1ミニッツ短編集ボックス

 君がやることは、いたってシンプルだよ。
ほら、あそこに小さなステージが見えるだろう?
あの上に立って、やって来る人たちを迎え撃つ。ただそれだけ。

 手渡すのは鋭い刃物じゃなくて、**君だけが使える“判定のペン”**だ。
気に入らなければ線を一本引く。
そこで彼らは君の世界からそっと退場していく。
それだけで、君はこれから先も何ひとつ困らない。
恨まれる心配もない。
いわば“まっさらなまま”生きていける仕組みなんだ。

 君はステージに向かってくる誰にでも、そのペンを掲げて、
「ここまでは入れません」と線を引けばいい。
もし反発する人がいたとしても、
周りの観客たちはみんな、君の判断を支持するよ。
 僕は渡されたペンを指で転がしながら、素朴な疑問を投げた。
「どうしてそんなことが許されるんだ?
線を引くのに、どうして責められないんだ?」

 案内役は笑った。

「簡単さ。君は“人そのもの”を消してるわけじゃない。
君の**ステージに踏み込んできた“解釈”**を外しているだけなんだよ」

「だって、ほら。
人のつくった物語の上に無断で乗ってきて、
そのくせ居座ろうとする者もいるだろう?
そんな“入り込んできた意味”を、
そっと線一本で消すだけなんだ。
文句を言う人はいても、それ以上のことはできないさ」

 もちろん、線を引く瞬間は派手だから、
その場ではざわつくかもしれない。
でも誰も君のステージに上がってきて、
君を倒そうとはしない。

 彼らは“君と向き合うこと”そのものが怖いのさ。

「……ただね」と案内役は言葉を継ぐ。
「いずれ、君と同じようなペンを持つ誰かが現れたとき、
一番最初に線を引かれるのは、もしかしたら君かもしれないけどね」

 その言葉を聞いた僕は、少しだけ苦笑した。
案内役は肩をすくめる。

「心配いらないよ。僕もね、
君のステージをどうこうするつもりはない。
ただ――特別興味があるわけでもないけどね」