学校の外周を三周走り、体がだいぶ温まる。
藤丸はその間ずっと喋り続けていた。よく一人でそんなに口が回るな、と感心するほど。
俺はいっさい返事をしない。普通は心が折れて、黙りそうなのに。
頭が悪いのか、メンタルが強すぎるのか。……おそらく、どちらもだろう。
「二、三年生はパス練習。一年生はこっちに集まって」
三浦先輩の指示で、一年生はそちらに駆ける。
東堂先輩がカラーコーンを一列に並べていた。極端に幅が狭い箇所もあり、意地が悪い。カラーコーンの間をジグザグに進み、まずはドリブル力を見るようだ。
俺は高崎と組み、インサイドで軽く蹴る。高崎の足元に転がった。
高崎は蹴る瞬間だけボールを見るが、あとは一年生から目線を外さない。
「おい、真面目にやれよ」
少し強く蹴るが、高崎は気にした様子もない。
「だってさ、ヒメは絶対に俺の足元に蹴ってくれるじゃん。だからちょっとくらい見させてよ」
はぁ、と大きな息を吐き出す。
「……で? 上手いやついる?」
「ヒメも興味あるんじゃん。今のところ飛び抜けて上手いやつはいないな。全員そこそこ」
高崎がボールを蹴る。右に少し動いて止めた。すかさず蹴る。ボールは高崎の足元に吸い込まれていった。
「あっ、次、あいつだよ」
高崎がボールを蹴って、顎で一年生の方を差す。
ボールを止めると、そちらに目を向けた。
藤丸が視線に気付いたのか、笑みを深くする。
ヘラヘラしやがって。無意識に舌打ちしていた。
だが、藤丸が足先でボールを突いた瞬間、空気が一変した。
鋭い踏み込みに、足元に吸い付くような巧みなボール捌き。藤丸は意図的に狭められたところも、滑らかに駆け抜けていった。
パスを回していた二、三年生の足が止まる。藤丸は一身に視線を集めた。
最後のコーンを鋭い切り返しでかわし、ピタリと静止する。
「あいつ、上手いじゃん」
「俺の方が速い」
高崎が興奮して声を上げるが、素直に認めるのが癪で、奥歯を噛んで視線を外す。
悔しいけれど、握りしめた拳が微かに震えるのを止められなかった。
「高崎、パス練習を続けるぞ」
「あいつ、ヒメに向かってめっちゃ手を振ってるぞ。応えなくていいのか?」
「するわけねーだろ」
強めに蹴るが、高崎は難なく止めた。
「あぶねーな。もっと優しく蹴ろよ」
「的確に足元を狙ってるだろ。それに高崎なら止められるってわかってるから、強く蹴ってんだよ」
一年生のドリブルが終わるまで、俺は真面目に練習をする。高崎はやはり一年生を気にしていた。
「次はスタート地点で俺にパスを出し、ダイレクトで前に出すから走り込んでシュートを打ってほしい」
全員のドリブルが終わったようだ。東堂先輩が説明をしていた。
三浦先輩は腰を落として、ゴールを守っている。
練習をしていても気になってしまい、二、三年生はゾロゾロと見やすい位置に移動する。
「ほら、ヒメも気になってんだろ」
高崎に肩を組まれ、みんなが集まっているところに連れて行かれた。
東堂先輩は仕方がないな、とでもいうように息を吐く。
「見学するのか? それなら高崎、ちょっと来い」
三浦先輩に手招きされて、高崎が「なんですか?」と弾むように飛んでいく。
「DFがいたほうが、緊張感が出るだろ」
「シュートを見たいんですよね? カットしてもいいんですか?」
「いや、最終的には打たせたい。嫌な位置どりしたり、揺さぶったり圧をかけていけ」
「おっけーっす!」
高崎は緊張感のない声で、敬礼をした。
一年生が東堂先輩にパスを出して、前方に走り込む。東堂先輩は左足でパスを返し、一年生が受け取ると正面には高崎。
嫌な間合いの取り方だな。張り付かずに、常に前方を位置取っていて抜きにくい。
一年生は体勢を崩しながらも、シュートを打った。コースがバレバレで、三浦先輩が難なくキャッチする。
二人目、三人目も同じような結果だった。
藤丸がスタート位置に着く。目の色が変わった。
並んでいる最中は、こちらを見てニヤけていたのに。プレーを見ていると、視界の端にチラチラ映り込んでいてウザかった。
藤丸のふざけた空気は霧散し、東堂先輩にパスを出す。東堂先輩のパスが、他の一年生より鋭く見えた。藤丸に期待しているということだろう。
藤丸は驚異的なスピードで、ボールの軌道へと走り込む。
もっとキツくても届きそうだな。
高崎が立ちはだかる。
藤丸も抜こうと試みてはいるが、高崎だって簡単には抜かされない。
ゴールまで角度のないところまで追い込まれ、藤丸が右足を振り抜いた。矢のように鋭く飛び、高崎の傍を抜けてゴールポストに弾かれる。
藤丸は、はー、と大きく息を吐き出して、こちらに駆けてきた。
「オレに釘付けだったみたいですね」
藤丸は挑発的に目を細めて、口角を上げる。
「は?」
「だって、すごく笑っていましたよ」
口元を手で覆う。
最悪だ。俺もパスを出してみたい、と頭をよぎってしまった。
「でもシュートは外したな」
「運が悪いですね」
「運じゃねーよ。俺なら決めてた。東堂先輩も、な」
藤丸の眉がピクリと動く。
ヘラヘラしていても、サッカーに関してはプライドがあるらしい。
「お前は高崎に、あそこへ追い込まれた。シュートを打ったんじゃない。打たされたんだ」
藤丸が高崎に剣のある目を向ける。
「中学までは上手いってチヤホヤされていたかもしれない。高崎のこと、簡単に抜けるとでも思ったか? うちのスタメン、軽く見んなよ」
藤丸が俺を見下ろす。
今までの軽薄な笑い顔ではなく、悔しさを滲ませ、剝き出しの闘志がビシビシと伝わってきた。
「俺なら決めれるって言ったよな。そこで見てろ」
全員が終わったタイミングで「俺もいいですか?」と声を張る。
「よし、ヒメ! うちの10番の実力、見せつけてやれ」
三浦先輩の了承を得て、パス練習で使っていたボール拾う。スタート位置まで走り、すぐに東堂先輩へパスを出した。
大きく足を踏み込み、前に走る。受け慣れた東堂先輩のパスに足を伸ばしてキープすると、ゴールポストの右方面に走る。
藤丸が高崎に追い込まれた場所だ。
高崎が目を輝かせて突っ込んできた。俺の意図が伝わったのだろう。
角度はなく、シュートコースは狭い。
微妙に利き足である右足側に立たれ、本当に嫌な守備だ。
俺は左足を振り抜き、高崎の左側からカーブを描いてゴールネットを揺らす。
高崎が後ろを振り返った。「ははっ」と乾いた笑い声を上げる。
「マジびびった。狭いところを、針の穴を通すようなコントロールで決めてくるかと思ったから」
「そこからだと、三浦先輩に止められやすいだろ」
高崎に背をトンと叩かれた。
二、三年生は「さすがヒメ!」と和気あいあいとしていたが、一年生は目を丸くして口を半開きにして立ち尽くしている。
藤丸に目を向けた。奥歯を噛み締め、拳をキツく握っている。その表情で、溜飲を下げた。
その後は一年生を交えて、ミニゲームをする。
藤丸は俺の一挙手一投足を見逃さないといった様子で、射抜くような視線を突き刺してきた。
獰猛な獣に狙われているような、ピリピリとした威圧感を肌で感じて高揚する。
こんな顔ができるなら、最初からやれよ。
部活後に部室で高崎と話しながら着替えていると、藤丸が「高崎先輩」と話しかけてきた。
「ん? 俺? ヒメじゃなくて?」
高崎は自分を指して、キョトンと目を丸くする。
「オレは高崎先輩のことを、見くびっていました。簡単に抜けるって、図に乗っていました」
「……俺は喧嘩を売られてんの? 俺が優しくってよかったな。ヒメだったら、掴みかかって取っ組み合いが始まってたぞ」
俺が言ったことを反省したのだろうか。
真面目に聞いてやれ。と込めて、高崎の肩にポンと手を置く。
「オレってイケメンだし背も高くて、さらにサッカーも一番上手かったんですよ」
「俺は何を聞かされてんの? いくら優しい俺でも、そろそろ怒るよ」
高崎は怒っていい。
俺は藤丸に半目を向ける。
反省したんじゃないのかよ、と呆れた気持ちが心に広がった。
「だから高校でもすぐに一目置かれて、重宝されるんだろうなって。高崎先輩はオレの引き立て役くらいに思っていました。すみませんでした」
「うー……。謝られたせいで、この憤りをどこにぶつけたらいいんだろう」
高崎が口元をピクピクと引き攣らせて笑っている。
「普通に藤丸にぶつけろよ」
高崎なら許される。
聞いて損したと思い、練習着を畳んでスクールバッグに詰めた。
「ヒメ先輩もすみませんでした」
「あ?」
素直に謝られて、調子が狂う。
「最初はめっちゃ可愛い。好みだなー、って声をかけました。めちゃくちゃモテたんで、いけると思ったし、一回遊べたらいいなって軽い気持ちでした」
鼻の付け根に皺を刻んで睨みつける。
「でもヒメ先輩がサッカーしてるところを見て、すげーかっこよくて、一緒にサッカーができたら気持ちいいだろうなって昂りました」
「明日からはふざけねーで、真面目にやれよ」
そうしたら、藤丸が決められるようにパスを出してやらないこともない。
藤丸は「はい」と元気に返事をした。
「それで、土曜日と日曜日のどっちでデートをしますか?」
「しねーよ。何言ってんだ? 軽い気持ちで声をかけたんだろ? もう俺に構うことねーだろ」
反省したはずだよな。
眉を寄せて、睨みつける。
「最初はそうでした。でも今はもっとヒメ先輩のことを、知りたくなりました。サッカーをしているところを見たら、思ったよりずっと面白い人だったので。すげー興味が湧きました。だから行きたい場所を、考えておいてくださいね」
怒涛の展開に理解が追いつかず、額を押さえた。
「絶対に、行かない!」
心からの言葉を投げつけた。
藤丸はその間ずっと喋り続けていた。よく一人でそんなに口が回るな、と感心するほど。
俺はいっさい返事をしない。普通は心が折れて、黙りそうなのに。
頭が悪いのか、メンタルが強すぎるのか。……おそらく、どちらもだろう。
「二、三年生はパス練習。一年生はこっちに集まって」
三浦先輩の指示で、一年生はそちらに駆ける。
東堂先輩がカラーコーンを一列に並べていた。極端に幅が狭い箇所もあり、意地が悪い。カラーコーンの間をジグザグに進み、まずはドリブル力を見るようだ。
俺は高崎と組み、インサイドで軽く蹴る。高崎の足元に転がった。
高崎は蹴る瞬間だけボールを見るが、あとは一年生から目線を外さない。
「おい、真面目にやれよ」
少し強く蹴るが、高崎は気にした様子もない。
「だってさ、ヒメは絶対に俺の足元に蹴ってくれるじゃん。だからちょっとくらい見させてよ」
はぁ、と大きな息を吐き出す。
「……で? 上手いやついる?」
「ヒメも興味あるんじゃん。今のところ飛び抜けて上手いやつはいないな。全員そこそこ」
高崎がボールを蹴る。右に少し動いて止めた。すかさず蹴る。ボールは高崎の足元に吸い込まれていった。
「あっ、次、あいつだよ」
高崎がボールを蹴って、顎で一年生の方を差す。
ボールを止めると、そちらに目を向けた。
藤丸が視線に気付いたのか、笑みを深くする。
ヘラヘラしやがって。無意識に舌打ちしていた。
だが、藤丸が足先でボールを突いた瞬間、空気が一変した。
鋭い踏み込みに、足元に吸い付くような巧みなボール捌き。藤丸は意図的に狭められたところも、滑らかに駆け抜けていった。
パスを回していた二、三年生の足が止まる。藤丸は一身に視線を集めた。
最後のコーンを鋭い切り返しでかわし、ピタリと静止する。
「あいつ、上手いじゃん」
「俺の方が速い」
高崎が興奮して声を上げるが、素直に認めるのが癪で、奥歯を噛んで視線を外す。
悔しいけれど、握りしめた拳が微かに震えるのを止められなかった。
「高崎、パス練習を続けるぞ」
「あいつ、ヒメに向かってめっちゃ手を振ってるぞ。応えなくていいのか?」
「するわけねーだろ」
強めに蹴るが、高崎は難なく止めた。
「あぶねーな。もっと優しく蹴ろよ」
「的確に足元を狙ってるだろ。それに高崎なら止められるってわかってるから、強く蹴ってんだよ」
一年生のドリブルが終わるまで、俺は真面目に練習をする。高崎はやはり一年生を気にしていた。
「次はスタート地点で俺にパスを出し、ダイレクトで前に出すから走り込んでシュートを打ってほしい」
全員のドリブルが終わったようだ。東堂先輩が説明をしていた。
三浦先輩は腰を落として、ゴールを守っている。
練習をしていても気になってしまい、二、三年生はゾロゾロと見やすい位置に移動する。
「ほら、ヒメも気になってんだろ」
高崎に肩を組まれ、みんなが集まっているところに連れて行かれた。
東堂先輩は仕方がないな、とでもいうように息を吐く。
「見学するのか? それなら高崎、ちょっと来い」
三浦先輩に手招きされて、高崎が「なんですか?」と弾むように飛んでいく。
「DFがいたほうが、緊張感が出るだろ」
「シュートを見たいんですよね? カットしてもいいんですか?」
「いや、最終的には打たせたい。嫌な位置どりしたり、揺さぶったり圧をかけていけ」
「おっけーっす!」
高崎は緊張感のない声で、敬礼をした。
一年生が東堂先輩にパスを出して、前方に走り込む。東堂先輩は左足でパスを返し、一年生が受け取ると正面には高崎。
嫌な間合いの取り方だな。張り付かずに、常に前方を位置取っていて抜きにくい。
一年生は体勢を崩しながらも、シュートを打った。コースがバレバレで、三浦先輩が難なくキャッチする。
二人目、三人目も同じような結果だった。
藤丸がスタート位置に着く。目の色が変わった。
並んでいる最中は、こちらを見てニヤけていたのに。プレーを見ていると、視界の端にチラチラ映り込んでいてウザかった。
藤丸のふざけた空気は霧散し、東堂先輩にパスを出す。東堂先輩のパスが、他の一年生より鋭く見えた。藤丸に期待しているということだろう。
藤丸は驚異的なスピードで、ボールの軌道へと走り込む。
もっとキツくても届きそうだな。
高崎が立ちはだかる。
藤丸も抜こうと試みてはいるが、高崎だって簡単には抜かされない。
ゴールまで角度のないところまで追い込まれ、藤丸が右足を振り抜いた。矢のように鋭く飛び、高崎の傍を抜けてゴールポストに弾かれる。
藤丸は、はー、と大きく息を吐き出して、こちらに駆けてきた。
「オレに釘付けだったみたいですね」
藤丸は挑発的に目を細めて、口角を上げる。
「は?」
「だって、すごく笑っていましたよ」
口元を手で覆う。
最悪だ。俺もパスを出してみたい、と頭をよぎってしまった。
「でもシュートは外したな」
「運が悪いですね」
「運じゃねーよ。俺なら決めてた。東堂先輩も、な」
藤丸の眉がピクリと動く。
ヘラヘラしていても、サッカーに関してはプライドがあるらしい。
「お前は高崎に、あそこへ追い込まれた。シュートを打ったんじゃない。打たされたんだ」
藤丸が高崎に剣のある目を向ける。
「中学までは上手いってチヤホヤされていたかもしれない。高崎のこと、簡単に抜けるとでも思ったか? うちのスタメン、軽く見んなよ」
藤丸が俺を見下ろす。
今までの軽薄な笑い顔ではなく、悔しさを滲ませ、剝き出しの闘志がビシビシと伝わってきた。
「俺なら決めれるって言ったよな。そこで見てろ」
全員が終わったタイミングで「俺もいいですか?」と声を張る。
「よし、ヒメ! うちの10番の実力、見せつけてやれ」
三浦先輩の了承を得て、パス練習で使っていたボール拾う。スタート位置まで走り、すぐに東堂先輩へパスを出した。
大きく足を踏み込み、前に走る。受け慣れた東堂先輩のパスに足を伸ばしてキープすると、ゴールポストの右方面に走る。
藤丸が高崎に追い込まれた場所だ。
高崎が目を輝かせて突っ込んできた。俺の意図が伝わったのだろう。
角度はなく、シュートコースは狭い。
微妙に利き足である右足側に立たれ、本当に嫌な守備だ。
俺は左足を振り抜き、高崎の左側からカーブを描いてゴールネットを揺らす。
高崎が後ろを振り返った。「ははっ」と乾いた笑い声を上げる。
「マジびびった。狭いところを、針の穴を通すようなコントロールで決めてくるかと思ったから」
「そこからだと、三浦先輩に止められやすいだろ」
高崎に背をトンと叩かれた。
二、三年生は「さすがヒメ!」と和気あいあいとしていたが、一年生は目を丸くして口を半開きにして立ち尽くしている。
藤丸に目を向けた。奥歯を噛み締め、拳をキツく握っている。その表情で、溜飲を下げた。
その後は一年生を交えて、ミニゲームをする。
藤丸は俺の一挙手一投足を見逃さないといった様子で、射抜くような視線を突き刺してきた。
獰猛な獣に狙われているような、ピリピリとした威圧感を肌で感じて高揚する。
こんな顔ができるなら、最初からやれよ。
部活後に部室で高崎と話しながら着替えていると、藤丸が「高崎先輩」と話しかけてきた。
「ん? 俺? ヒメじゃなくて?」
高崎は自分を指して、キョトンと目を丸くする。
「オレは高崎先輩のことを、見くびっていました。簡単に抜けるって、図に乗っていました」
「……俺は喧嘩を売られてんの? 俺が優しくってよかったな。ヒメだったら、掴みかかって取っ組み合いが始まってたぞ」
俺が言ったことを反省したのだろうか。
真面目に聞いてやれ。と込めて、高崎の肩にポンと手を置く。
「オレってイケメンだし背も高くて、さらにサッカーも一番上手かったんですよ」
「俺は何を聞かされてんの? いくら優しい俺でも、そろそろ怒るよ」
高崎は怒っていい。
俺は藤丸に半目を向ける。
反省したんじゃないのかよ、と呆れた気持ちが心に広がった。
「だから高校でもすぐに一目置かれて、重宝されるんだろうなって。高崎先輩はオレの引き立て役くらいに思っていました。すみませんでした」
「うー……。謝られたせいで、この憤りをどこにぶつけたらいいんだろう」
高崎が口元をピクピクと引き攣らせて笑っている。
「普通に藤丸にぶつけろよ」
高崎なら許される。
聞いて損したと思い、練習着を畳んでスクールバッグに詰めた。
「ヒメ先輩もすみませんでした」
「あ?」
素直に謝られて、調子が狂う。
「最初はめっちゃ可愛い。好みだなー、って声をかけました。めちゃくちゃモテたんで、いけると思ったし、一回遊べたらいいなって軽い気持ちでした」
鼻の付け根に皺を刻んで睨みつける。
「でもヒメ先輩がサッカーしてるところを見て、すげーかっこよくて、一緒にサッカーができたら気持ちいいだろうなって昂りました」
「明日からはふざけねーで、真面目にやれよ」
そうしたら、藤丸が決められるようにパスを出してやらないこともない。
藤丸は「はい」と元気に返事をした。
「それで、土曜日と日曜日のどっちでデートをしますか?」
「しねーよ。何言ってんだ? 軽い気持ちで声をかけたんだろ? もう俺に構うことねーだろ」
反省したはずだよな。
眉を寄せて、睨みつける。
「最初はそうでした。でも今はもっとヒメ先輩のことを、知りたくなりました。サッカーをしているところを見たら、思ったよりずっと面白い人だったので。すげー興味が湧きました。だから行きたい場所を、考えておいてくださいね」
怒涛の展開に理解が追いつかず、額を押さえた。
「絶対に、行かない!」
心からの言葉を投げつけた。



