1ミニッツ短編集ボックス

 同じ場所に網を張って、ただ“待つ”。
実はこれほど効率のいい仕事はない。

 知り合いの蜘蛛の親方は、今日も器用に糸を紡ぎながら言う。

「いいか、余計な手間はいらない。必要なものを置いておけば、後は勝手に引っかかってくれる」

 親方が張る蜘蛛の巣ネットワークは、評判が良い。
糸の張り方が上手で、自然と人が寄ってきてしまうのだ。

「引っかけたら、後は装置が働く。
 欲しいものを見せて、少し背中を押すだけでいいんだ」

 親方はそう言って、承認欲求を満たす“仕掛け”を巣のあちこちに配置した。

「蝶を追いかけ回すより、よほどいい暮らしができるぞ。
 魚だって肉だって、好きなだけ食べられる」

 俺は教えられた通りに、同じように糸を張っていった。
その結果、何もしなくても食べ物もお金も勝手に入ってくるようになった。

 週末には家族と出かける。
ショッピングモールを歩き、大型家電量販店で最新家電を買い、携帯ショップで新しいスマホを手に入れる。
家に帰れば、動画サイトやSNSのランキングを眺めながら、「へぇ、これが流行ってるんだな」と頷いてみせる。

 ふと、自分の指先に白い糸が絡んでいるのに気づいた。

……でもその瞬間、考えるのをやめた。
晩酌のグラスに手を伸ばしながら、そっと糸をふき取った。