自殺を阻止された俺は、小説を書く楽しみを覚える。

 「母さん、俺を置いて行かないで」

 僕は目を開き、意識を覚醒させる。
 ゆめか。嫌な夢だな。

 くそっ、寝汗が凄い。多分うなされていた。
 最近は見ないと思ってたのに、またこの夢か。

 俺の母さんは、俺の両親は俺が12歳で亡くなった。

 母さんが、赤信号で飛び出した俺を守るために車道に飛び込んだ。あの時の俺は馬鹿だった。ただただ、早く水族館に行きたくて、赤信号である事に気づかずに、横断歩道に飛び込んでしまった。


 父さんはその時から、心を病み、俺を責めるようになった。

 そして、その後病魔に蝕まれた。医者からすると、ストレスから病気が生じたという事らしい。



 つまるところ、俺のせいで二人共死んでしまったのだ。
 嫌な夢だ。俺を天国で責めているのだろうか。
 お前のせいで私は死んだんだぞって。

 そうだ。俺のせいだ。俺のせいで両親は死んだんだ。



 —―母さんが亡くなった時、父さんに責められた。

 『お前のせいで、母さんは死んだんだ。お前のせいで、お前のせいで!!』

 その言葉が今も脳裏に残っている。呪いとして残っている。
 ああ、嫌だ。

 母さんの命を奪った俺が、生きていることが。


 「行ってきます」

  母さんの遺影に声をかけて、家を出た。返事なんて返ってこない。帰ってくるわけがない。
 誰もいない家を出て学校に向かっていく。

 なんで、学校なんていってるんだが。
 そんなもん、行ってもしょうもないのに。


 でも、何となく嫌なのだ。学校にすら行かないでダメ人間になる事が、何よりも嫌なのだ。

 学校に着くと、俺は席についた。
 そして、一人教科書を読んでいく。

 友達もいない。両親もいない。学力もあるわけじゃない。
 何より、生きている意味が分からない。


 俺は弱い。


 何も出来やしない。


 授業を雑に聞いていく。


 そして、授業が終わり、家に買えるための帰路についた。

 だめだ。

 だめだ。

 だめだだめだだめだだめだだめだ。

 だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。


 だめだ。



 だめだ。


 心が蝕まれる感じがする。
 俺なんかが生きてちゃいけない感じがする。


 今朝、変な夢を見たからかもしれない。父さんに、そして母さんに責められる夢だ。
 
 悪夢だった。
 

 それを見て、どうしても思ってしまう。


 俺なんかがなんで生きているんだろうって。





 死ぬことは母さんに失礼だとか、

 自殺なんて一瞬の気の迷いだ、だとか。

 色々な思考が脳内を巡り巡っていく。だけど、その中で、


 消えたいという思いは消えちゃくれない。

 『消えるべき』だという思考は消えては無くならない。

 そうだ。
 本来のルートをたどるべきだ。


 俺はもうこの世にはいないはずの存在。死んで母さんに謝ろう。
 あの日、母さんを殺してごめんなさいって。

 気が付けば、俺の足は赤信号の道路へと一歩踏み出していた。
 一歩二歩三歩、あと一歩踏み出せば、俺は死—―


 「何してんだよ!!」

 後ろから声が響き、俺の手は引っ張られる。
 その衝撃で俺はこけ、尻餅をついた。

 「お前は何をしているんだ」

 俺は目をぱちくりとする。

 「何をしているんだと、訊いているんだ!!」

 意識が安定しない。
 おれ、俺はまだ生きてるのか?
 そして、衆目の前で怒られているのか?


 「何してんだよ。この馬鹿」
 「っ、何もしてない」
 「飛び出そうとしてただろ。あれは、赤信号だと気づいてなかったから、とかじゃねえよな」
 「何が、言いたいんだよ」
 「死のうとしてたのか」

 その言葉に、俺は上唇を噛んだ。
 そうだ。死のうとしていた。

 「それの何が悪いんだよ」

 俺は小さな声で吐き捨てるかのように言った。


 そして――

 「それの何が悪いかっつってんだよ!!」

 そして、今度は声を大きくして。周りからは変なやつだと、思われるかもしれない。
 だけど、今の俺にとってはそんな事、どうでもよかった。
 それよりも、母さんに天国で会えなかったこと。



 そして謝れなかったこと。それが、今何よりも嫌なのだ。

 「うるせえよ」

 手を掴まれる。

 「ここじゃ迷惑だ。ちょっと付き合え」

 そして、俺は連行される。

 そして連れられた場所はファミレスだ。

 「どうして」

 俺は呟く。

 「……どうして俺を助けたんだ。クラスメイトだから、なのか?」

 意味が分からない。俺を助ける必要性なんてないはずだ。
 それなのに、どうして。

 そして、途中で気が付いた。
 こいつがクラスメイトの佐久間忠だという事に。

 「知るか。勝手に体が動いたんだ」
 「そう、ですか」

 助けないでほしかった。
 まだ、この牢獄みたいな現世に縛り付けられなければならないのか。

 「奇麗ごとでも、言いますか」
 「ああ!? どう言う事だよ」
 「死んだら終わり、死にたいというのは一種の気の迷い、生きていたらいい事がある、自殺は周りに迷惑、そんなきれいごとを言うつもりですか?」

 俺は叫んだ。

 正直一番それが嫌だ。


 それを言う人。

 それは、たいてい死にたいと感じたことがない、幸せな人なのだろう。



 幸せな人。



 親も生きていて、友達もいて、幸福で、死にたいなんて思ったこともない、

 そんな人が俺に物言いをすること自体が正直我慢ならない。



 幸せなら、人の人生に口出しをしなければいいのに。

 「なあ、お前」
 「なに?」
 「バカだな」

 はっきりと言われ、俺は「は?」と目を見開く。
 
 「お前さ、俺がそんなこと言うとでも思ってるわけ?」
 「普通そんなこと言うんじゃねえの?」
 「ないない、テンプレすぎて、そんな言葉吐いたって響かねえだろ」
 「なら、何を言いたいんだ」
 「ま、俺がお前から自殺というキーワードを奪ってやろうってことだよ」
 「は?」

 意味が分かんねえ。どういう意味だよ。

 「責任は俺が取る! お前を生かした責任をな」
 「っ、勝手にしろよ」

 その佐久間の笑顔は眩しくて、俺みたいに影の生き物には見ていられなかった。
 そして、俺は出てきたパスタを食べたのだった。