黄泉の国の番人は幼なじみの君を愛したい

〇車内・10時少し前

振袖姿のヒロイン、高瀬 紗恵(たかせ さえ)は、幼なじみの親友・夜見 遥久(よみ はるひさ)が運転する車の助手席に乗っている。

紗恵「今日は一緒に乗せてきてくれてありがとう」
遥久「同じ場所に行くんだから、そんなこと気にしないでよ」
紗恵「……うん!」
紗恵は満面の笑みを見せる。

遥久「それより……紗恵の振袖姿、綺麗だな」
運転しながら、ボソッと呟いた遥久。

紗恵「ふふっ、ありがとう。嬉しい!遥久のスーツ姿も、めちゃくちゃカッコいいよ!」
遥久「……それはどうも」
照れ笑いする遥久。

会場付近に着き、紗恵は先に車から降りて手を振る。
遥久「駐車場に車停めてくるから先に行ってて」
紗恵「ありがとう。向こうで待ってるね!」

〇20歳の集いの会場(市の文化会館)・10時頃

友達「さえー!」
背後から友達たちに呼ばれ、紗恵が振り向く。

紗恵「わぁ! 久しぶり!元気だった?」
友達1「うん! 大学とバイトで忙しくて、なかなか帰省できなかったけどね……」
友達2「 紗恵も元気そうで良かった! このあとの集まり行くでしょ?」
紗恵「もちろん、行くよ」

紗恵が友達たちとはしゃいでいる中、遥久が現われる。
友達1「は、遥久……? しばらく会わないうちにめちゃくちゃデカくなってない?」
遥久「180センチになった」
友達2「高校卒業から伸びたってこと?」
遥久「そうみたいだな」
しれっと答える遥久は165センチくらいだったが、高校卒業後に身長が伸びた。

友達1「もしかして、二人は一緒に来た?」
ニヤニヤして聞いてくる。

紗恵「乗せてきてもらったよ、だって家隣だから」
友達2「いやいや、そういうことじゃないでしょ! 紗恵は遥久の気持ち、全然分かってないじゃーん!」
紗恵「気持ち?」
きょとんとする紗恵。
遥久「おい、余計なこと言うなよ……!」
遥久は照れながら、友達に反論する。

紗恵(気持ちって何だろう?遥久はいつも一緒だから、私にとってはとても大切な親友だけど……)

千鶴(紗恵の親友)「紗恵ー! みんなー! おまたせー!」
紗恵「千鶴……!」
遅れて、紗恵の親友が現われる。

遥久「相変わらず、騒がしい奴だな」
千鶴「……っるさいな!」
遥久の友達「遥久、お前ここに居たのかよ?」
遥久「悪い、今行くとこだった」
遥久の友達「同中の奴ら、向こうに集まってるから、みんなで行こうよ」
紗恵「うん!」

移動して、中学の同級生たちと写真を撮る紗恵たち。
集合写真を撮った時に、頭のかんざしが揺れる。

チリン……。

紗恵のかんざしは、月と桜でできた夜桜をイメージしたもの。このかんざしは、京都に修学旅行に行った時に購入した。

紗恵(はしゃぎすぎたかな? 風もないのに、かんざしが揺れた音がした)

頭のかんざしが気になる紗恵。

友達1「そろそろ会場に入る時間だね!行こう」
紗恵「そうだね!」

みんなで会場の中に入っていく。

〇自宅着・12時過ぎ

車から降りる紗恵。
紗恵「ありがとう! また集まりでね」
遥久「あぁ、また17時半頃に迎えに来るから」

遥久に別れを告げた紗恵。
自宅に着くと急に風が吹いて、かんざしが揺れた。

紗恵(今の風、何……?)

目を細めた時、自宅の奥にある大きな桜の木が気になった。

桜の木「おいで……こっちにおいで」
紗恵「え……?」
紗恵(桜の木が喋った??)

吸い込まれるように桜の木の方に足を運んでしまう紗恵。
桜の木は、紗恵の自宅奥にあり、遥久の自宅ともう1件の家の裏側に位置していて、三つの家の土地の仕切りのような役割もしていた。

紗恵(懐かしいな、ここでよく遥久と遊んだよね。でも、もう一人誰かが居たような……?)

紗恵は桜の木に近付きながら、ふと幼い頃を思い出していた。しかし、もう一人居たはずの子が思い出せない。

桜の木「おめでとう。20歳のお祝いをしよう」

紗恵「え?」

桜の木「今日はお祝いをしてきたんでしょ? ふふふ……」

紗恵(私は夢を見てるの?)

桜の木まで辿り着いた紗恵は、目を閉じて木に右手を充てる。

桜の木「ねぇねぇ、良い夢を見せてあげるから、私に魂をちょうだぁい」

紗恵「え?」

紗恵は急に目の前が真っ暗になり、膝の力も抜けてしまい倒れてしまう。

〇紗恵の夢の中

幼い男の子「紗恵ちゃん、遊ぼ」
桜の木の陰から顔を出す男の子。
幼い紗恵「うん」
幼い男の子「お花見しようと思って、お菓子持ってきたの。食べよ」
幼い紗恵「ありがとう。あ、そうだ! おうちにお団子があるの。紗恵、持ってくるから待っててね」

この場を離れようとした紗恵の腕を男の子が掴む。
幼い男の子「行かないで」
幼い紗恵「え?」

紗恵(一緒に遊んでる男の子が誰か分からない。遥久じゃないみたいだし……誰なの?)

【場面転換】
腕を握っていたのが幼い男の子から、中学生くらいの男の子に切り替わる。
中学生くらいの男の子「行かないでよ、紗恵」
中学生の紗恵「え?」
男の子「遥久に内緒で二人で出かけない?」
紗恵「……でも、いつも三人で居たから遥久も誘わなきゃ」
男の子「紗恵は遥久が好きなの?」
紗恵「いや、そういうわけじゃないけど」
首を振りながら否定する紗恵。

男の子「たまには俺だけの時間をちょうだい。俺の誕生日なんだからさ」
紗恵「……うん」

紗恵(誰だろう? この男の子。思い出せない!)

微笑み合いながら、そっと手を繋ぐ二人。

【場面転換】
修学旅行中、京都の小物屋。
高校生の紗恵は、桜と月のかんざしを試着させてもらっている。

高校の制服をきた男の子「紗恵、そのかんざし似合うよ」
高校生の紗恵「ふふっ、ありがとう。振袖を着た時につけようかな」
男の子「うん、楽しみにしてるから」
照れ笑いする男の子。

紗恵(……あれ? この男の子って確か……!)

〇桜の木の下に戻る。

着物姿で倒れたまま起き上がれない紗恵。
紗恵「……んーん、……っ」

苦しんでいる紗恵の周りを黒い影が取り囲もうとしている。

黒い影「このまま、楽しい夢を見ながら寝ちゃうといいよぉ」
紗恵「うっ……」
黒い影「私にこの身体、ちょうだい」
クスクスと笑い出す黒い影は次第に大きくなってきている。

黒い着物に白い帯を身につけている青年「おい! 何をしている! その娘から離れろ!」
どこからともなく現れた青年は黒い影に手をかざそうとする。
黒い影「……!? お前はまさか、……東の番人か?」
青年「そう、呼ばれているらしいな」
黒い影「我はこの娘の肉体を借りたいだけだ。悪いようにはしない」
青年「今すぐ離れないのなら、消し去るのみ」

慌てる黒い影。
黒い影「わ、分かった! 消さないでくれ……!」
青年「この娘に今後一切、近寄るな。二度目はないぞ」
黒い影「……ちっ」
舌打ちをしてから、ふわっと居なくなる黒い影。

青年は倒れている紗恵を起こそうとした。
紗恵「……ゆう、せい?」
青年「……」
紗恵「悠成(ゆうせい)でしょ?」

紗恵は青年に支えられたまま、涙を流す。そして抱きつく。
紗恵「今までどこに居たの?」
青年「……」
紗恵「私、ずっと忘れてたみたいなの。でも、今はっきりと思い出した。幼い頃から、遥久と三人で一緒に遊んでたよね? どこに行ってたの?」
青年「お前は知らなくていい。そんなことは……」

青年は紗恵の額に、右手の人差し指を触れさせる。
青年「もう忘れていいんだ。頼む、もう思い出さないでくれ」
紗恵「……また私の記憶から、あなたを消すのね?」

何かを思い出したのように呟く紗恵。
青年は「さようなら」とだけ言い、一粒の涙を流しながら人差し指に力を込める。
その時、紗恵は上唇を思いっきり歯で噛んで意識を失った。
青年は意識を失って、愛おしそうに紗恵を抱きしめる。
抱きしめたあと、桜の木に寄りかかるように座らせた。
そして、青年は姿を消した。

紗恵「……」
姿が見えなくなったことを確認した紗恵は、目を開ける。上唇からは血が滲んでいる。

紗恵(今の男の子は絶対に悠成だった。でも、何故私の記憶を消すことができたの?……あなたは一体、何者?)

紗恵(全部思い出した。悠成は私の幼なじみであり、──好きな人)