吹奏楽部の後輩が俺をあきらめてくれません

「宮野先輩。彼女にフラれたってほんとですか」
「は?」
 後輩の高森に聞かれて、俺は焦りなりがら聞き返した。
 放課後。校舎の一階。窓からまだ夏みたいな日差しが入りこむ廊下。俺たちはそれぞれ譜面台を前に椅子へ座り、パート練習の真っ最中だった。
 俺、宮野理人(みやのりひと)と、後輩の高森悠(たかもりゆう)は吹奏楽部でクラリネットを担当している。
 部員数があまり多くない田舎の公立校の吹奏楽部。
 そのほとんどが女子で、俺たちは数少ない男子部員である。
 俺が二年で高森が一年。
 四月に高森が入部してから、俺たちは先輩後輩としてそれなりに仲良くやってきた。
 けれど、こういう恋愛の話をするのは初めてで戸惑ってしまった。
 高森の言う通り、この前俺は一年の時から付き合っていた彼女にフラれた。
 夏休みが終わる前のことだった。
 今は九月。吹奏楽部では十月の文化祭に向けて練習が始まり、俺の気持ちもそっちに向かっていた。
 今更どうして元カノの話が出てくるのか。
 そもそも俺は誰にも話した覚えがないのだけど。
「なんで高森が知ってるんだよ」
 フラれたなんて情けないことを後輩に知られ、ついそっけない言い方になる。
「さっき音楽室で先輩たちが話してるの聞いたんです」
 なんだそれは、とつい眉間に皺を寄せる。
(人の失恋で盛り上がりやがって)
 もやもやしていると、高森が「先輩」と改まったように俺を呼んだ。
「なんだよ。慰めの言葉とかいらないからな」
「いえあの、宮野先輩に彼女がいないなら俺は先輩をあきらめませんから」
 何を言われたのかわからず、ポカンとしそうになる俺に、高森はにこにこと笑顔を向けてくる。
 その顔は今ここに女子部員がいたらかわいいー!と騒がれていただろう。
 なにしろ俺の後輩はイケメンでかわいげがあって女子にモテる。
 高い身長に茶色っぽいさらりとした髪。いつもにこやかで、すっと鼻筋の通った端正な顔立ちをしている。
 そんなモテる後輩が俺をあきらめないとか、まるで俺を好きみたいなことを言うわけがない。
 俺は高森の言葉を聞かなかったことにした。