1ミニッツ短編集ボックス

 “自分だけの世界”って、ちょっと憧れない?
 他人の声は聞こえなくて、心地よい言葉だけが流れてくる 静かな防音室みたいな空間。

 俺はそれを本気で作ろうとしていた。

 毎日届くコメントを、ひたすら仕分ける。
「これは合わないな」「これは今の気分じゃない」「これは少し刺激が強い」
そんなふうに、気持ちをざわつかせる声を一つひとつ消していく。

 すると画面はどんどん静かになり、
“俺のためだけの、小さくて完璧な王国”ができあがっていった。

 好きなだけ語って、好きなことだけ発信して、
まるで自分がこの世界の管理者にでもなったみたいだ。
誰も横から茶々を入れてこない。
うん、これは最高だ。
どうして皆、この心地よさに気づかないんだろう?

 ——でも、ある日。
 その“防音室”に入っても、どうも落ち着かない。
 静かすぎて、自分の声だけが反響している ことに、ふと気づいてしまったのだ。

 そのタイミングで、一つだけ通知が来た。

「いつも読んでます!今日もおもしろかったです!」

 一見すると明るい言葉。でも、なぜか胸に引っかかる。
 俺はそのコメントを見つめて、思わずつぶやいた。

「……たぶん、この人も“外の空気”なんだろうな」

 そして、そっと削除する。
 その瞬間、また世界は完全な静寂に戻った。

 俺だけの王国の中で、俺だけの声が響き続ける。
 けれどその響きは、どこか薄っぺらく感じられるのだった。