〇伊吹の屋敷・客間
3話ラスト続き
志乃と伊吹は向かい合って見つめ合う
誰も言葉を発せない。
志乃は目をぱちぱちと瞬きをして
今、自分が何を言われたのか理解できていない。
志乃「……え?」
伊吹「聞こえなかったか」
志乃「い、いえ」
志乃「聞こえましたけど……」
志乃は状況が把握できず、再び固まる。
狐の妖が志乃のひざ元に近寄り教える。
狐「嫁だって!」
狸「伊吹が嫁にもらいたいんだって!」
二人のやり取りを見ていた薫子、いらだちでフルフルと震えている
薫子「ふざけないで!!」
怒りのまま、薫子はばんっと机を叩く。
薫子「本気で言っているの!?」
伊吹「ああ」
薫子「離縁印があるのよ!? 穢れなのよ!?」
伊吹「だから何だ。問題ないと言っただろ」
薫子「……っ」
伊吹「不要だと決めたのはお前たちだ。俺ではない」
薫子は言い返せず、悔しそうに唇を噛む。
伊吹「話は終わりだ。用は済んだだろ。帰れ」
薫子「……!」
薫子は志乃を睨みつける。
薫子「お姉さまなんか。絶対に幸せにさせないんだから」
勢いよく言い捨てると、客間を出て行こうとする薫子。
志乃は言い返せず視線で追うだけ。
その時。伊吹が薫子を止める
伊吹「待て」
すごみのある伊吹の声に、薫子の足が止まる。
振り返る薫子。
伊吹は腕を組み、冷たい目で薫子を見ていた。
伊吹「こちらもお前とは二度と関わりたくない?正直、視界に入れたくもない」
薫子「っ……!」
薫子の顔が引きつる。伊吹は気にした様子もない。
伊吹「だが、志乃を妻に迎えるなら話は別だ」
志乃「え……」
伊吹「筋は通さねばならん。近いうちに白峰家へ挨拶へ伺う」
伊吹「その時は嫌でも顔を合わせることになるな」
薫子「……」
薫子の表情が固まる。「はっ」と鼻で笑って、そのまま乱暴に障子を開ける。
ばたん!
大きな音を立てて出て行く。
〇伊吹の屋敷・居間
志乃は薫子の無礼を申し訳なさそうに、伊吹に頭をさげる
志乃「あの……」
伊吹「何だ」
志乃「先ほどは薫子が、無礼なことを言って申し訳ありませんでした」
伊吹「……志乃が謝ることではないだろう」
志乃「それで、えっと……」
もじもじと聞きにくそうにする志乃
志乃は3話ラストで伊吹が言った〝妻〟と言ったことについて聞きたい
伊吹「嫁にもらうって話か」
志乃「そ、それです!」
伊吹から言われて、ほっとしながらも慌てる志乃。
伊吹は少しだけ口元を緩める。
志乃「どうして私なんかに」
伊吹「俺には志乃が必要だからだ」
志乃「必要……?」
伊吹の言葉に首をかしげる志乃
伊吹は庭であそんでいる妖たちに視線を向ける
伊吹の視線の先には、猫又の妖・狸の妖・狐のあやかしが遊んでいる。
狐「今日の飯はなにかなー」
狸「さかながいいな」
志乃「ふふっ」
妖たちの会話が聞こえて、思わずくすっと笑う志乃
伊吹は志乃に優しく尋ねる
伊吹「何だ。何と言っている?」
志乃「ご飯はさかながいいなあーって言ってます」
伊吹「……そうか」
志乃の話を聞いて、柔らかく笑う伊吹
志乃「……声は聞こえないんですか?」
伊吹「ああ」
伊吹は妖たちを見ながら頷く。隣で驚く志乃。
志乃「でも伊吹様も見えてますよね」
伊吹「見えてはいる」
伊吹は庭の狐へ視線を向ける。
妖たちは何か一生懸命話している。しかし伊吹には聞こえない。
伊吹「昔は聞こえた」
志乃「え?」
伊吹「子供の頃はな。今よりずっと賑やかだった。だが聞こえなくなった」
志乃「どうして……」
伊吹は少し黙る。
伊吹「この傷ができてからだ」
そういって、伊吹は着ていた着物をゆるめ、志乃に背中の傷を見せる。
志乃の視線もそこへ向く。
志乃「……!」
伊吹の背中には大きな傷跡が。なにかに着られたような傷跡は、まるで×のように見える
伊吹「退魔役になって間もない頃だった」
伊吹「人の穢れが生んだ妖を討った。その時についた傷だ」
狐の妖と猫又が二人の元に寄ってきて悲しそうな顔をする。
狐「伊吹は痛そうだった」
志乃は狐の妖の言葉を聞いて、伊吹の顔をみる。
志乃「狐さんが、その時、とても痛そうだったって」
志乃が通訳をすると、伊吹が目を見開く。
狐「そうだ!」
狸「ずっと寝てた!」
伊吹は狐を見る。狐は必死に頷いている。
当然伊吹には聞こえない。
志乃「ずっと寝てたって……」
志乃(昏睡状態ってこと?)
志乃(命が危ないほどの怪我だったんだ)
伊吹「そうか」
志乃「どうして聞こえなくなったんでしょう」
伊吹「分からん。ただ……」
伊吹は、何か考えるように空を見上げる。
伊吹「穢れを抱えた者には聞こえなくなる。そう言われている」
志乃「穢れ……」
伊吹「ああ。だから君は珍しい。妖に好かれ、妖の声が聞こえる。穢れがないからだろうな」
志乃は自分が褒められているような、不思議な感覚。
けれど、すぐに視線を落とす。着物の裾をぎゅっと握りしめる。
志乃「でも私は……けがれています」
伊吹「離縁印があるからか?」
志乃は答えない。ただ首元の傷を隠すように手で覆う。
伊吹「関係ない」
伊吹「本当に穢れている人間なら、妖は近寄らん」
狐「そうだぞ!」
狸「おれたち志乃好き!」
妖たちが志乃の体に抱き着き、志乃が思わず笑う。
伊吹はその顔を見つめる。
伊吹「少なくとも。妖たちはそう思っていないらしい」
伊吹「そんな志乃だから、そばにいてほしい。君と一緒にいたら、また力を取り戻せそうな気がするんだ」
伊吹は右手をぎゅっと握り見つめる。
志乃(伊吹様も、人間は欲まみれだとおっしゃっていた)
志乃(こんな私でも、誰かの役に……)
志乃(伊吹様のお役に立てるなら……)
志乃はぐっと口をつむぎ、意を決したような顔をする
志乃「不束者ですが……」
志乃「喜んでお受けさせていただきます」
志乃はそう言って深々と頭を下げる。
〇白峰家・夕
(薫子視点)
白峰家に帰宅した薫子
薫子(なにあれ!なんなのよもう!)
薫子(どうして、いつもいつもお姉様ばっかり!)
薫子は苛立ちを隠そうともせず、廊下をどかどかと歩いていく。
握り締めた扇子がぎしりと音を立てる。
母・珠代が出迎える。
珠代「あら、薫子おかえり」
薫子「お姉さまの居場所がわかったわ」
珠代に素っ気なく返す薫子。
珠代「まあ。どこにいたの?」
薫子「町の外に出て、対魔役を務める八雲伊吹様にいた」
珠代「なんですって!? 八雲様のお屋敷に!?」
薫子「そんなに驚くこと?」
珠代は家事をしていた手を止めて、薫子の元にかけよってくる
珠代「当たり前でしょう!」
珠代「八雲様といったら、退魔役を束ねる名家のお方よ!」
珠代「本来なら私たちなんかお目通りも叶わないお方なの!」
薫子「……」
珠代「へえ、志乃が八雲様の家にねえ。もし気に入られたら、白峰家の格も上がるわ」
珠代「志乃は運だけは良かったのね」
珠代は嬉しそうに満足気な笑みを浮かべる。
反して薫子は不服そうに、笑顔が消える。
薫子(あんな離縁印付きが? なんで気に入られるのよ)
薫子(あの男、私にはひどい言いようだった……)
薫子(絶対に許さないーー)
ぎりっと奥歯を噛み締めて悔しそうな顔をする薫子
3話ラスト続き
志乃と伊吹は向かい合って見つめ合う
誰も言葉を発せない。
志乃は目をぱちぱちと瞬きをして
今、自分が何を言われたのか理解できていない。
志乃「……え?」
伊吹「聞こえなかったか」
志乃「い、いえ」
志乃「聞こえましたけど……」
志乃は状況が把握できず、再び固まる。
狐の妖が志乃のひざ元に近寄り教える。
狐「嫁だって!」
狸「伊吹が嫁にもらいたいんだって!」
二人のやり取りを見ていた薫子、いらだちでフルフルと震えている
薫子「ふざけないで!!」
怒りのまま、薫子はばんっと机を叩く。
薫子「本気で言っているの!?」
伊吹「ああ」
薫子「離縁印があるのよ!? 穢れなのよ!?」
伊吹「だから何だ。問題ないと言っただろ」
薫子「……っ」
伊吹「不要だと決めたのはお前たちだ。俺ではない」
薫子は言い返せず、悔しそうに唇を噛む。
伊吹「話は終わりだ。用は済んだだろ。帰れ」
薫子「……!」
薫子は志乃を睨みつける。
薫子「お姉さまなんか。絶対に幸せにさせないんだから」
勢いよく言い捨てると、客間を出て行こうとする薫子。
志乃は言い返せず視線で追うだけ。
その時。伊吹が薫子を止める
伊吹「待て」
すごみのある伊吹の声に、薫子の足が止まる。
振り返る薫子。
伊吹は腕を組み、冷たい目で薫子を見ていた。
伊吹「こちらもお前とは二度と関わりたくない?正直、視界に入れたくもない」
薫子「っ……!」
薫子の顔が引きつる。伊吹は気にした様子もない。
伊吹「だが、志乃を妻に迎えるなら話は別だ」
志乃「え……」
伊吹「筋は通さねばならん。近いうちに白峰家へ挨拶へ伺う」
伊吹「その時は嫌でも顔を合わせることになるな」
薫子「……」
薫子の表情が固まる。「はっ」と鼻で笑って、そのまま乱暴に障子を開ける。
ばたん!
大きな音を立てて出て行く。
〇伊吹の屋敷・居間
志乃は薫子の無礼を申し訳なさそうに、伊吹に頭をさげる
志乃「あの……」
伊吹「何だ」
志乃「先ほどは薫子が、無礼なことを言って申し訳ありませんでした」
伊吹「……志乃が謝ることではないだろう」
志乃「それで、えっと……」
もじもじと聞きにくそうにする志乃
志乃は3話ラストで伊吹が言った〝妻〟と言ったことについて聞きたい
伊吹「嫁にもらうって話か」
志乃「そ、それです!」
伊吹から言われて、ほっとしながらも慌てる志乃。
伊吹は少しだけ口元を緩める。
志乃「どうして私なんかに」
伊吹「俺には志乃が必要だからだ」
志乃「必要……?」
伊吹の言葉に首をかしげる志乃
伊吹は庭であそんでいる妖たちに視線を向ける
伊吹の視線の先には、猫又の妖・狸の妖・狐のあやかしが遊んでいる。
狐「今日の飯はなにかなー」
狸「さかながいいな」
志乃「ふふっ」
妖たちの会話が聞こえて、思わずくすっと笑う志乃
伊吹は志乃に優しく尋ねる
伊吹「何だ。何と言っている?」
志乃「ご飯はさかながいいなあーって言ってます」
伊吹「……そうか」
志乃の話を聞いて、柔らかく笑う伊吹
志乃「……声は聞こえないんですか?」
伊吹「ああ」
伊吹は妖たちを見ながら頷く。隣で驚く志乃。
志乃「でも伊吹様も見えてますよね」
伊吹「見えてはいる」
伊吹は庭の狐へ視線を向ける。
妖たちは何か一生懸命話している。しかし伊吹には聞こえない。
伊吹「昔は聞こえた」
志乃「え?」
伊吹「子供の頃はな。今よりずっと賑やかだった。だが聞こえなくなった」
志乃「どうして……」
伊吹は少し黙る。
伊吹「この傷ができてからだ」
そういって、伊吹は着ていた着物をゆるめ、志乃に背中の傷を見せる。
志乃の視線もそこへ向く。
志乃「……!」
伊吹の背中には大きな傷跡が。なにかに着られたような傷跡は、まるで×のように見える
伊吹「退魔役になって間もない頃だった」
伊吹「人の穢れが生んだ妖を討った。その時についた傷だ」
狐の妖と猫又が二人の元に寄ってきて悲しそうな顔をする。
狐「伊吹は痛そうだった」
志乃は狐の妖の言葉を聞いて、伊吹の顔をみる。
志乃「狐さんが、その時、とても痛そうだったって」
志乃が通訳をすると、伊吹が目を見開く。
狐「そうだ!」
狸「ずっと寝てた!」
伊吹は狐を見る。狐は必死に頷いている。
当然伊吹には聞こえない。
志乃「ずっと寝てたって……」
志乃(昏睡状態ってこと?)
志乃(命が危ないほどの怪我だったんだ)
伊吹「そうか」
志乃「どうして聞こえなくなったんでしょう」
伊吹「分からん。ただ……」
伊吹は、何か考えるように空を見上げる。
伊吹「穢れを抱えた者には聞こえなくなる。そう言われている」
志乃「穢れ……」
伊吹「ああ。だから君は珍しい。妖に好かれ、妖の声が聞こえる。穢れがないからだろうな」
志乃は自分が褒められているような、不思議な感覚。
けれど、すぐに視線を落とす。着物の裾をぎゅっと握りしめる。
志乃「でも私は……けがれています」
伊吹「離縁印があるからか?」
志乃は答えない。ただ首元の傷を隠すように手で覆う。
伊吹「関係ない」
伊吹「本当に穢れている人間なら、妖は近寄らん」
狐「そうだぞ!」
狸「おれたち志乃好き!」
妖たちが志乃の体に抱き着き、志乃が思わず笑う。
伊吹はその顔を見つめる。
伊吹「少なくとも。妖たちはそう思っていないらしい」
伊吹「そんな志乃だから、そばにいてほしい。君と一緒にいたら、また力を取り戻せそうな気がするんだ」
伊吹は右手をぎゅっと握り見つめる。
志乃(伊吹様も、人間は欲まみれだとおっしゃっていた)
志乃(こんな私でも、誰かの役に……)
志乃(伊吹様のお役に立てるなら……)
志乃はぐっと口をつむぎ、意を決したような顔をする
志乃「不束者ですが……」
志乃「喜んでお受けさせていただきます」
志乃はそう言って深々と頭を下げる。
〇白峰家・夕
(薫子視点)
白峰家に帰宅した薫子
薫子(なにあれ!なんなのよもう!)
薫子(どうして、いつもいつもお姉様ばっかり!)
薫子は苛立ちを隠そうともせず、廊下をどかどかと歩いていく。
握り締めた扇子がぎしりと音を立てる。
母・珠代が出迎える。
珠代「あら、薫子おかえり」
薫子「お姉さまの居場所がわかったわ」
珠代に素っ気なく返す薫子。
珠代「まあ。どこにいたの?」
薫子「町の外に出て、対魔役を務める八雲伊吹様にいた」
珠代「なんですって!? 八雲様のお屋敷に!?」
薫子「そんなに驚くこと?」
珠代は家事をしていた手を止めて、薫子の元にかけよってくる
珠代「当たり前でしょう!」
珠代「八雲様といったら、退魔役を束ねる名家のお方よ!」
珠代「本来なら私たちなんかお目通りも叶わないお方なの!」
薫子「……」
珠代「へえ、志乃が八雲様の家にねえ。もし気に入られたら、白峰家の格も上がるわ」
珠代「志乃は運だけは良かったのね」
珠代は嬉しそうに満足気な笑みを浮かべる。
反して薫子は不服そうに、笑顔が消える。
薫子(あんな離縁印付きが? なんで気に入られるのよ)
薫子(あの男、私にはひどい言いようだった……)
薫子(絶対に許さないーー)
ぎりっと奥歯を噛み締めて悔しそうな顔をする薫子



