり目を奪われていると、彼がふっと笑う。
「どうしたの?」
「いえ……あの、桐生さんも素敵です」
顔が、熱い。
「ありがとう」
彼の顔が近づき、そのまま頬にやわらかな感触が触れた――。
「ふぇっ」
驚いて変な声が出てしまう。い、今、ほっぺにちゅうされた。
目をまん丸にして見つめると、桐生さんはくすりと笑った。
「ははっ、やっぱり可愛い。さ、行こうか。どうぞ乗って」
そう言って、助手席のドアを開けてくれる。
「し、失礼します」
車に乗り込むと、ふわりといい匂いが鼻をかすめた。
これは、車の匂い?
それとも……。
「どうかした?」
運転席の桐生さんが問いかける。
「え? あ、すみません」
恥ずかしい。なにやってんだ、私。
「いや、あやまらないで。どこに行こうか。少しドライブでもする?」
「は、はい」
き、緊張する。
彼と会ってからずっと精一杯で、身体も気持ちもどうしようもなく固かった。
それを、彼はわかっているみたいだった。
「そんなに緊張しないで……。まずはドライブしてからお昼にしよう。そのあと映画って思ってるんだけど、どうかな」
「あ、それでいいです」
小さくうなずくと、桐生さんは優しく微笑んだ。
