サッカー部の元エースのみが俺の球を受けられる

 「すげえ」

 俺は思わずあっけにとられてしまった。明らかに大きな家だ。
 それこそ、何人、いや下手したら10人以上は住めそうな大きさだ。

 家の中も、外で見るよりかは遥に大きくて、

 こいつは、白井はこんな家に住んでいるんだな、と感じた。
 そこで、ふと思った。

 「親は?」
 「いねえよ」

 一言で返された。

 「あいつらはくたばっちまった」

 くだばった。それはもう既にこの世から他界したという事だろうか。

 「それは申し訳ない事を聞いてしまった」
 「はっ、気を遣うんじゃねえ。俺はそんな弱え人間じゃねえよ」

 そう言って笑う。
 確かに今の言葉は失礼だったかもしれない。
 何しろ、白井を親の死も乗り越えられねえ、軟弱物だと評したという事だからな。

 「さて、早速庭に出てもらう」
 「早速か?」
 「ああ、時間がもったいねえ。勿論投げ過ぎによる疲労は困るが、まずは程々に投げ込んでもらう」
 「分かった」

 俺は頷いた。白井の言葉に従えばきっと、上手くいく。俺にはそんな確信があった。
 そして、早速ボールを手に取る。

 試合からまた半日すら経っていねえ。だが、ボールのキレは戻っている。
 いい感じに投げられてる。

 「よし、もういいだろう」

 彼は言った。「投げ込みのしすぎは肘を痛めてしまう。次は別のトレーニングだな」
 「ああ」

 そして、連れられた先にはまた数多くのトレーニング機器が置いてあった。すげえな、と思ったのは俺の第1感だ。
 なにしろ、沢山の器具が置いてあり、そのどれも、本場のジムに置いていそうなものだったからだ。
 これで、トレーニングしたらきっと強化されるだろう。

 「さしずめ、無料のジムってところか」
 「ああ、ここで思う存分に鍛えてくれ」

 だが、と白井は手でバッテンを作る。

 「俺の言うとおりにトレーニングしろ」
 「分かってる」

 今の白井は俺のコーチのようなものなのだ。
 従えば善。逆らえば悪。行く末は見えているのだ。

 そして、俺はどんどんと筋トレをしていく。だが、その最中思う事がある。
 なんか、こいつ距離近くね?

 白井は俺の筋トレの補助をしてくれているが、その際に毎秋接触しているのだ。これは、うん。如何いう事だなぜここまで密着しなければならないんだ。

 「なあ、どうした?」
 「ん、なんだ」

 癒えねえ、言えねえよ。流石に近すぎだろ、なんて言葉は俺にははけない。
 今はそんなことを言う場面じゃねえ。
 今は兎に角トレーニングをする場面だ。

 俺はとにかく体を動かしていく。大変だが、全然耐えられる。

 そして、一時間ほどたったところで休憩を頂いた。あいつ岩本当はもっと体を鍛えていたいという事らしい。
 しかし、試合が近い今、オーバーワークはいけないのだ。

 「そこまでしてくれなくてもいいぞ」

 俺は今、奴からマッサージを受けている。
 不思議な気分だ。なんとなく気持ちいい。

 だけど、



 「白井」
 「なんだ?」
 「至れり尽くせりすぎて怖い」
 「いんだよ」


 白井は返した。

 「お前を育ててることが、今のオレの仕事なんだから」
 そう、彼は言い放った。

 そう言うならと、俺は甘んじて享受していいのだろうか。

 「白井」
 「なんだ?」
 「何かしてほしい事があれば何でも言ってくれ。流石に今の俺は貰いすぎだ」
 「ふっなら、必要になったら貰おうじゃないか」

 そう言って、白井は笑うのだった。

 そして、その日のトレーニングは終わりを告げた。

 試合まではあといつか。そこまで余裕はない。
 だけど、それでいいのかと聞いたら、
 白井はただ一言。

 俺を信じろ。と。

 俺は白井が捕手をやってくれるから、力強いボールを投げられる。それに、白井がいなければ、俺は今ここに来ていない。
 一回戦で敗退していただろう。
 だから、本当に白木には感謝だ。

 そして、俺はベッドに寝転がった。大きな部屋を与えられている。俺自身の部屋だ。だけど、俺の生家の字部屋に比べると倍の大きさがある。
 凄い大きさだ、と思う。
 流石は白井だ。


 今日は疲れた。今日は野球で体力を使い、その後白井とのトレーニングを行った。
 疲れていなければおかしい。俺はゆっくりと目を閉じ、睡眠へと至った。



 「朝だぜ」

 声をかけられる。

 「朝だっつってんだろ」
 「ん」

 俺は目をゆっくりと開けた。

 「朝だっつってんだろ」

 俺は目をぱちくりとさせる。俺の視線には白井の顔が大画面で写されている。
 流石にドキッとする。白井は顔整いだ。だから、……俺は思わず唾をのんだ。

 至近距離にその顔は流石に俺が男でも心臓に悪い。
 正直俺を照れ殺しに来たのかと思ったぞ。

 「起きろ」

 手を差し出される。俺は手を取る。

 その手は暖かかった。

 そして、手を握ると、一気に引き上げられ、俺の大胸筋と、白井の肌が触れた。
 キス……だなんてことは起きねえが、流石にびっくりとした。

 「わりぃ」

 白井は、言ってそのまま部屋を出て行った。
 大丈夫だよな、今の俺の心臓の音色は白井には気づかれてないよな?

 心配になるが、大丈夫だと、自分に言い聞かせた。
 大丈夫、大丈夫だ。ただ、急に起こされたからびっくりしただけだ。

 スマホの電源を開く。6時半。まだ朝が早い。

 朝練でもする気なのだろうか。


 「なあ、神代」

 白井は俺の目を見て、

 「今日はバットを振れ」
 「バットを?」
 「ああ」

 なぜ、バットを。

 「投げるんじゃねえのか?」
 「お前は最近バットを振ったか?」

 俺は首を振った。
 昨日の試合では三つの三振という酷い内容だった。

 「だから、バットを振ってもらう。それこそ、お前の成長のためにな」

 そして、白井はボールを俺がバットに当てやすい位置に投げる。俺はそれを打つ。
 これがどのくらい役に立つかは分からんが、白井がさせるという事は、きっと十分な効力があるのだろう。
 それに、これは中々体力を使う。

 その最中、俺は思った。これはきっと、俺に集中力を長続きさせようという練習だろう。
 スタミナ麺もそうだが、これはスタミナが切れた後のための練習。きっとそうなんだと、俺は理解した。

 そのままバットを振り続けること暫く、ついに俺は前にこけてしまった。

 「リタイアか」

 その言葉に俺は頷いた。

 「まあ、仕方ない。昨日の疲労もそこまで抜けてないだろうしな」

 そう言って笑った。

 そして、俺はまた白井のマッサージを受けていく。
 やはりこいつはマッサージが上手い。疲労がどんどんと抜けていく、ような感じがした。
 助かる。これならば、またすぐに回復してくるだろう。


 そして、ご飯を食べた後、次はランニングを強いられた。
 駅までではない。電車に乗る代わりに走っていくのだ。
 電車で一駅分の場所は走れば30分以上かかる事もしばしばだ。

 ここから学校まで走れば1時間半。
 疲労を溜めさせて走らせるとは、流石は鬼コーチだ。
 だけど、それに乗ってやる。ここで走り切れなかったら何が男だ。ただの怠け者になってしまうじゃないか。

 俺は足を前に突き出す。

 すぐに疲労はたまり、心臓の音色が聴こえてくる。だけど、白井は平気そうだ。

 「一応言っておくが、無理はすんな。時間はまだある。学校にも遅刻してもいい。疲れたならベンチで休憩するぞ」

 俺の方を見て白井は言った。この発言は俺を嘗めているな、と感じた。
 舐められてたまるか。

 「まだまだいける」


 俺はそう言い放った。まだまだリタイアするつもりはない。まだまだまだまだまだまだまだまだ走っていくつもりだ。

 「はっ、速度を上げやがって、負けず嫌いかよ」
 「ああ、てめえにも負けてやるつもりはねえ」
 「サッカー部に負けるつもりはねえのか。おもしれえ」

 そして、白井は速度を上げた。
 負けるか。

 俺は地面を蹴っていく。
 白井がサッカー部のエースだったからって、負けていい理由にはならない。
 俺はひたすらに地面を駆けていく。


 だが、


 「俺の勝ち」

 午後の紅茶を飲みながら、白井は小さなガッツポーズをする。俺にはそれが俺への煽りに見えて仕方がない。


 「殺す」
 「下品な言葉使うな。もう最初から決まってんだよ。俺は天才だからよ」
 「ふうん」俺は鼻を鳴らし、

 「大丈夫だ。ここから逆転する」
 「あー、いやそれはいいんだ」
 「はあ?」
 「今まで授業の欠席日数は何日だ?」
 「細かくは分かんねえが、たぶん試合以外はほとんど行ってる」
 「上出来だ。俺も一緒だからよ。だから、次はここでトレーニングだ」

 そこにあったのは、バッティングセンターだ。

 「今日一日練習しまくるつもりかよ」
 「そうはいってねえ。昼からは学校にいくさ」
 「うえぇ」

 学校を、野球の試合以外でサボるなんて、正直初めてだ。だからこそ、少しだけ憧れる気持ちもある。

 そして、バッティングセンターでまたボールを狙い定め、撃ちに行く。
 今度はスタミナ系じゃなく、ただただ技術の問題だから、そこまでは突かれなかった。
 勿論それは脳以外がという事なのだが、


 そして、学校まで再び走り、着いたのはもう12時30だった。

 「ついたな。じゃあ、クラスに行くぜ」
 「ああ」

 俺は頷くと、白井は自身の教室へと向かっていった。

 疲れた。
 ここまで運動をしたのは正直久しぶりだ。
 多分結局午後の授業は寝るだろう。だけど許してほしい。

 練習をしてきた結果なのだから。

 「話を聞かせてもらおうか」

 早速悠太が俺のもとに来た。かなり怒りプンプンという様子らしい。

 「なにが言いたいんだ?」

 俺が問うと、

 「お前さ、白井と一緒に来ただろ」
 「なぜそう思う」
 「窓から、みえたんだよ! お前らが一緒に入っていくのを!」

 なるほど、見ていたのか。

 「かもしれねえな」

 俺は淡々とそう言った。

 「やっぱりかよ」
 「ああ、でもそれがどうしたんだよ。何か問題あんのか?」

 問題あるわけがない。うちの部活には朝練とかも無い。
 問題があるとすれば学校を遅刻した件だけだが、そこは白井が何とかしているはずだ。

 「言わせてもらおう」

 悠太は下唇を噛んだ。そして、

 「なんで、そんな仲良くなってるんだ!!」
 「何か問題あるかよ」
 「ある!」

 あんのかよ。

 「いったい何が問題があるんだ。言ってみろ!」
 俺が言うと、

 「寂しいじゃねえかよ」
 「はぁ?」
 「毎日一緒に登校してたのによ」

 まさかのそんな理由。

 「ただ、一緒にトレーニングしてただけだから」

 だから、寂しがられる理由はない。

 「なら俺ともトレーニングしろよー」
 「無茶を言うな」
 「無茶言ってねえだろ」
 「わわわ、くっつくな、汗臭い」

 俺が言うと、悠太は泣きまねをして見せた。

 「そう言う訳だから俺は授業中寝るわ」
 「それが許されるとでも」
 「許される!!」

 俺が言うと、悠太が肩をすくめ、「やれやれ」と言った。

 そして有言実行と行ったように俺はすぐに眠りについた。
 しかし、結局怒られてしまった事それだけは納得がいかない物ではあったのだが。

 そして、部活が始まっていく。
 連携練習や守備練習などの全体練習を終えて、

 またまた白井との練習が始まっていく。


 「で、お前は何を見てんだ。悠太」
 「いいだろ別に。見たいんだよ。俺も一応捕手だからさ」
 「お前、今はキャッチャーじゃねえだろ」

 今は捕手じゃなく、外野を守ってるはずだ。

 「いいだろ、本職は捕手ってことに変わりはねえんだからよ」

 そう言って悠太は笑う。ったく、

 「時間の無駄だ。さっさとやるぞ」

 キャッチャーミットを手に、俺の方を見る白井。その表情は怒っているようだった。

 「表情が怖いぞ」
 「投げてこい」

 そう、言った。

 「だけど、せっかくだから、打席に立て、お前」

 そして、悠太を指さした。

 「俺!?」
 「ああ。てめえが立て」

 その命令に、

 「分かったよ」

 そう言って、悠太は渋々打席に立つ。
 そして、バットを持ち、俺に向かう。

 「行くぞ」

 俺が言うと、白井は頷き、サインを出す。俺はそれに従いボールを投げていく。

 早速ど真ん中にボールが飛んでいき、ズドンと音がした。

 「いい音だな」

 そう、白井はくくっと笑いながら言った。

 「だけど、まだまだだ。まだ足りねえよ」

 そう、白井は言う。

 「数球だけでいい。全力を投げろ。あの試合で投げたボールはこんなもんじゃねえはずだ」
 「分かってるよ!!」

 俺はボールをもう一球投げていく。
 そのボールは、また音を立ててミットの中に入っていく。

 「いいぞ。その感じだ」

 その言葉に従い、俺は再び投げていく。

 良い音をまた立ててミットに入っていく。

 「うん。このくらいにしておこう」

 その言葉、従い、俺は投げるのをやめた。

 「相変わらず凄いな」

 そう、悠太が言う。

 「打てる気がしないぜ」
 「まあな、俺の全力を打てそうなんて言われたら困るからな」
 「ひえぇ」

 引き、みたいな表情を見せた。
 良い感じに投げれている。

 そして、家に帰ったらすぐに、

 「あの、何してるんでですかね」
 「マッサージだ」
 「それは分かってるけど」

 流石にマッサージしすぎじゃね?
 こんなにマッサージされるとは全く聞いていない。
 凄いなと、思う。

 気持ちいいのは気持ちいいのだが、

 正直なんとなく気になる所だ。
 なぜここまでマッサージをする必要があるのか、俺には計り知れない。

 「いい筋肉してんな」

 白井は言った。

 「急になんだよ」
 「事実を言っただけだ。他意はねえ」
 「何なんだよ」
 「時に、一つ言いたいことがある」
 「何だよ」

 藪から棒に。

 「俺の過去についてだ」
 「前言っていた事、じゃねえのか?」
 いいや、

 そう、ためながら言った。


 「急にてめえに話したくなったんだ」


 その言葉に、俺は、「何だよ」と呟いた。
 しかし、その目は決心がついた目思った。

 「でだ、まず一言言いたいことがある。あの、幼馴染とは仲良くすんな」
 「幼馴染じゃねえけど」
 「んなのは、関係ねえ」

 そう、奴は言い放ち、


 「俺は、俺以外のやつにてめえを取られるのが我慢ならねえんだ」
 「急にどうしたんだよ」

 意味が分かんねえ。如何いう意図の発言なんだ。


 「俺は小さいころに親父を無くした。だからオレは会いに飢えてんだ」
 「それで?」
 「ああ、俺を褒めてくれる奴はいなくなっっちまった」


 その発言の意図が分からない。

 「だから、俺はスポーツに打ち込むようになったんだ。多分、愛の欠如をスポーツに打ち込んだんだと思う。俺は、野球が好きだった。プロ野球の皆が活躍する姿を見るのが好きだった。だが、結果がこれだ。肘がダメになっちまってサッカーに転校したんだ。そこまでは話したよな」
 「ああ」

 大体そう言った話は聞いtrいる。

 「だけど、俺は満足は出来なかったんだ。サッカーなんて好きじゃなかったんだ。ただ、腕を使わずにプレイできるとなったらこれしかなかtぅたんだよ。俺はただ悶々とした日々を送っていた。ただ、思うんだ。野球が出来ればよかったなって。だが、そこでてめえが現れたんだ。球は明らかに暴れていたが、その球筋に俺は素晴らしいと思った。だからてめえに会いに行ったんだ。実際にてめえは俺の期待するお前で居てくれた。俺は投手は一旦諦めたが、俺の夢をてめえがかなえてくれたんだ。こんなにうれしい事は他にねえだろ」

 そう言って。彼は軽く目をこすって見せた。

 「まあ、そういうこった。そこに他の意味なんてねえよ」

 そう言って笑った。
 そして、

 「さて、ここからの話をしてえ」

 「なんだ」
 「甲子園にてめえを連れて行くってのはもうした話だ。だけど、もう一つ祖てえ話がある。それをしてもいいか?」
 「何だ?」

 「その後、お前の体を貰いたい」

 その言葉に俺は心底本音の、「は?」と思った。意味が分からない。

 「どういう意味だ」
 そのまんまの意味だ」

 「いや、分かんねえよ」
 「そのまんまの意味だっつってんだろ。俺はお前の体が好きなんだよ」

 「はあ?」

 「俺がマッサージしてたのも、おめえの体に障りたいからだ」
 「お前、それ、言ってること変態みたいだぞ」
 「変態でいいんだよ。別にそれは悪い事じゃねえ、って俺が癒えた話じゃねえな」
 「俺の質問に答えてくれよ。俺に近づいたのは俺の体目的だったのか?」
 「いんや、二つの意味があんだよ。俺はお前のピッチングが素晴らしいと思うと同時にお前の体を好き勝手死体と言う気持ちもあんだよ」

 こいつは何を言っている。正直意味が全く分からない。こいつの「発言に対してどう思えばいいんだ。


 「つまりこれも、俺の体目的でやってたってことか」
 「だから、そう言ってんだろ」

 そう言ってんだろ、と言われても非常に困る。だけど、

 「てめえにも、そんな一面があったんだな」
 「当たり前だ。勿論これがあまり良くないっ通のは分かっている。が、我慢できなくなっちまったんだ」
 「ふうん」

 その告白?に対して俺はどう答えればいいのだろうか。
 その答えを俺はいまだまた持ち合わせていない。だけど、不思議な事に俺はそこまでの不快感を得てはいなかった。
 俺は、基本同性愛者なんかではない、だからふつうはそんなことを言われたら驚いた慌てふためくはずだ。
 だけど、今全然そう言うところは大丈夫そうだ。

 俺は、軽く瞬きをして見せ、

 「少し考えさせてくれ」

 そう言った。

 白井の声は震えていたように見えた。俺と雄太が仲良く話していたのを見るのが嫌だったのだろうか。
 それを考えれば、申し訳ないという気持ちも抱いている。

 だけど、やはり思う事はしっかりと合って。

 なんで、このタイミングなんだよ、とは常常思う。

 今から大会に向けて力を蓄えなければならない、という状況なのに、だ。
 だが、逆に言えばそれまでだ。


 怒りなんて言う物はそこまで湧いてこなかった。
 俺は拳をギュっと握る。

 部屋から既に白井は去って行った。答えを今すぐには求めてはいなさそうだったが、

 だけど、いつまでも保留などと言うのも失礼だろう。

 早く決断をしなければいけない。
 その時だ。スマホに一件のラインが来た。

 『変な事を言って済まない。今は話据えてくれ。今は甲子園、目指して頑張ろう』

 っらしくねえこと、言いやがって。


 ★

 失敗したと、感じた。
 なんで俺はあんなことを言ってしまったのか。

 あれは、俺の失態だった。
 何しろ、俺は本当は俺自身もっと後に言うつもりだった。だけど、我慢できなくなってしまっている。


 なんで、俺じゃない奴と親し気に話してんだ、と思ってしまったんだ。それで、嫉妬心が溢れ出してしまった。俺の思いがつい出してしまった。

 くそ、くそくそくそ、


 俺は、どうしてしまったんだ。


 ★


 そこから俺は白井とぎすぎすした雰囲気になってしまった。どう話せばいいのか分からない、と言う気持ちだった。

 白井は俺の体を好いている。それを知ってるからこそ、そこからマッサージは受けなかったし、トレーニングも思うように身が入らなかった。
 俺はカレンダーを見る。もう、明日には試合が行われる。それを考えると、今のままでいいのか、という気持ちがある。
 野球は度々個人競技と揶揄されることはあるが、チームワークも大事だ。
 それなのに、試合前日にこんなことになるなんて、

 この問題に蹴りをつけなかったことが原因だから、俺が悪い。気持ちにこたえる事もなく、断る事もなく他だ答えを保留にしていた俺の問題だ。だけど、俺はどう返せばいいのかが、全く分かっていなかったのだ。

 「なんなんだよ」

 俺は髪の毛をポリポリとかく。だけど、答えは見つからなくて、


 そして、ついに運命の日を迎える事となった。

 試合だ。

 今日の午後からの試合。本日の第三試合に俺たちは出る。今回の相手はシード高だ。
 一回戦の相手も強かったとはいえ、今回の相手は別格だ。昨年のベスト四だ。

 このコンデションで行けるのか、
 白井のトレーニングには従ったが、バッテリーがこんなのでいいはずではない。

 不仲ではないのだけど。


 「よう」

 雄太がハイテンションでこちらに来る。

 「今日はお前にかかってくるぜ、エース様よ」

 そう肩をパンパンと叩いてくる。

 「やめろ」

 俺はそう言った。

 「不機嫌になってる」

 白井の方を見やる。
 白井は嫉妬からか、不機嫌そうだ、

 「悪かったって。てか何かあった。お前ら変なんだけど」
 「何もねえよ」

 嘘だ。心当たりしかない。

 「ふーん。そっか。まあ、今日は期待してるから頑張れよ」
 「おう」

 俺は頷いた。
 そして、

 俺は、会場入りをした。

 今日は前回よりも客数がいる。
 緊張する。緊張したら、だめな事は分かっている。だけど、あの大観衆の中で投げると考えれば誰だって緊張するのは当たり前だ。

 しかも相手は強豪校なのだ。


 「案ずるな」

 白井が言う。


 「うちはノーマークだ。お前の投球が少し話題になったかもしれない。だけど、9割9分負けるのがうちの高校なんだ。お前はとりあえず自分の事だけ考えておけ」

 言われた。
 少し気まずそうな声で。これは、俺を好きな白井としての声じゃなくて、キャッチャーとして投手に欠ける言葉なのだろう。
 だけど、なんとなくその言葉に安心した。
 俺は投げられる。そうだ、負けてもともとなんだ別に心配する必要なんてない。ただただ、勝つための努力をすればいいだけ。

 個々には喧々転稼ぎに来た。とだけ、思っておけばどんなに楽になるだろうか。

 そして、投球練習と、ノックが入り、
 そして、試合が開始されていく。その中で感じるのは緊張感だ。
 だが、緊張しすぎるわけにはいかない。大丈夫だと、自分に言い聞かせた。

 そして、

 試合がスタートした。まだ、白井とは気まずいままだ。だけど、それを周囲に悟られないようにしなければならない。
 俺はやれるという事を示さなければならない。

 俺は勢いよく球を投じた。
 よし、良く伸びているこれならば、イケる!!

 そう感じていたはずだ。
 だけど、すぐにそれが勘違いだったと知った。
 すぐに外野まで運ばれてしまったのだ。

 幸いホームランにはならなかったが、ツーベース。
 俺は、愕然とした。今までこんなことは無かった。
 今までこんなきれいに飛ばされることなんて、無かった。

 悔しさをすぐに感じた。
 それと同時に、恐怖を感じた。

 このままピンポン玉みたいに軽かる知具飛ばされるんじゃないか?

 俺なんて実際は大したことが無いんじゃないか?
 そんなことを一旦考えてしまうと、どうしようもなく不安になってしまう。

 駄目だ。この場から逃げ去りたい。マウンドで孤独だ。
 俺は次の一球をどうやって投げればいいんだ。

 『ボーク』


 そう、言われてしまった。しまった、投球感覚が開いてしまった。そのせいでルールで、一塁分の親類県が与えられてしまった。
 ちくしょう、後がない。
 次またボークを取られてしまったら。いや、そんな事を今考えるのが置かしい。今は目の前の相手に立ち向かわないと、


 目の前のキャッチャーミットをはめた白井の姿をみる。
 彼を見ると、非常に大きく感じた。
 そうだ、何も考えずにあそこに向かって投げたら、
 きっとうまくいくはずだ。

 俺はゆっくりと球を投じる。

 打たれても知らん。俺は結果はどうでもいい。俺はただ投げるだけだ結果はそれこそどうでもいいだと。