1ミニッツ短編集ボックス

 人は眠ると夢を見る。それは科学的に解明されつつあるらしいけれど、私はどうにもその説明だけでは物足りない。
 そんな理屈ではこぼれ落ちてしまう“何か”が、きっと夢にはある。

 だから私は、こう考えることにしている。

 ――眠っているあいだ、人は重力から解放される。

 布団の上に横になっているはずなのに、自分の体重をまったく感じない。
 苦しくも重くもない。ただ、ふわりと意識だけがどこかに漂っていく。

 ならきっと、人は寝ている間だけ宇宙に行っているのだ。

 世界中の真夜中に、人々は小さな彗星みたいに暗闇を渡って、同じ空間で出会う。
 そこで誰かとすれ違い、少し話をして、たまたま隣に立った人の気配が、そのまま夢という形になって映るのだ。

 だから、時間帯が違えば決して会えない相手もいる。
 地球の裏側の人とは、私の睡眠リズムのままでは一生交わらない。

 ――けれど。

 どうしても眠れない夜がある。
 悩みを抱えた夜。悲しみに沈む夜。明日が楽しみすぎて胸が騒ぐ夜。

 そんな夜のあと、ふいに昼間に眠気が襲ってくる。
 うとうとと目を閉じた瞬間、私はいつもとは違う“宇宙の時間”に入っていく。
 そこでは、見たことのない人に会える。
 行ったこともない景色に触れられる。
 なぜか胸が動くような、不思議な体験が待っている。

 眠れない夜というのは、もしかしたら――
 “いつもと違う誰か”に会いに行きたいときなのかもしれない。

 あるいは、自分の中の何かが変わろうとしている合図なのかもしれない。

 そんなことを思いながら、今日も世界のどこかで訪れる真夜中を、私はそっと見送っている。