黄泉の国の番人は幼なじみの君を愛したい

〇自宅・15時頃

リビングのソファーに寝ている紗恵。

紗恵「……んっ、あれ?」
母「紗恵? 起きたの?」
紗恵(私、確か……?)

母「あなた、桜の木の下で倒れてたのよ! おじいちゃんが見つけてくれなかったら、寒さで凍え死ぬところだったわ!」
紗恵「え? 桜の木の下?」
母「そうよ。もう、本当に何してるのよ?」

母の頭に角が生えている気がする紗恵。さすがにまずいと思うが、何故倒れていたのか記憶にない。起き上がる紗恵。

紗恵「何かさ……とても大切な人に会った気がするけど、誰だか分からないの。夢でも見てたのかな?」
母「大切な人……?」
紗恵「うん。何を話したのかも、姿も覚えてない。でも、絶対に大切な人だったと思うの」
母「……そう。きっと夢を見ていたんだわ。今日は振袖を着るために早起きしたじゃない?そのせいで、うたた寝して夢でも見たのよ」

紗恵「そっか。でも、何で桜の木の下になんか行ったのかな?」
不思議そうに問う紗恵。
母「近道して、遥久くんちにでも行こうと思ったんじゃないの。古い井戸があるから、子どもの頃からお花見以外は近寄ったら駄目だって言ってるのに」
紗恵「……ごめんなさい」

古い井戸は、板で塞いであるだけだ。その上に大きな石がのせてある。井戸といっても、地面に直接掘られていて、上に出ている囲いはない。

紗恵(気味悪いから、井戸には近寄らないようにしてるのに……それに遥久は夕方に迎えに来てくれるんだから、今は行くはずもない)

紗恵(桜も咲いてないのに、何故行こうと思ったのかな?)

紗恵は思い出せずにいた。

母「カフォオレ淹れたから、おやつにしましょう。20歳の集いでみんなで撮影した写真を見せてほしいなぁ。話も聞かせて」
紗恵「うん」
千鶴は母の元に駆け寄り、15時のおやつの準備をする。

〇居酒屋・18時半

20歳の集いの打ち上げで、中学の同級生で居酒屋に来ている。わいわいガヤガヤ楽しんでいる雰囲気。

千鶴「……でね、また振られたの。年上も同い年も年下も上手くいかないんじゃ、どうしろって言うのよ?」
紗恵「まぁまぁまぁ、そのうち、運命の人が現れるって」
千鶴「そのうちっていつ? ねぇ、いつなのよぉ?」
メソメソしている泣き上戸の千鶴を宥める紗恵。

遥久「今日は一段と収集つかなそうだけど、大丈夫か?」
紗恵「大丈夫じゃなさそう……」
友達1「遥久の友達でフリーの人居たら紹介してあげてよ!」
遥久「居るにはいるけど……千鶴と性格が合うかどうか……」

千鶴「ちょっとおー!遥久は私が性格悪いって言うわけ?」
急に遥久に絡み出す千鶴。
遥久「いや、誰もそんなことは言ってないけど……」
キーッ!と怒り出す千鶴。

紗恵「千鶴、ちょっと落ち着いて! 外の空気でも吸いに行こうか?」
千鶴「……うん、行く」
千鶴は紗恵に抱き着く。
千鶴「大好き、紗恵」

外に出た二人。
千鶴の元カレの話など、少しだけ二人で話す。
冬の夜は寒くて、息が白い。

千鶴「何かさー、色々あって飲みすぎたみたい。ごめんね、迷惑かけて」
千鶴は正気に戻ったのか、少し落ち着いてきた。

紗恵「ううん、大丈夫だから気にしないで。私の話も聞いてくれる?」
千鶴「いいよ、何でも話して」

紗恵は真剣な顔で話す。
紗恵「実はさ……今日帰ってからの記憶がないの」
千鶴「どういうこと?」
紗恵「自宅の横に桜の木があるでしょ?」
千鶴「うん」
紗恵「何故か、そこに倒れていたらしいの。でも、自分では行った記憶もなくて……」
千鶴「……紗恵、変なものに取り憑かれてるとか? 昼間はそんな変な感じはしなかったけどなぁ」
千鶴は不思議そうに首を傾げる。
千鶴は幼い頃から霊感があり、普段から、この世には人間と霊体は混在していると言っている。

紗恵「取り憑かれてる? えー、やだよぅ。怖い!」
千鶴「ふふっ、怖がらせるつもりはなかったんだけど。中庭みたいなところを抜けて、遥久の自宅に行こうとしたとか?……で、転んで脳震盪でも起こしたのかな?どじっこな紗恵ならありうる」
紗恵「ひどい! 私そこまで、どじっこじゃないから」
紗恵はぷんすか怒ると、千鶴は笑う。

千鶴「朝早くから起きてたから、もしかしたら寝不足で脳貧血を起こした可能性もあるよね。原因はともあれ、怪我しなくてよかったよ」
紗恵「そうだよね。似たようなことをお母さんからも言われたよ。どこも痛くないし、怪我もなくて、本当に倒れてただけみたい」
千鶴「そっか」

千鶴は一瞬、顔をしかめる。
千鶴(紗恵は、厄介な何かに巻き込まれてる気がする。少しだけ、紗恵の身体から妖とか霊の匂いがする)

千鶴(本人には怖がらせちゃうから、言わないけど……)

千鶴(危険な目に合うようなら、その時は伝えよう)

同級生の男子1「二人で何してるの? 凍え死ぬって」
同級生の男子2「俺たちは喫煙所に行くんだけど」
千鶴「ほんと寒いよね!紗恵、中に入ろー」
紗恵の手を繋いで、居酒屋の中に入る千鶴。

遥久「お前ら、本当に仲がいいな。手なんか繋いじゃって……」
千鶴「だって私たち、親友だもの」
居酒屋の入り口で、遥久と偶然出くわす。遥久はトイレに行ってきたらしい。
千鶴「遥久も、紗恵のナイト役大変ね」
遥久「別にそんなつもりはない。幼なじみだから、隣にいるだけだ」
千鶴「ふぅん……? 本当にそれだけかしら?」
ニヤニヤして笑う千鶴。
遥久「……なっ、本当にそれだけだ」
慌てる遥久にきょとんとしている紗恵。

千鶴(遥久ってば、20歳になっても自分の気持ちを伝えてないのね。気付かない紗恵も大概だけど……)
呆れる千鶴。
紗恵「……?」

〇遥久の車の中・20時過ぎ

居酒屋からの帰り、紗恵は自宅前で下ろしてもらう。
遥久「じゃあ、またな。早く寝ろよ」
紗恵「うん。今日はありがとう。また連絡するね」
手を振って、遥久の車が過ぎ去るのを見送る。

運転しながら顔をしかめる遥久。
遥久(……紗恵から、妙な違和感を感じた。ほんの僅かだが誰かの霊力がまとわりついている?)

遥久(まさか、あいつの?)
遥久(そんな、まさかな……?)