【マンガシナリオ】帝都散花婚姻譚

◯帝都への道中
女衒、芙蓉をちらっと見て。
女衒「背が高いな。男が喜ばねえ」

芙蓉「……」

女衒「良くて中見世か。今回も儲けらんねえなあ」

芙蓉、俯いたまま女衒についていく。

◯帝都の夜景
遊郭が見えてきたところで、鬼火が現れる。

ナレーション
――ここは、女が嘆く場所。血の涙を流し、男に縋り、男を恨む場所。

芙蓉(人の形?)

鬼火だと思ったものが人の形をしている。
人の形をした鬼火がかんざしを持って、女衒へと振りかぶる。

女衒「ひっ……」

女衒、足をもつれさせて臀部から転ぶ。

芙蓉、ぐっと奥歯を噛む。

芙蓉、女衒が持っていた杖を奪い、女衒と鬼火の間に立ちはだかる。
杖で鬼火を打ち払うが、感触がなく、鬼火のかんざしが芙蓉を突き刺す。
芙蓉(……痛く、ない)
しかし、芙蓉の視界は一瞬暗くなり、立ち眩む。

鬼火がふたたびこちらへ襲ってくる。
芙蓉、身体に力が入らない。女衒、鬼火の方へ芙蓉を突き飛ばし、ほうほうの体でどこかへ逃げてゆく。
地面に頽れた芙蓉、もう駄目だ――と思ったところで。

軍服姿の青年(氷雨)が現れ、剣で鬼火を切り払う。

芙蓉(異国の剣……)

氷雨の美しい太刀筋に目を奪われていた芙蓉、はっと気づいて視線を揺らす。

芙蓉「……ありがとうございます」
氷雨「話せるのか」
芙蓉「何とか。目眩が、しますが……」

氷雨、芙蓉を見下ろして。

氷雨「木の棒で怨霊に立ち向かうなど無謀だ」
「それも、下卑た男を庇うためなど」

芙蓉、むっとして。
芙蓉「あなたは見殺しにできるの?」

氷雨、芙蓉に答えず、芙蓉の手を取る。
氷雨に手を握られた途端、目眩がおさまる。

氷雨、芙蓉の身なりを一瞥する。

氷雨「頼れる相手はいるか?」

芙蓉、答えられない。

氷雨「ならば、私の屋敷へ」

芙蓉、戸惑う。
芙蓉「理由は?」
「理由もなく、赤の他人を助けるなんて有り得ない」

借用書と、社長の邪悪の笑みのフラッシュ。

警戒する芙蓉を氷雨が抱き寄せ、顎を掴んで顔を寄せる。
芙蓉は目を見ひらき、氷雨を平手打ちしようとする。
しかし、氷雨が芙蓉の手を掴んで止める。
氷雨を睨む芙蓉を見て、氷雨は薄く笑う。

氷雨「容貌には惑わされぬ……と」
「花嫁を探していた」
「おまえであれば、都合が良い」

花びらが夜に散る。

氷雨「私は東閑院氷雨。おまえの名は何という?」

芙蓉「……芹沢芙蓉」

氷雨「では芙蓉。行く当てのないおまえの衣食住、そして安全を保証しよう」

芙蓉「な……」

氷雨「その代わりに、おまえは私の花嫁となれ」

芙蓉「え、」

氷雨「感情など不要だ、私はおまえを利用する。代わりに、おまえも私を利用すれば良い」
「妻を娶らねばならぬが、愛されてしまっては困る」
「おまえなら、私に惚れることもないだろう」

芙蓉のモノローグ
 ――あなたを愛さないこと。それが私の義務。

◯東閑院家:広大な洋館
芙蓉(異国風の屋敷)(広い……)

東閑院家のお手伝い(珠代:47歳)「おかえりなさいませ、氷雨様」
「まあ、こちらのお嬢様は」
珠代、興味津々の顔。

氷雨「花嫁だ」
珠代「えっ?」
氷雨「明日、祝言を挙げる」