問題児専門の担任ですが、人が壊れる様子を見るのが好きです


 朝のショートホームルームが終わって5分後。窓が割れる音がした。
 職員室にまで響く大喧騒に、他の教師たちは血相を変えて部屋から飛び出していく。
 呆れて何も言えないし、もはや驚きもしない。犯人がわかっているから。
 そういえば朝から気怠そうだったし、点呼では苛立っているかのような声をしていた気もする。その様子を後ろに座るお調子者がからかっていたっけ。なんて、騒がしい職員室で呑気に分析していると、少し荒めに私の肩が叩かれた。
黒木(くろき)先生! あなたのクラスですよ!! 何、ひとり座っているんですか!?」
「……わかっていますよ。どう対処しようか、考えていたところです」
 まぁ、考えていないけれど。
 うちの学校は、問題行動を起こした生徒は担任が呼び出し、個別に指導をするということになっている。つまり、担任がその場に赴かなければ何も始まらない。
 もはや、溜息すら出なかった。
 顔色ひとつ変えないまま職員室を出て、廊下を塞ぐ教師と生徒の波を掻き分けていく。すると、すぐに原因となった人物を見つけることができた。
 廊下に座り込み、苦虫を嚙み潰したような表情をした問題児——2年3組の(さかき)優祐(ゆうすけ)だ。予想通り。
 力が込められた拳からは、わずかに出血もしているみたい。
「……榊くん、まずは割れた破片でも集めましょうか」
「チッ。んで女の言うこと聞かねぇといけないんだよ。キモイんだよババア!!」
「ほら、さっさと掃除をする」
 軽く肩を小突いて掃除を促す。
 周りにいるギャラリーには教室へ戻るよう伝える。
 異様な空気感に包まれた校内は、なんとなく居心地の悪さを覚えるほどだった。



「——で? 次は何をするんですか?」
「は?」
 榊くんを相談室に連れてきた私は、目の前にいる問題児に向かって〝形だけ〟の指導を施していた。
 止血という名目で包帯をグルグル巻きにしたのも私。指が動かないように力強く結び上げたから、どこか不便そう。可哀想? でも自業自得だから。
 榊くんは先ほど以上に苛立っていた。わかりやすい怒りを露わにした彼に対して、別に思うことはないけれど。
「苛立ちを抑えられない榊くんは、次の授業もサボって校舎裏に行きます。そこで、タバコでも吸っちゃいます?」
「……なんなんだよ、テメー」
「あら、図星ですか? じゃあその後は、暴力沙汰。双方血塗れ、警察送りですね」
「ババアの分際でなめてんじゃねーぞ!!」
 勢いよく振り上げられた拳は、包帯でグルグル巻きにした方だった。高く上がったその腕は、私の方へ飛んでくることなく、そのまま机にダイブしていく。
「つーか、いってぇ!!」
「当たり前でしょう」
 アホなんですか? という言葉は胸に留めておく。
 強く私を睨みつける榊くんは、怒りで震えていた。それでも私は自分のペースを崩さずに彼に語り掛ける。
「新学期が始まって、もうすぐ1ヶ月が経ちます。私が担任になった意味を、今一度ご理解ください」
「はぁ!?」
「ひとつ言っておきます。私は問題児を助けようと思いません。行動を改めるような指導もしません。すべて自分のことですから」
「……っ!!」
「あ、それともうひとつ。私は26歳です」
 それだけを言って椅子から立ち上がり、相談室を後にした。
 新学期が始まって、榊くんに指導を施すのはこれで3回目だ。むしろ、覚悟していたよりは頻度が少なくて拍子抜けしているほど。
「……さて、榊くんはどこまで喚くかな」
 楽しみすぎて、思わず口角も上がる。生徒が喚けば喚くほど楽しみが増える。
 それが私の、教師人生を楽しく歩むためのキーワードなんだから。