【マンガシナリオ】帝都散花婚姻譚

◯東閑院家:芙蓉の部屋
芙蓉、ベッドの上で目を覚ます。

◯東閑院家:居間
おずおずと居間へ向かった芙蓉に珠代が笑いかける。
珠代「芙蓉様、おはようございます」
「よく眠れましたか?」

朝の爽やかな光と鳥の鳴き声。

珠代「氷雨様はお勤めへと向かわれました」

芙蓉「軍人さん、ですよね?」

珠代「ええ。帝国軍特殊部隊の隊長であらせられます」

芙蓉「特殊部隊……」

珠代「帝国軍で唯一、怨霊と闘える精鋭部隊です」

芙蓉「すみません。何も知らなくて……」
「……あの。私のこと、怪しいって思いますよね」

珠代「まさか。氷雨様がお決めになった方を怪しんだりしませんよ」


芙蓉のモノローグ
朝食をとって、身支度をしながら、帝国軍特殊部隊についてさらに教えてもらった。

珠代、芙蓉に女性物の色鮮やかな着物を差し出す。
芙蓉、女性物の着物に着替える。

芙蓉のモノローグ
この国には、死んだ人間の怨みが成り果てる怨霊がいて、『神の力』を分け与えられた特殊部隊のみが怨霊を滅することができるのだという。

芙蓉「怨霊なんて、桜木町では……」

珠代「帝都は人が多いから。人波を行き交う怨みも多いのですよ」

芙蓉のモノローグ
人の恨みが成り果てる怨霊。
それは、父さまが話してくれた呪いと同じだろうか。

◯東閑院家:廊下
屋敷内を歩く芙蓉。

芙蓉のモノローグ
朝食を終えたあと、おやつの時間までは好きなことをして良いと言われた。
花嫁になるって、こんなもの?

◯東閑院家:テラス
洋風の丸テーブルと椅子。
椅子に座って草餅を食べる芙蓉。

芙蓉のモノローグ
甘い草餅を頂いたあと、

◯東閑院家:離れ(和室)
芙蓉(離れは和室なんだ……)

芙蓉のモノローグ
珠代さんにされるがままに着替えた。

和装の白い婚姻衣装を着た芙蓉の後ろ姿。

◯東閑院家:玄関
氷雨の帰宅。氷雨は軍服の上に外套を着ている。

氷雨と宮内省の役人の会話

役人「あまりにも突然で……」
氷雨「早く、と急かしていたのはそちらだろう」
役人「しかし、臣籍になられたとはいえ、皇子の祝言がこのような……」
氷雨「ふん。何をしても不満か」

氷雨、外套を脱いで。

氷雨「時間だ。広間へ」

◯東閑院家:離れ(和室):大広間
芙蓉のモノローグ
私にはもう、家族がいない。
だから、珠代さんに手を引かれて彼の元へ向かう。

芙蓉を待つ、軍服姿の氷雨。

芙蓉のモノローグ
あなたの花嫁になることが決まったとき。

氷雨の台詞のリフレイン
『感情など不要だ、私はおまえを利用する。代わりに、おまえも私を利用すれば良い』

芙蓉のモノローグ
冷たい眼差しであなたは言った。
だから、契りを交わす今宵も、あなたの眼差しに愛はない。

芙蓉と氷雨、契りの神酒を酌み交わす。
神酒をひとくち飲むと、芙蓉は目眩に襲われる。

倒れると思ったところで、氷雨が抱き止める。

氷雨「花嫁は酒に強くない。今宵はもう終いだ」

氷雨、芙蓉を軽々と抱き上げて大広間を後にする。

◯東閑院家:芙蓉の部屋
氷雨、芙蓉をベッドに横たえ、熱を測るように額に触れる。

芙蓉のモノローグ
――手のひらが、冷たくて心地良い。母さまの手に似ている。

芙蓉の目眩が治る。

氷雨「後は任せた」
氷雨、珠代に言い置いて部屋を出て行こうとする。

その瞬間、芙蓉の眦から涙が溢れる。
氷雨、目を見ひらく。
芙蓉「母さま……」※うわごとのような呟き。

芙蓉の身体、突然熱を持つ。
芙蓉「母さま、母さま……」
芙蓉、ぼろぼろと涙を流す。

氷雨、芙蓉を抱きしめる
氷雨「芙蓉」
芙蓉は氷雨の声が聞こえていない様子。

芙蓉「父さま。母さまを守れなくてごめんなさい……っ」
氷雨「芙蓉。私の目を見ろ」
芙蓉、氷雨の目を見る。
氷雨「大丈夫だ」
芙蓉「は、い……」
芙蓉、意識を失うように眠りに落ちる。


◯翌朝:東閑院家:食堂
芙蓉「氷雨、様」

氷雨「何だ。今さらそのように恐縮して」

芙蓉「ごめんなさい。祝言の場を台無しにしてしまって」

氷雨「構わない。どうせ見せ物だ」
「子を成せと煩いが……しばらくは大人しくなるだろう」

氷雨、芙蓉を一瞥する。
氷雨「……具合は」

芙蓉「大丈夫です」
氷雨「無理に畏まる必要はない」
芙蓉「……大丈夫」

芙蓉、氷雨と一緒に朝食を取る。下座の席で珠代も同席している。

◯東閑院家:廊下
朝食後にひとり食堂を出た氷雨。
昨夜、芙蓉に触れた手を見つめながら。
氷雨「怨念が軀に定着したか……」

◯東閑院家:洗面所
芙蓉、鏡に映る自分を見て。
芙蓉(どこからどう見ても女性だ)
芙蓉、切なげな表情。

芙蓉、天気に誘われて庭に出る。

◯東閑院家:庭

少女の声
――ゆるして。

芙蓉「誰?」