四畳半一間の安アパート。二十二歳の女の住まいにしては、いささかグレードが低すぎる部屋だ。
このヤニ臭さの残る部屋で、私はカフェオレを飲む少女を見つめていた。
少女は私の視線に気が付くと、表情を変えないまま、上目遣いでこちらを見た。
私はふっと視線を逸らした。
そういえば。
あの時も、こんな感じだった気がする。
私は、少女に初めて会った時のことを思い出していた。
*
四月は新しいことが始まる季節。
でも、フリーターの私は、何も変わらない日常を過ごしていた。
図書館に行こうと思ったのは、完全に思いつきだった。
毎週火曜日は、バイトのシフトを入れない、完全オフの日。
SNSはとっくに辞めたし、だらだらと動画を見ることにも飽きた私は、外に出かけることにした。
ふと、私は家の近くに図書館があることを思い出した。
本か……。
中学生くらいまでは、よく小説を読んでいた。
それがいつの間にか読まなくなったのは、きっと読書よりも友達付き合いの方が楽しくなったからだろう。
でも今は、友人なんていない。
久々に読書をするにはちょうどいい時期だな、と私は苦笑いし、その足を図書館へ向けた。
平日の昼間の図書館は、人はまばら。数名のお年寄りがいる程度だ。
その図書館は二階建てだった。二階には子どもの本があるらしい。
私は、子どもの時に読んだ本を探しに二階へ上がった。
二階はもっと人が少なかった。
図書館だから当然なのだが、とてもしんとしている。園児くらいの小さな子が、母親と一緒に小さな声で本を選んでいるのが聞こえる程度だ。
一階とは異なり、二階は全ての本棚の背が低い。それを見て、ここが子どもの空間であることをひしひしと感じた。
私は明らかに場違いだった。居心地の悪さを感じながらも、私は昔読んだ本を読むために、児童文庫の棚を探した。
お目当ての棚に辿り着くと、そこには少女がいた。
可愛らしい少女だった。
小学生か中学生くらいだろうか。髪はくせ毛で、水色の長袖シャツに半ズボンというシンプルな服装。
少女は私を一瞥すると、何冊かの本を手にしたまま去っていった。
はて。
今日は火曜日。平日だ。平日の昼間に、小中学生が図書館なんかに来るだろうか。
少しだけ頭を巡らせると、いくつかの可能性が浮かんだ。
例えば、運動会などの振替休日。しかし、それなら大抵は月曜日だろう。
後は、創立記念日や、学級閉鎖。それにしては、他の小中学生が少なすぎるか? ここには、今の少女くらいしかいない。
だとすれば……。他に思い当たる可能性は一つしかなかった。
……不登校。
まあ、しょうがない。誰しも学校に行きたくなくなることくらいあるだろう。親は大変かもしれないけど。
私はあまり気にしないことにした。探していた本を手に取り、机に向かう。
机もやや低かった。完全に子どもサイズだ。でも、人は少ないし、貸し出し手続きはなんとなく面倒だったので、その机で読むことにした。
別の机では、先ほどのくせ毛の少女が本を読んでいた。
私が少女を見ていると、向こうも気が付いたのか、ちらりとこちらを見てから、また本に目を落とした。
うーむ。私みたいな大人がここにいると、嫌かな?
まあ、静かに本を読んでいれば、きっと平気だろう。
私はしばらく夢中になって本を読んでいた。
ああ、なんて懐かしい。童心に帰った気分とは、まさにこのことだろう。
ふと顔を上げると、目が合った。
あの少女が、上目遣いでこちらを伺うように見ていた。
私は驚いて、心臓が小さく跳ねた。
しかしそれはほんの一瞬で、少女はすぐに目を伏せて立ち上がり、その場を去っていった。
……なんだ、ありゃ。
私は心のどこかに違和感を感じたものの、本の続きを読んだらすぐに忘れてしまった。
このヤニ臭さの残る部屋で、私はカフェオレを飲む少女を見つめていた。
少女は私の視線に気が付くと、表情を変えないまま、上目遣いでこちらを見た。
私はふっと視線を逸らした。
そういえば。
あの時も、こんな感じだった気がする。
私は、少女に初めて会った時のことを思い出していた。
*
四月は新しいことが始まる季節。
でも、フリーターの私は、何も変わらない日常を過ごしていた。
図書館に行こうと思ったのは、完全に思いつきだった。
毎週火曜日は、バイトのシフトを入れない、完全オフの日。
SNSはとっくに辞めたし、だらだらと動画を見ることにも飽きた私は、外に出かけることにした。
ふと、私は家の近くに図書館があることを思い出した。
本か……。
中学生くらいまでは、よく小説を読んでいた。
それがいつの間にか読まなくなったのは、きっと読書よりも友達付き合いの方が楽しくなったからだろう。
でも今は、友人なんていない。
久々に読書をするにはちょうどいい時期だな、と私は苦笑いし、その足を図書館へ向けた。
平日の昼間の図書館は、人はまばら。数名のお年寄りがいる程度だ。
その図書館は二階建てだった。二階には子どもの本があるらしい。
私は、子どもの時に読んだ本を探しに二階へ上がった。
二階はもっと人が少なかった。
図書館だから当然なのだが、とてもしんとしている。園児くらいの小さな子が、母親と一緒に小さな声で本を選んでいるのが聞こえる程度だ。
一階とは異なり、二階は全ての本棚の背が低い。それを見て、ここが子どもの空間であることをひしひしと感じた。
私は明らかに場違いだった。居心地の悪さを感じながらも、私は昔読んだ本を読むために、児童文庫の棚を探した。
お目当ての棚に辿り着くと、そこには少女がいた。
可愛らしい少女だった。
小学生か中学生くらいだろうか。髪はくせ毛で、水色の長袖シャツに半ズボンというシンプルな服装。
少女は私を一瞥すると、何冊かの本を手にしたまま去っていった。
はて。
今日は火曜日。平日だ。平日の昼間に、小中学生が図書館なんかに来るだろうか。
少しだけ頭を巡らせると、いくつかの可能性が浮かんだ。
例えば、運動会などの振替休日。しかし、それなら大抵は月曜日だろう。
後は、創立記念日や、学級閉鎖。それにしては、他の小中学生が少なすぎるか? ここには、今の少女くらいしかいない。
だとすれば……。他に思い当たる可能性は一つしかなかった。
……不登校。
まあ、しょうがない。誰しも学校に行きたくなくなることくらいあるだろう。親は大変かもしれないけど。
私はあまり気にしないことにした。探していた本を手に取り、机に向かう。
机もやや低かった。完全に子どもサイズだ。でも、人は少ないし、貸し出し手続きはなんとなく面倒だったので、その机で読むことにした。
別の机では、先ほどのくせ毛の少女が本を読んでいた。
私が少女を見ていると、向こうも気が付いたのか、ちらりとこちらを見てから、また本に目を落とした。
うーむ。私みたいな大人がここにいると、嫌かな?
まあ、静かに本を読んでいれば、きっと平気だろう。
私はしばらく夢中になって本を読んでいた。
ああ、なんて懐かしい。童心に帰った気分とは、まさにこのことだろう。
ふと顔を上げると、目が合った。
あの少女が、上目遣いでこちらを伺うように見ていた。
私は驚いて、心臓が小さく跳ねた。
しかしそれはほんの一瞬で、少女はすぐに目を伏せて立ち上がり、その場を去っていった。
……なんだ、ありゃ。
私は心のどこかに違和感を感じたものの、本の続きを読んだらすぐに忘れてしまった。



