しゃらしゃらと鈴の音が聞こえる。鈴の音に、声が重なる。
――ゆるして、ゆるして。
◯帝都:街並み(昼間)
芙蓉が声を追うと、裏路地に行き着く。
そこには、花を持った美しい女の子(香坂瑠璃:17歳)が座り込んでいた。
芙蓉、瑠璃に駆け寄り、肩に手を添える。
瑠璃「ごめんなさい」
芙蓉「いえ」
「大丈夫……?」
芙蓉、瑠璃に手を差し出す。芙蓉の手を取った瑠璃の手首には組紐の飾り。
瑠璃「ええ。少し、眩暈がしただけです」
「もう歩けますわ」
芙蓉「お送りします」
芙蓉、瑠璃の手を引いてエスコート。
すると、呉服屋の手代(智治:23歳)がやってくる。
智治「お嬢様。出歩かないように言ったのに」
瑠璃、口元に人差し指を当てて。
瑠璃「お父様には内緒よ」
智治「そういうわけにはまいりません」
瑠璃「あなたは私の味方をしてくれるわ」
ふふっ、と笑った瑠璃は芙蓉に向き直る。
瑠璃「助けてくださってありがとう」
芙蓉、瑠璃のエスコートを智治に譲る。
瑠璃、智治と並んで立ち去る。
芙蓉(――風の音だけ)
(さっきの声は気のせい?)
芙蓉、帰宅。
◯東閑院家:芙蓉の部屋
鏡に映る着物姿の自分が落ち着かない。
夕方になると、氷雨が帰宅。
◯東閑院家:食堂
夕食の席。珠代も下座の席で同席している。
氷雨「憂鬱があるか」
芙蓉「……いえ」
氷雨、芙蓉に視線を向ける。
芙蓉「服が……」
「……袴を。袴を着用してはいけませんか」
氷雨、芙蓉を一瞥する。
氷雨「私に許しを求める必要はない」
芙蓉「……ありがとう」
氷雨「そのように安堵することか」
芙蓉「落ち着かなくて……。ずっと、男性の格好をしていたから」
氷雨「……何故」
芙蓉「母を守らなきゃいけなかったから。女は守られる側で、だから家督も継げない。父がいなくなったから、私が代わりに母を守るつもりだった」
できなかったけど、と芙蓉は俯く。
氷雨「男であっても家督は継げない。母親を守ることも」
芙蓉「え?」
氷雨、箸を置いて。
氷雨「衣服に不都合があれば、買い足すように」
氷雨、食堂を出ていく。
残された芙蓉は戸惑う。
芙蓉「私、氷雨様を怒らせてしまいましたか?」
珠代、微笑む。
珠代「あれは、芙蓉様への気遣いです」
「氷雨様は、そのおつもりですね。少々……かなり、わかりにくいですが」
芙蓉、気抜けした表情。
珠代「氷雨様は、帝の第一皇子であらせられました」
芙蓉「え?」
珠代「今は皇家を離れ、氏を賜られましたが」
「お母様の御身分が低かったのです。お母様はそれはそれは美しい方で、帝から並々ならぬ寵愛を受けておられましたが……それ故に周囲から妬まれ、若くして儚くなられました」
芙蓉「そんな……」
珠代、小首を傾げる。
珠代「勝手にお話ししたと知られたら叱られるかしら」
芙蓉「言いません」
珠代、微笑む。
◯東閑院家:廊下
芙蓉、ひとりになって呟く。
芙蓉「皇家の、神の血を引く方……」
◯夜:芙蓉の夢
「帰ってくれ!」
いつも優しかった父さまが声を荒らげていた。
「葵月の血を引く桔梗様をこんなボロ屋で……」
「あなたは葵月を裏切っただろう!?」
「正しさを見極めただけですよ。神の血を引く帝に背くわけにはいかない」
父さまはぐっと奥歯を噛み締めた。
「……とにかく帰ってくれ。桔梗様は、今は私の妻だ。あなたの許嫁ではない!」
◯翌朝:東閑院家:芙蓉の部屋
ベッドの上で目を覚ました芙蓉。
◯東閑院家:食堂
朝食の席。
芙蓉、氷雨をそっと窺って。
芙蓉(……神の血)
氷雨が先に食事を終え、食堂を出て出勤する。
◯朝食後:東閑院家:居間
珠代が男性物の着物と袴をいくつか持ってくる。
珠代「氷雨様が昔お召しになっていたものですが」
芙蓉、氷雨の着物と袴を着用して、珠代と新しい袴を買いに行く。
◯帝都の街並み(昼間)
並んで歩く芙蓉と珠代。
珠代「呉服なら、六花屋か香坂屋か……」
――ごめんなさい。
芙蓉「また声が……」
珠代「声?」
芙蓉「聞こえませんか?」
珠代「いえ、何も」
――ごめんなさい、わたしが。
芙蓉「こっちです」
芙蓉、声を追う。
すると、「香坂屋」の看板が出た呉服店に行き着く。
お店から瑠璃が出てくる。
瑠璃「あら、昨日の……」

