1ミニッツ短編集ボックス

 うちの会社には、ちょっと変わった決まりがある。
人の視線を気にしすぎないよう、
出社するときは“動物柄のスーツ”を着ることになっている。

 最初の頃は抵抗があったけれど、
慣れてくると不思議と楽しくなり、
パンダ柄や猫柄など、かわいいデザインに手を伸ばすようになった。

 そのうち休日に、自然と
“動物柄スーツ専門店”へ足を運んでいた。
遊園地のショー衣装も手がける有名な店で、
案の定、会社の人たちも来ていた。

 私は入社時に買った犬柄スーツを脱ぎ、
ペンギン柄やヒョウ柄などの新作をいくつも試す。
すると、近くで見ていた小さな子が、
じーっとこちらを見つめて、指をくわえていた。

……あ、こういうの好きなんだよね。
少し手を振ったら喜んでくれるかも?

 私は張り切って新作スーツをまとい、
子どもの前でちょっとだけ踊ってみせた。

 先輩や同期は楽しそうに笑っている。
なのに、子どもはまったく笑わない。

 指を口から離し、私を指さして、ひとこと。

「ねぇ、それって……どっちが楽しいの?」

 その一言が頭の中でぐるぐるして、
私はその場で固まってしまった。