1ミニッツ短編集ボックス

 傘をさして、いつもの街を歩く。
 落ち込んだ日、息が少し重い日、決まって向かう場所がある。

 この街に引っ越してきたばかりの頃。
 道に迷った私が偶然入った、小さな光の店——
 手作りのアクセサリーや、磨かれた鉱石が並ぶ、静かな空間だ。

 品のある店主と、元気なおばあさんが営むその店は、
 眺めているだけで気持ちがすっと軽くなる。
 新しい人生を始めた自分へのごほうびに、
 いつかここでひとつ、小さな“きらめき”を選ぼう。
 そう決めていた。

 今日もショーケースの前に立ち、
 透きとおる石の光をぼんやり眺めていると——
 隣に、見慣れない女の子が立っていた。

 理由は分からないけれど、
 きっと彼女もこの光に惹かれて来たのだろう。
 しばらく二人で並んで眺めていると、
 女の子がくるっとこちらを向いた。

「おねーさん、これ欲しいの?」

 まっすぐな瞳に聞かれて、思わず笑ってしまう。

「うん。これを手に入れるのが、今の目標かな」

 すると女の子は足元にあった丸い小石を拾い上げ、
 まるで秘密の提案をするように言った。

「これでガラスをトントンしたら、すぐ取れるよ?」

「だ、だめだよ!」
 私は慌ててその手を止める。
「そんなことしたら、お店の人が困っちゃうから!」

 女の子は腕をつかまれたまま、くすっと笑った。
 そして、まっすぐに私を指さした。

「おねーさんの“欲しい気持ち”って、
 そのショーケースの中に閉じ込められてるんだね」

 言葉が胸に落ちて、私は思わず息をのんだ。

「きっと、大人になる間に誰かに“しまいこまされた”んだよ。
 本当はもっと自由に手を伸ばしてよかったはずなのにね」

 雨音が静かに響く中、
 ショーケースの向こうで光る“きらめき”よりも——
 女の子の言葉の方が、ずっと鮮やかに胸に残った。