ある街で「大きな騒ぎがあった」という噂が流れていた。
小さな田舎町だから、朝からその話題でもちきりだ。
そんなとき、僕はたまたまこの街に来てしまった。
よそ者の僕が“その渦中の人”に見られたら困る……と思いつつ、
お腹が空いたので近くの定食屋に入った。
店主は心ここにあらずといった表情で、ずいぶん沈んでいる。
きっと、街で起きた騒ぎのことが気になって仕方ないのだろう。
少しでも気が晴れればと、一番高い定食を注文したけれど、
曇った顔は相変わらずだ。
「やっぱり、さっきのことが気になるんですか?」
思わず声をかけると、店主は僕を見て、
「サービスだよ」とおかずを一品増やしてくれた。
励ましているつもりが、逆にあたたかくされてしまったみたいだ。
店を出たあと、僕は“騒ぎのあった場所”へ向かってみた。
けれど、着いてみて愕然とする。
そこには建物どころか、空き地すらない。
地図と位置情報を何度見直しても、確かにここを指しているのに。
「おかしい……絶対この場所のはずなのに」
近くを歩いていた青年に声をかけてみた。
「ここに建物があったはずなんですが」と話すと、
青年は少し気の毒そうに笑った。
「たぶん、スマホにちょっと遊ばれましたね。
この街、ときどきあるんですよ。
地図のほうが“先に”場所を作っちゃうことが」
スマホに化かされるなんて、と思いながら、
僕はしばらくその“何もない場所”を眺めていた。
小さな田舎町だから、朝からその話題でもちきりだ。
そんなとき、僕はたまたまこの街に来てしまった。
よそ者の僕が“その渦中の人”に見られたら困る……と思いつつ、
お腹が空いたので近くの定食屋に入った。
店主は心ここにあらずといった表情で、ずいぶん沈んでいる。
きっと、街で起きた騒ぎのことが気になって仕方ないのだろう。
少しでも気が晴れればと、一番高い定食を注文したけれど、
曇った顔は相変わらずだ。
「やっぱり、さっきのことが気になるんですか?」
思わず声をかけると、店主は僕を見て、
「サービスだよ」とおかずを一品増やしてくれた。
励ましているつもりが、逆にあたたかくされてしまったみたいだ。
店を出たあと、僕は“騒ぎのあった場所”へ向かってみた。
けれど、着いてみて愕然とする。
そこには建物どころか、空き地すらない。
地図と位置情報を何度見直しても、確かにここを指しているのに。
「おかしい……絶対この場所のはずなのに」
近くを歩いていた青年に声をかけてみた。
「ここに建物があったはずなんですが」と話すと、
青年は少し気の毒そうに笑った。
「たぶん、スマホにちょっと遊ばれましたね。
この街、ときどきあるんですよ。
地図のほうが“先に”場所を作っちゃうことが」
スマホに化かされるなんて、と思いながら、
僕はしばらくその“何もない場所”を眺めていた。


