1ミニッツ短編集ボックス

 今の時代だからこそ生まれた新しい仕事がある。
 その名も——「正論師」。

 何をする職業かというと、ネット上で起きる小競り合いに呼ばれ、
「筋の通ったことだけを言いに行く」
という、ある意味とても単純な役目だ。

 君はこう思うかもしれない。
 本当にそんなに依頼があるの?——と。

 あるんだ、これが。
 ネットは性別も年齢も価値観も、すべてが入り混じる場所。
 だからこそ、合わない者同士が簡単にぶつかる。
 鳥の前に虫を置けばつつかれるように、
 自然と衝突が起きるようにできているんだ。

 本来なら関わらなくてよかった人たちが、
 偶然ひとつの画面で出会ってしまう。
 そして気になってしまう。
 他人の言葉、考え方、生き方——全部に。

 でも、そんな全部に目を光らせていたら、
 この世界はいくらあっても足りない。
 だからこそ、僕らの出番になる。

 正論師は、国家に認められた“調整役”だ。
 受け取った依頼に応じて、正しい筋道を示す。
 どれだけ鋭くても、法に触れない。
 なぜなら、言っていることはあくまで「正論」だから。

 実際、僕も何度か“話を整理してあげた”ことがある。
 相手は確かに混乱していたし、
 誤った方向へ進みかけていた。
 僕はただ、正しい道を指し示しただけだ。
 ——その結果、向こうの勢いがすっと消えてしまったけれどね。

 言葉って不思議だよ。
 ただの文字であり、ただの音なのに、
 人の心を一瞬で折ることがある。

 たとえば君が日本語しか分からないなら、
 英語でどれだけ厳しいことを言われても平気だろう?
 意味が分からないからだ。
 逆に言えば——意味が分かるからこそ、
 言葉は人を“黙らせる”ほど強くなる。

 なんて、不思議で、やっかいで、でも魅力的な力なんだろう。

 さて。
 そろそろ仕事だ。
 またひとつ、大きな議論が燃え上がってきている。

 誰かが道に迷っているのなら——
 正論師として、僕の出番だろう?