不要と×を刻まれた花嫁

二話

〇伊吹の屋敷・夜
大きな屋敷の前。
伊吹の後ろを歩く志乃は、不安そうな表情。
志乃(離縁されて、実家からも追い出されて)
志乃(気づけば私は、この人の後ろを歩いていた)
伊吹は大きな屋敷の門の前で立ち止まり、志乃の方を振り返る
伊吹「入れ」
志乃「……は、はい」
志乃は気を使いながらお屋敷の中に入る

(時間経過)
屋敷の中、立派な広い廊下。
志乃はきょろきょろしている。
使用人・七重が伊吹を出迎える
七重「伊吹様、おかえりなさいませ」
七緒は志乃を見て驚く。普段、伊吹は滅多に来客を連れてこない
七重「まあ、お客様!!私はこの家で使用人として働いております七重と申します」
志乃「は、はじめまして。志乃と申します」
志乃も慌てて頭を下げる。
頭をさげる七重の後ろから、狸の妖と犬の妖が顔を出す
志乃は妖の存在に気づく
志乃(あ、あれは妖かな?)
志乃(モフモフしてて、か、かわいい~)
志乃「……か、」※かわいいと撫でようとして手を止める
志乃話かけようとして、ハッと慌てて口を押さえる。
伊吹が振り返る。
伊吹「どうした」
志乃「い、いえ」
志乃(妖と仲良くしていたら、また気味が悪いと思われる)
志乃が妖と話していると、大和に散々「気味が悪い」と貶されてきたため、反射的に自分の行動を止める癖がついている

〇伊吹の屋敷・居間
湯気の立つお茶。
伊吹が向かいに座る。気まずい沈黙で、志乃は俯いている。
志乃「……あの」
伊吹「何だ」
志乃「どうして私をここにつれてきてくださったのですか」
志乃は言いづらそうに口を開く。
志乃「初めてお会いしたのに……」
伊吹「初めてではない」
食い気味に否定する伊吹。
言い終えた後に、伊吹はハッと我に返って少し恥ずかしそうにする

伊吹「志乃のことは以前から知っていた」
伊吹「そいつ探しに町に言った時、怖がらずに餌をあげていただろう」
伊吹は猫又を指さす。猫又はゴロゴロと喉を鳴らしている。
〇回想
数ヶ月前。志乃が猫又の妖に餌をあげて撫でている1カットに伊吹の台詞をのせる
伊吹「そのときから君を知っていた」
(回想終了)

猫又に視線を向ける志乃。
志乃「伊吹様のお家の猫さんでしたか」
伊吹「いや、そういうわけではないが、居座ってるだけだ」
その横では狸のあやかしが畳をぴょんぴょん跳ねている。
狸の妖「空気が固いなー」
狐の妖「どうして話さないのー」
がやがやと妖がよってきてにぎやかになる。
志乃は人差し指を立てて「しーっ」と合図を送る
志乃の行動を見ていた伊吹は、志乃が妖の言葉が分かることを察する

伊吹「やはりな」
志乃「えっ?」
妖が志乃に集まってくることを見ていた伊吹は浅くうなずく
伊吹「君には妖が自然と集まってくるようだ」
志乃「集まってくる?」
志乃(たしかに小さい頃からたくさんの妖たちと話していたけど……)

伊吹「安心しろ。この屋敷にいるそいつらは、悪いあやかしはいない」
志乃「話してもいいんですか?」
志乃(今まで妖と仲良くすると、町の人から気味悪がられてきた)
志乃(そのせいで、なるべく一人のときにだけ話すようになっていたんだ)

伊吹「話たければ話せばいいだろ?あの町では、いけないことだったのか?」
図星をつかれて言葉に詰まる志乃
志乃「は、はい。気味が悪いと……」
伊吹「だいぶ狭い町にいたんだな」
伊吹「たしかに穢れが暴走する妖もいるが、悪い奴ばかりでない」
伊吹「それに、欲にまみれた人間や、穢れにとりつかれた人間の方がよっぼどこわい」
※意味ありげに言う
志乃(欲にまみれた人間……)
離縁されたこと、最後に見た妹・薫子の表情、石を投げられたことを思い出して、首元の×印の傷がうずく
手で抑え込む志乃
伊吹「その傷が癒えるまで、ここにいたらいい」
伊吹「……あの町へ帰っても、また針で刺されるように攻撃されるだけだぞ」
淡々と話す伊吹に便乗して、部屋にいた妖たちも志乃の味方をする
狸の妖「攻撃する人間がいるのか? 伊吹は意外と優しいぞ!」
ガヤガヤとにぎやかす妖たちを、ぎろりと睨みつける伊吹
狸の妖「ひっ! やっぱり怖いぞ」
志乃、思わず笑う。
離縁されてから初めての笑顔になった志乃
伊吹はそれを見て少しだけ目を細める。


〇白峰家 昼
志乃の実家。
薫子が実家に、にこにこ笑顔で帰ってくる
薫子「ただいま。お母さま」
珠代「あら薫子、大和様のお家に行っていたんじゃないのかい」
薫子「お姉さまも出て行ったし、あの家に居座る意味はないからね」
志乃が実家に戻ってきていると思っている薫子は志乃を探して辺りを見回す。
志乃の姿が見えず不思議そう。
薫子「あの×がついたお姉さまはどこ?」
珠代「うちにはいないわよ」
薫子「え? ここにきたんじゃないの?」
志乃がいないことに驚きながら、珠代に尋ねる薫子
珠代「はあ、きたわよ。頭をさげてたわね」
珠代「だとしても、どうして置いておかなきゃいけないの」
珠代「×がついた娘なんて置いたら、私たちまで変な目で見られるわ」
いやそうな表情をしながら家事を続ける珠代
薫子「なーんだ。つまんないの!」
薫子「捨てられて泣いてる顔見にきたのに」
珠代「まあ、薫子ってば。あなたはいじわるねえ。くすくす」


〇町中 昼
薫子が不満そうに道端の石を蹴りながら歩いている。
薫子は志乃をからかいたかったので、表情は不満そう。
薫子(どこへ行ったのよ)
薫子(せっかく離縁印を刻んであげたっていうのに)
薫子(あーあ、泣いてる顔を見たかった!)

薫子が歩いていると、近くで噂話が聞こえる。
町人A「聞いたか?」
町人B「名家の伊吹様が×がついた娘を拾ったらしいぞ」
〝離縁印〟と聞いて薫子の足がぴたりと止まる
町人B「物好きな話だ」
町人A「屋敷へ連れて行ったそうだ」
薫子「……え?」
薫子の顔が強張る。
町人A「対魔役っていったらあれだろ? 妖や穢れを祓う役目で、各地で起きる異変を鎮める」
町人B「代々そういう家系だそうだ」
薫子「ちょっと待って」
町人たちを呼び止める。
薫子「今の話……詳しく聞かせて」
ぐいっと前のめりで問う薫子。町人たちは不思議そうに顔を見合わせる

〇町外れ 夕方
薫子は一人で町を険しい顔で歩いている。
先ほど町人に聞いた話を思い出している薫子。
薫子(対魔役って言ったら、普通の人間ではなれない高貴な人じゃない)
薫子(大和様とは比べ物にならないわ)
薫子(お姉さまは何の力もないし、それに……)
薫子(不要の証の×が刻まれてるっていうのに!!)
薫子(なんで不要なやつを助けるのよ)
ぎりっ。薫子は苛立ちが強く、握った扇子が軋む。

薫子「離縁されて、×を刻まれて哀れなお姉さま」
薫子「一人になって、石を投げられて、みんなから嫌われて」
薫子「惨めに泣いている姿を見たかったのに」
薫子「この町から出て行ったの?」
薫子の顔から笑みがすっと消える。真顔で前を向く薫子
薫子「そんなこと許すはずないでしょ」
薫子の口元がゆっくり歪む。
薫子「逃がさないわ。不要のお姉さま♡」