せっかく素敵な街ができたのに、もったいない話だ。
むかし、この土地は長いあいだ混乱していた。けれど、人々はあきらめずに力を合わせ、暮らしを立て直していった。時間はかかったが、街はすっかり生まれ変わった。
広い道、にぎわう市場、気の合う仲間たちで運営する議会。
年配にも若い人にも優しく、働く場所も住む場所もすぐ見つかる。
「こうだったらいいのに」がすぐ形になる、便利で親切な街だった。
街は人々の声をよく聞いた。
あまりに聞きすぎるほどに。
便利さを求めれば求めるほど、街は考えた。
——必要なものは、街の外に置いておけばいいのでは?
加工も製造も管理も、ひとつずつ外へ出していく。
中には、効率よく動く物流ラインと受け取り口だけが残った。
そうして街はすっかり整いきって、まるで磨かれた果実のようになった。
けれど果実は成熟すると、そのうち甘さが抜け落ちる。
気づいたときには、中身がどこかへ消えていた。
「街の外に預けたものが、どんな手で作られているのか——
誰も確かめなくなったんだね」
今日も街の人が口にするものは、知らない場所で、知らない誰かが淡々と作っている。
便利さの裏側は、すっかり街の視界から抜け落ちてしまった。
27.馬鹿試合の果てに
ある街で「大きな騒ぎがあった」という噂が流れていた。
小さな田舎町だから、朝からその話題でもちきりだ。
そんなとき、僕はたまたまこの街に来てしまった。
よそ者の僕が“その渦中の人”に見られたら困る……と思いつつ、
お腹が空いたので近くの定食屋に入った。
店主は心ここにあらずといった表情で、ずいぶん沈んでいる。
きっと、街で起きた騒ぎのことが気になって仕方ないのだろう。
少しでも気が晴れればと、一番高い定食を注文したけれど、
曇った顔は相変わらずだ。
「やっぱり、さっきのことが気になるんですか?」
思わず声をかけると、店主は僕を見て、
「サービスだよ」とおかずを一品増やしてくれた。
励ましているつもりが、逆にあたたかくされてしまったみたいだ。
店を出たあと、僕は“騒ぎのあった場所”へ向かってみた。
けれど、着いてみて愕然とする。
そこには建物どころか、空き地すらない。
地図と位置情報を何度見直しても、確かにここを指しているのに。
「おかしい……絶対この場所のはずなのに」
近くを歩いていた青年に声をかけてみた。
「ここに建物があったはずなんですが」と話すと、
青年は少し気の毒そうに笑った。
「たぶん、スマホにちょっと遊ばれましたね。
この街、ときどきあるんですよ。
地図のほうが“先に”場所を作っちゃうことが」
スマホに化かされるなんて、と思いながら、
僕はしばらくその“何もない場所”を眺めていた。
むかし、この土地は長いあいだ混乱していた。けれど、人々はあきらめずに力を合わせ、暮らしを立て直していった。時間はかかったが、街はすっかり生まれ変わった。
広い道、にぎわう市場、気の合う仲間たちで運営する議会。
年配にも若い人にも優しく、働く場所も住む場所もすぐ見つかる。
「こうだったらいいのに」がすぐ形になる、便利で親切な街だった。
街は人々の声をよく聞いた。
あまりに聞きすぎるほどに。
便利さを求めれば求めるほど、街は考えた。
——必要なものは、街の外に置いておけばいいのでは?
加工も製造も管理も、ひとつずつ外へ出していく。
中には、効率よく動く物流ラインと受け取り口だけが残った。
そうして街はすっかり整いきって、まるで磨かれた果実のようになった。
けれど果実は成熟すると、そのうち甘さが抜け落ちる。
気づいたときには、中身がどこかへ消えていた。
「街の外に預けたものが、どんな手で作られているのか——
誰も確かめなくなったんだね」
今日も街の人が口にするものは、知らない場所で、知らない誰かが淡々と作っている。
便利さの裏側は、すっかり街の視界から抜け落ちてしまった。
27.馬鹿試合の果てに
ある街で「大きな騒ぎがあった」という噂が流れていた。
小さな田舎町だから、朝からその話題でもちきりだ。
そんなとき、僕はたまたまこの街に来てしまった。
よそ者の僕が“その渦中の人”に見られたら困る……と思いつつ、
お腹が空いたので近くの定食屋に入った。
店主は心ここにあらずといった表情で、ずいぶん沈んでいる。
きっと、街で起きた騒ぎのことが気になって仕方ないのだろう。
少しでも気が晴れればと、一番高い定食を注文したけれど、
曇った顔は相変わらずだ。
「やっぱり、さっきのことが気になるんですか?」
思わず声をかけると、店主は僕を見て、
「サービスだよ」とおかずを一品増やしてくれた。
励ましているつもりが、逆にあたたかくされてしまったみたいだ。
店を出たあと、僕は“騒ぎのあった場所”へ向かってみた。
けれど、着いてみて愕然とする。
そこには建物どころか、空き地すらない。
地図と位置情報を何度見直しても、確かにここを指しているのに。
「おかしい……絶対この場所のはずなのに」
近くを歩いていた青年に声をかけてみた。
「ここに建物があったはずなんですが」と話すと、
青年は少し気の毒そうに笑った。
「たぶん、スマホにちょっと遊ばれましたね。
この街、ときどきあるんですよ。
地図のほうが“先に”場所を作っちゃうことが」
スマホに化かされるなんて、と思いながら、
僕はしばらくその“何もない場所”を眺めていた。


