「……んだよ、文句あるなら言えよ。ババア」
「まだ26歳ですけど」
「俺からしたらババアだし。マジでキモいって」
「好き勝手に言えばいいです。1ミリたりもと、ダメージなんて受けないんですから」
復学してきた榊くんと、相談室で面談。とはいえ、話すことなんて何もない。
別に私は彼に更生して欲しいとは1ミリたりとも思わないし、彼が退学しようが何しようがどうでもいい。
ただ、出会った時から壊れていた彼が、今もまだ壊れ続けている理由。それを知りたいとは少しだけ思っていた。
「……で、今の時間は何? キモさにプラスして、ウゼェんだけど」
「問題児の指導が私の仕事です。やった実績を作らなければならないので、こうやって呼び出しているだけです。お話することなんてないんですけどね、私の義務なので」
「……」
榊くんの顔を一切見ずに、窓の外を見たままそう言い放つ。
だって、事実だし。
「……お前って、本当に教師っぽくないよな」
「そうですか?」
「……前の担任は、感情論と理想論を俺にぶつけてきた。でも、お前は違う。どっちかっていうと、煽ってる? というか、興味ない?」
「……」
事実にも近い榊くんの言葉に、私はやっと視線を彼に向けた。小さく溜息をついて頬杖をつけば、言葉も自然に漏れ出てくる。
「煽ってるつもりはありませんけど。言う通り、興味はないですよ。この際だから言いますけど、別に私はあなたが退学しようが、警察沙汰になろうが、捕まろうが、人を殺そうが何しようが、一切興味なんてないです。ただ仕事だからやっているだけで、それ以上でも以下でもないです。ただ……」
そこまで言って、また視線を逸らす。
思わず漏れた溜息に、「いや」とだけ付け足し、また榊くんの方を見た。
「いや、これ以上は言いませんが、これが私の教育者としての方針です」
それだけを言い放って、私は榊くんを相談室から追い出した。
◇
綺麗事なんていくらでも言える。
教師は綺麗事だらけだと言う生徒の気持ちもわかる。だからこそ、さっき榊くんが言った言葉が脳裏から離れなかった。
私に押し付けられた問題児たちは、他の教師から「どうしてこんなことしたの!?」なんてありきたりな言葉をぶつけられて、より一層反抗した。
そんなもんだ。
どうしてって聞かれても、これと言った理由なんてないし、あったとしても言ってくれるわけがない。
そんなことがわかっているから、私は敢えて突き放す——なんて、これは私なりの〝正当化するための理由付け〟にしかならないけれど。
職員室に戻ってしばらくすると、背後から岩永先生が近づいてきた。
彼は「く、黒木先生」と小さく私の名前を呼んで、そのまま言葉を続ける。
「僕、どうしても知りたいです。黒木先生の本心……」
「……本心も何も、このあいだ私の行動理念についてお話しをしませんでしたか? 何度も言わせないでください」
「いや、だって。それだけだと思えないのです。僕は、気になるんです。問題児を相手にしながらも、冷静でいられるその強さの根底、そこに何があるのか……どうしても、知りたいなんて……ダメですか?」
正直なところ、岩永先生の言っていることが理解できなかった。
新卒教師に私の〝何が〟わかるのか。
少しだけ指導の様子を見て、少しだけ私の話を聞いて何になるというのか。
そして——今以上に私のことを知って、どうなるというのか。
「……真っ当な教師になりたいのならば、あまり私に深入りしない方がいいと思います。岩永先生が目指す教師像は、〝私〟ではないでしょう」
これで話は終わりだと圧で訴えるように、私は彼に背中を向ける。
岩永先生が小さく唾を飲み込む音が聞こえたけれど、それ以上は特に何もなかった。



