1ミニッツ短編集ボックス

 終電前のホームみたいだ。
 ぎりぎりの明かりの下で、私はまだ立っている。

 二十五歳。
 アイドルとしては“終電が近い”と自覚していた。
 SNSを開けば、眩しい子たちが毎日のように通知を埋め尽くす。
 動画サイトには煌びやかな成功の数々。
 寝転んだベッドの上で、私はその光に照らされるだけの存在だった。

 やれることは全部やった。
 企画も、投稿も、レッスンも、努力と呼べるものは出し切った。
 でも結果が出なければ、それを「努力している」と名乗ることすら許されない。

 親がくれた名前があって、
 自分で選んだ活動名があって。
 けれど、私の“結果”に名前をつけるのは他人――つまりファンだ。

 認められなければ、光らない。
 そんな当たり前の仕組みが、胸に重たく沈んでいく。

 昼と夜が何度も過ぎ、気づけば数年。
 私のスケジュール帳は徐々に白くなり、ページは静かに乾いていった。

 そんなある日、一通の手紙が投函されていた。
 誰からとも知れない、薄い封筒。

『あなたはアイドルにはなれません。
 ですが、アイドル“消費”はできます。
 うちの事務所に来ませんか?』

 終点の案内みたいに、淡々とした文字。

 私はその紙を強く握り締めた。
 まだ終電は来ていない。
 なら、乗り込むしかない。

「……消費されに行きましょう」

 そう呟いて、私は部屋を出た。