黄泉の国の番人は幼なじみの君を愛したい

〇祖父の葬儀が終わり、数日後の朝。

紗恵は眠そうに起きてくる。
父は仕事に行くので、先に朝ご飯を食べている。
紗恵「おはよう」
母「おはよう。紗恵にお願いがあるんだけど……」
紗恵「ふぁああ~、なぁに?」
あくびをしながら答える紗恵。
母「おばあちゃんが元気がなさそうで心配なの。ご飯もあんまり食べてないみたいで……」

母「だから、おばあちゃんも一緒にご飯を食べた方がいいって思う。紗恵がお願いすれば、きっと来てくれると思うから、連れてきてくれない?」
紗恵「うん、着替えたら迎えに行ってくる」

紗恵(確かにおばあちゃんは元気がない。ご飯の買い物も行ってないのかもしれないし……)

紗恵は離れにある、祖母の元へ行く。
紗恵「おばあちゃん! お母さんがこれからは一緒にご飯食べましょうって言ってたよ」
祖母「ありがとう。でも、おばあちゃんは食べる物が違うから迷惑かけちゃうよ」

祖父母は自分たちで食事を用意して食べていた。
祖母は祖父が亡くなったあと、あまり食欲もなく引きこもりがちだった。
まずいと思った母が、紗恵が声掛けすれば一緒に食べてくれると思いお願いした。

紗恵「そんなことないよ。お母さんが、おばあちゃん好みの食事をちゃんと用意するから大丈夫だって」
祖母「……そうかい。何だか悪いねぇ。でも、おばあちゃんは今、食欲が湧かなくて……」

紗恵「食欲湧かなくても仕方ないよ。だって、おじいちゃんが亡くなったばかりなんだから」
祖母「それもそうなんだけど……」

紗恵は自分なりに祖母を元気づけようと必死だった。

紗恵「あ、そうだ!」
祖母「?」
紗恵「私ね、通夜の日におじいちゃんと話したの。これはお母さんたちには内緒ね。お母さん、オカルトみたいな話が嫌いみたいだから信じて貰えなそうだし……」
祖母「……」

紗恵「おじいちゃん、黄泉の国が何とかって言ってたけど、何だか分かる?」
祖母「黄泉の国って、死者が行くとこだね。死んだおじいちゃんが行く場所だわ」

紗恵「おばあちゃんは、私がおじいちゃんと話したこと信じる?」
祖母「あぁ、信じるよ。紗恵は嘘をつかないもの」
おばあちゃんはにこやかなな笑顔を見せる。

紗恵「あとね、黒川さんちが祠を守っているとか何とかって……」
祖母「祠を?」
紗恵「うん、それでうちは黒川さんちと夜見さんちを見守る役目だとか何とかって……」
祖母「そうかい。そんな話をしたのかい」
祖母はしんみりとしながら答えた。

祖母「おじいちゃんは紗恵に話したいことがあったんだろうねぇ。おばあちゃんにはお化けとか見えないから、おじいちゃんは見えないよ」
紗恵「私もお化けが見える訳じゃないけど、おじいちゃんとは話せたの。今度、おばあちゃんに伝えたいことがあったら聞いておくからね」

祖母の目に涙が浮かぶ。
祖母「そうだねぇ。頼んだよ」
祖母は服の袖で涙を拭う。

祖母(重一郎さん……。〝あのこと〟を紗恵に話さなきゃいけない時がきたんだね)
祖母(でも紗恵に話したら、紗恵まで居なくなってしまうんじゃないかって思うと怖い)

紗恵が時計を見ると7時半で、のんびりし過ぎると大学に間に合わなくなる時間だった。
紗恵「おじいちゃん、とりあえず朝ご飯食べに行こう!」
祖母「……悪ぃねぇ。お言葉に甘えてお邪魔するね」
紗恵は祖母の手を引いて、自宅に連れて行く。

祖母(正司(父)と佐知子さん(母)にも、紗恵が重一郎さんから聞いたことは話しておかないといけまい)

〇紗恵の自宅・17時頃

大学から帰宅して自分の部屋にバッグを置く。
紗恵(おじいちゃんが言ってた、祠がどうしても気になるー!)
紗恵(お母さんも居ないし、見に行っちゃおうかな)

紗恵はスマホを持ち、自分の部屋から出ようとすると、棚に飾ってある、桜と月のかんざしからチリンと音がしたような気がした。

紗恵(今、音がした?)
かんざしが置いてある方向に目を向けると、特別なの変化もない。
紗恵は再び部屋を出ようとした時、かんざしの音がまた鳴った。
紗恵(やっぱり気のせいじゃないよね?)

紗恵は気になって、かんざしを手に取ると何故か暖かく感じた。試しにかんざしを揺らしても、音がしない。

紗恵(不思議だなぁ?)
紗恵(そういえば、このかんざしはチリンなんて音がするわけがないように気がする?鈴なんてついてないもの)
紗恵(20歳の集いの日も、チリンってなった気がする……!)

紗恵はふとかんざしをポケットに入れて自宅を出る。祖母が庭に出ていないのを確認して、こっそりと自宅から抜け出して桜の木の下に向かう。

紗恵(どこに祠があるんだろう?)
紗恵(見たことなんてないのよね?まさか、あの井戸と呼ばれる場所が祠なのかな?)

紗恵(もう子供じゃないんだから、大きな石をどかして板をずらしてもいいかな?)

紗恵は悪いことをするからか、動悸が激しいし脂汗も出てきた。
紗恵(やっぱりやめようか、どうしようか……)
怖くなり、ポケットの中のかんざしをぎゅっと握る。

紗恵(でも、真実を知りたい)
紗恵は勇気を出して、石をずらすことにした。
石は重くてずらせないかと思ったが、腰を下ろして持ち上げようとすると拍子抜けするほど軽くて、紗恵は後ろに尻もちをついた。

紗恵(いたっ! 何この石? 見かけだけなの?)

板をずらすと、裏側には何やら呪文のようなものがかかれていた。

紗恵(うわー、ちょっとヤバイかな。気味悪い……)
紗恵(取り返しがつかなくなる前にやめた方がいいかな……)
板を元に戻そうとすると、目の前に着物を着た青年が現れた。

青年(悠成)「何をしている?」
紗恵「あなたは誰?」
青年「……」
紗恵「まさかと思うけど、祠の主かしら? 祠がどこにあるか知ってる?」
青年「……ふっ、……無礼な奴だな」
紗恵(今、一瞬だけ笑った?)

青年(気になったら行動に移すタイプなところが、変わってないな)
青年(それに俺を見ても驚かない。まさか、記憶を消したのに消えていないのか?)
青年(しかし、何故、祠の存在を知っている?)

紗恵「おじいちゃんから聞いたの。祠のことが知りたい!」
青年「……何故知りたいのか?」
紗恵「おじいちゃんが私に何かを伝えようとしていたけど、それっきり会えないの。それが何かは分からないけど、大切な何かを忘れてる気がするの。だから、余計に知りたいの」
青年「お前のおじいさんが?」
紗恵「うん、死んじゃったけどね。死んだあとに聞いたの」
青年「……仕方ない、どうなっても知らないからな」

キリッとした顔で頷く紗恵。
青年(言い出したら聞かないのも、紗恵らしいな)
青年(重一郎さんが紗恵に話したのなら仕方ないか……)

板の下を覗くと薄暗く階段があった。

紗恵は青年に案内されるまま、階段を降りていくと祠があった。