その翌日。学校に着くと、
「おはよっ!」
そう佐久間から声をかけられた。
有言実行。
俺から自殺という選択肢を奪ってやろうという事か。
「おはよ」
俺がそう返すと、彼は嬉しそうな顔をして見せた。
っ、その笑顔はずるい。
俺が出来ない笑顔だ。
そして、ラインが届いた。
「友達になるのは確定として、お前放課後空いてる?』
いきなりお前呼びかよ。
その文脈でお前は、友達同士の呼び方だろ。
『空いてる』
『なら、部活来い』
部活来い?
何を言っているんだろう。
『俺の部活に入って、趣味を見つけろ』
っ、このおせっかいめ。
『迷惑じゃないのか?』
送った。俺が生きていることで人に迷惑をかけるのが嫌なのだ。
「迷惑だったら送ってねえよ」
背後から声が聴こえ、俺は咄嗟に後ろを振り向く。そこには、佐久間がいた。
「びっくりした」
俺は言う。
正直かなりびっくりした。ラインで会話していたかと思えば、今度は
「なんで急に」
「ラインだったら味気ナイト思ってな。それに文章だとあまり感情が伝わって来ねえだろ」
「まあ、それは」
確かにラインだと感情はあまり分からない。
もし、今彼が送った文章全てをAIが書かれていても俺は残念ながら気づかないだろう。
「放課後部活行くのは確定?」
「確定だ。部員が必要なんだ」
「まさか、そのために俺を助けたんじゃ」
「ははっ、それもあるな」
むしろもうそうとしか思えなくなってきた。
まあでも、利用されてると思った方が気は楽か。
無償なんていうものほど恐ろしい物はないのだから。
そして、あっという間に放課後になった。
昼休みも佐久間は俺に話しかけてきた。
暇なのかな、と思った。
そして、彼に連れられ部室へと向かっていく。
正直怖く感じる。
何となく、本当に言葉通りに連行された、という感じがある。
「ここだ」
「え? ここ?」
そこは、文芸部だった。
え、どういう事?
そう、俺は瞬時に思った。
何しろ、こういった場合、運動部へと連れられるのかと、勝手に思っていたのだ。
走れば、いやな事は忘れられるとか、そういう精神論を言われるのかと、勝手に思っていた。
「なんで、ここに」
「決まってるだろ」
「いや、決まってるだろ、じゃなくて」
ほんとうに意味が分からない。
「ここでお前には小説を書いてもらう」
「はあ!?」
小説を!?
「なに、そんな驚く事でもないだろう」
「いや、そうじゃなくて」
こういう場合、陸上部とかじゃないのか。
なんで、小説なんだ。
「言い方を変えよう」
その言葉に俺は佐久間の顔を真っ直ぐに見る。
「気味の感情のこもった小説を読みたい」
その言葉に俺はゴクっと唾をのんだ。
「だからお願いだ。君の小説を読ませてくれ」」
俺からしたら、なんでお前に俺の小説を読ませなければならねえんだ、という気持ちだ。
しかし、
「お願いだ」
そう言って頭を下げる彼の熱意のほどを目にまざまざと見せつけられると、
「仕方ねえ」
頷くしか選択肢が無かった。
それにしても、小説なんてどう書けばいいのだろうか。
俺は小説を書いたことなんてねえ。
小説って何それ面白いのって感じだ。
正直俺は読んだこともない。
読んだことあるのは国語の教科書くらいで、自分から読もうと思った事なんてない。
『俺は、生きてていいのだろうかった毎回思う。俺なんてこの世に必要ねえ、俺のせいで皆苦しんでいる、俺なんて生きている価値なんてねえんだ。そもそも俺は――』
1時間ほどかけてようやく最初の小説が書けた。
おおよそ原稿用紙一枚半ちょっとほどの小説だ。
マジでこれでいいのかが分からねえ。え、これでええの?
それとも違うんか?
なんも分かんねえ。
「書き終わった?」
聞かれた。俺はそれにおずおずと頷いた。
「んじゃ、早速読ませてもらうか」
笑いながら彼は言った。
これを見せていいのだろうか。笑われないだろうか。
俺は自身の原稿用紙を隠した。よく見たら文字も汚らしい。
文章も表現も、何もかもがくそだと感じた。
俺はこんなものでいいのだろうか。
「なに、辛そうな顔してんだ、どうした」
「あまり見せたくない」
そう言った俺の言葉に再び彼は笑い出す。
「そんなもん気にすんなよ。なんなら、俺の小説を見せようか?」
「お前の?」
「ああ」
俺は、一瞬迷った後、
「やっぱりやめとく」
俺は言った。見るのはやはり怖い。
「そんな冷たいこと言うなよ。読め」
「結局読ませられるんじゃないか」
「俺命令だ」
そう言って彼は笑う。
「俺命令って」
どんなのだよ、と思ったが気が付けば俺の口から微笑が流れている。
「なんだ、笑ってんじゃねえか」
「笑ってない」
「強がんな」
おでこをつつかれる。
「そんなのいいからさっさと読めよ」
「ああ、読むさ」
どうせ、酷評されるならさっさと読んでもらったらいい。
それに、
なぜ俺は彼に自作小説を、あんなひどい物を手渡したのだろう。今思えば無視してもお勝ったはずだ。
その答えを今俺は分かっていない。だけど、
「なんだこれ」
彼がそう言ったのは聞こえて、
途端に羞恥の心に見舞われた。
「ごめん」
俺はすぐに頭を下げた。
よほどひどい物だったのだろう。それこそ、鼻で笑われる程度の、だ。
「謝んじゃねえ、そういう意味じゃねえよ」
「じゃあ、なに?」
「お前の感情がしっかりと出ているなって思って行っただけだ。初見でこんなに心の底を出せるやつはそんな居ねえ、そういう意味で驚いたんだよ」
「……てっきり俺を馬鹿にしてんのかと」
「まあ、文章力はめちゃくちゃ、一分は長いわ、文字は汚いわ、状況説明にの不足やらで、小説の質はあんま良くねえわ」
「うっ」
結局馬鹿にすんじゃねえか。だけどどれも、妥当な批判で、俺が反論することは残念ながら不可能だ。
「だが、お前の感情が良く入っているいい小説だと思うぜ」
「褒められてる気がしねえんだけど」
「まっ、初めてだったらそんなもんだろ」
初めてか。確かに初めてだ。
俺は、小説を国語の授業以外で、ほとんど読んだことない。
だから、文章技法が良くないのは一種の当たり前と言えるだろう。
俺は、少しだけ伸びをする。そして、
「やっぱりお前のも読ませてはくれねえか?」
「お、やっぱ気になんのか」
「一応ね」
気になるとは本音だが、言いたくない。
今の話を聞いて、あいつの小説を読んでみたく感じた。興味を持つようになってきた。
「読ませてよ」
「お安い御用だ」
そして、小説を読んでいく。内容、それはいかにもな内容だった。
まず文章がすらりとしていて読みやすい。
それはいかにもな恋愛小説だったが、読んでいるとまるで俺までその空間にいるかのような、一種の錯覚を覚えてしまう。
呼んでいて楽しい、と感じる。
そして、キャラにも共感し、楽しい時には楽しく、悲しき時には悲しく感じてしまう。
すぐに原稿用紙の一枚目を読み終え、二枚目へと突入する。
そして、あっという間に、10枚読み切る事が出来た。
「すげえ、集中で読んでたぞ」
彼が俺に対していった。
ごもっとも。凄い集中だったと思う。先程まで6の所にあった短針があっという魔に2に来ている。つまりもう30分以上も読んでいてという事になる。凄いな、まだ10分くらいしか経っていない気分だ。
「凄い……」
俺はそう呟いた。
「これは凄いよ。賞を取れるよ!絶対!」
「ハイテンションで言うところ悪いが、それは新人賞一次で落ちた小説だ」
「一次……」
つまり、二次まですらも行っていないという事だ。
「あり得ない」
「そう言ってくれる奴がいるだけで、俺はうれしいよ」
「もう一度」
「ん?」
「もう一度書き直してもいい? これ読んだら俺の小説なんてくそだなって」
「ふっ、やっぱりそう思うか。お前を助けてよかったぜ。とはいえもう時間も遅いから、30分で頼む」
「うん」
最終下校時間は6時。いまが5時20分。と考えれば本当に30分しかない。
「本気で書いてみろ」
腕を組みながら彼は言った。


