6月の終わり、梅雨の時期である。空は朝から灰色に染まり、いつ降り出してもおかしくないような重たい雲が街を覆っていた。湿った空気が肌にまとわりつき、歩くだけで少し疲れるような夜だった。
「っ……最悪」
男は空を見上げ、小さく呟いた。
案の定、数秒後には雨粒が落ち始めていた。
最初は気のせいかと思うほどの小さな雨だった。しかし、それはすぐに勢いを増し、アスファルトを濡らしていく。
男は鞄の中を探った。
だが、どれだけ探しても答えは変わらない。
傘はない。
「……マジかよ」
今日は朝からついていなかった。
寝坊して、駅まで走った。
仕事では小さなミスを指摘され、帰り際には上司から余計な仕事を押し付けられた。
そして最後には、この雨だ。
普段なら笑って流せる程度のことなのに、今日は全部が重く感じた。
男はため息を吐きながらスマホを取り出す。
近くにコンビニはないかとマップを開いた。
「……」
画面にはいくつかの店舗が表示された。
だが、そこに向かう気力すら少し失っていた。
雨音を聞きながら、男はぼんやりと立ち尽くす。
その時だった。
先ほどのバーテンダーの顔が脳裏に浮かんだ。
「……なんだったんだ、あの顔」
男は小さく呟いた。
あの時、あの男は怒っていた。
いや、正確には怒っていたというより、悲しんでいるように見えた。
自分の言葉が誰かを傷つけたとは思っていなかった。
ただ、自分の考えを言っただけだ。
ネット恋愛なんて理解できない。
会ったこともない相手を好きになるなんてありえない。
それは今でも変わっていない。
……はずだった。
「でも……」
男はそこで言葉を止めた。
なぜか、あのバーテンダーの最後の言葉だけが頭から離れない。
『もし、そのネットの向こうにいる相手を、誰よりも愛してしまったとしたらどうする』
あの時は笑った。
そんなことあるわけがないと思った。
画面越しの関係なんて、所詮は偽物だと思った。
男には分からなかった。
雨はさらに強くなる。
「……変な人だったな」
そう言いながらも、足はなかなか動かなかった。
男はもう一度スマホを見る。
地図の上には、近くのコンビニまで徒歩7分と表示されていた。
たった7分。
普段なら何とも思わない距離だ。
しかし今は、その7分ですら長く感じた。
「……帰るか」
そう呟いて歩き出そうとした瞬間、スマホが震えた。
通知だった。
何気なく画面を見る。
そこには、昔使っていたSNSのアプリからの通知が表示されていた。
「……」
男の指が止まる。
もう何年も開いていないアプリだった。
消そうと思ったことも何度もある。
でも、なぜか消せなかった。
男は迷いながら、その通知を開く。
そこには、一件のメッセージが届いていた。
知らない名前。
知らないアイコン。
普通なら無視するようなものだった。
しかし、そのプロフィール画像を見た瞬間。
男の表情が変わった。
「……嘘だろ」
雨の音が遠くなる。
そこに表示されていた名前。
それは、もう二度と見ることはないと思っていた名前だった。
「っ……最悪」
男は空を見上げ、小さく呟いた。
案の定、数秒後には雨粒が落ち始めていた。
最初は気のせいかと思うほどの小さな雨だった。しかし、それはすぐに勢いを増し、アスファルトを濡らしていく。
男は鞄の中を探った。
だが、どれだけ探しても答えは変わらない。
傘はない。
「……マジかよ」
今日は朝からついていなかった。
寝坊して、駅まで走った。
仕事では小さなミスを指摘され、帰り際には上司から余計な仕事を押し付けられた。
そして最後には、この雨だ。
普段なら笑って流せる程度のことなのに、今日は全部が重く感じた。
男はため息を吐きながらスマホを取り出す。
近くにコンビニはないかとマップを開いた。
「……」
画面にはいくつかの店舗が表示された。
だが、そこに向かう気力すら少し失っていた。
雨音を聞きながら、男はぼんやりと立ち尽くす。
その時だった。
先ほどのバーテンダーの顔が脳裏に浮かんだ。
「……なんだったんだ、あの顔」
男は小さく呟いた。
あの時、あの男は怒っていた。
いや、正確には怒っていたというより、悲しんでいるように見えた。
自分の言葉が誰かを傷つけたとは思っていなかった。
ただ、自分の考えを言っただけだ。
ネット恋愛なんて理解できない。
会ったこともない相手を好きになるなんてありえない。
それは今でも変わっていない。
……はずだった。
「でも……」
男はそこで言葉を止めた。
なぜか、あのバーテンダーの最後の言葉だけが頭から離れない。
『もし、そのネットの向こうにいる相手を、誰よりも愛してしまったとしたらどうする』
あの時は笑った。
そんなことあるわけがないと思った。
画面越しの関係なんて、所詮は偽物だと思った。
男には分からなかった。
雨はさらに強くなる。
「……変な人だったな」
そう言いながらも、足はなかなか動かなかった。
男はもう一度スマホを見る。
地図の上には、近くのコンビニまで徒歩7分と表示されていた。
たった7分。
普段なら何とも思わない距離だ。
しかし今は、その7分ですら長く感じた。
「……帰るか」
そう呟いて歩き出そうとした瞬間、スマホが震えた。
通知だった。
何気なく画面を見る。
そこには、昔使っていたSNSのアプリからの通知が表示されていた。
「……」
男の指が止まる。
もう何年も開いていないアプリだった。
消そうと思ったことも何度もある。
でも、なぜか消せなかった。
男は迷いながら、その通知を開く。
そこには、一件のメッセージが届いていた。
知らない名前。
知らないアイコン。
普通なら無視するようなものだった。
しかし、そのプロフィール画像を見た瞬間。
男の表情が変わった。
「……嘘だろ」
雨の音が遠くなる。
そこに表示されていた名前。
それは、もう二度と見ることはないと思っていた名前だった。



