◯未来を一部先出し:祝言の夜
ヒロイン(芹沢芙蓉:19歳)のモノローグ。
あなたの花嫁になることが決まったとき。
ヒーロー(東閑院氷雨:26歳)の台詞のリフレイン
『感情など不要だ、私はおまえを利用する。代わりに、おまえも私を利用すれば良い』
芙蓉のモノローグ
冷たい眼差しであなたは言った。
東閑院家の離れ(和室)
和装の白い婚礼衣装をまとった芙蓉。軍服の氷雨は冷たい眼差しをしている。
祝言の神酒が盃に注がれる。
芙蓉のモノローグ
だから、契りを交わす今宵も、あなたの眼差しに愛はない。
◯現在
芙蓉のモノローグ
女は弱くて戦えない。
だから誰も守れないなら、私は男になって母を守ると決めた。
父が事故で亡くなった夜に。
◯夕景:桜木町(芙蓉が暮らす町)
男性用の着物に袴姿の芙蓉。腰に届かない長さの髪を後ろでひとつにまとめている。手には竹刀を持っている。
剣の稽古の描写。
芙蓉、男子(頼久:14歳)の竹刀を払う。頼久、ガックリした表情。
芙蓉「腕を上げたね」
頼久「芙蓉姉ちゃんの方が全然強いくせに……」
芙蓉、くすっと笑う。
芙蓉「頼久はもっと強くなれるよ。私も、負けないように頑張らなきゃ」
芙蓉のモノローグ
――もっと、もっと強くなる。そうして、美しい母を守る。
◯過去回想
芙蓉の父(行典)「人の怨念から呪いが生まれる。裏腹に、人の願いから奇跡が生まれる」
木から降りられなくなっている猫。
幼い芙蓉が、眉を下げて猫を見ている。
芙蓉の母(桔梗)が枝に手を伸ばす。すると、風が優しい渦を巻く。風が猫を包み込み、芙蓉の手元まで猫を下ろす。
猫を抱きしめる芙蓉。微笑む桔梗。桔梗の肩を抱く行典。
行典「世界は、人の意思でできている」
「願わくは、愛しいあなたたちの世界が優しく美しからんことを」
◯過去回想終了
帰途につく桔梗。桜木町の夕景。
芙蓉(夕やけが、まるで苛烈な炎みたい)
◯芹沢家:質素だが清潔な一軒家
芙蓉「母さま。遅くなりました」
桔梗(39歳)「おかえりなさい。今日は長稽古だったのね」
芙蓉「頼久がなかなか手強くなっていて……」
芙蓉、言葉の途中で食卓を見る。
芙蓉「わあ、美味しそう」
芹沢家のお手伝い(米子:41歳)「奥様がお作りになったのですよ」
桔梗「お医者様が、もう少し動いても良いとお許しをくださったの。米子さんのお手伝いも、毎日でなくて良くなるわ」
米子「まあ。私はお役御免ですか」
桔梗「ち……違うのよ! ただ、あなたも、家庭を持っているから……」
米子「嫁ぎはしましたが、奥様はずっと、私のお嬢様です」
芙蓉のモノローグ
米子さんは、葵月幕府の時代に母さまの家に奉公をしていた女中さんだ。
夕食と入浴が終わり、桔梗は寝間着に着替えて髪を梳いている。表情が少し眠そう。
芙蓉「母さま。少し、疲れているように見えますが」
桔梗「そうね。久しぶりに、たくさん動いたから」
「でも、嬉しいの。ちゃんと、自分で家のことができる」
桔梗、少女のように笑う。
桔梗「あなたも、もう卒業ね」
芙蓉「はい」
桔梗「これも、社長さまのおかげね」
桔梗「あなたが、ちゃんと学校に通えて良かった」
桔梗、芙蓉を抱きしめる。
芙蓉のモノローグ
芹沢家は、一言で言えば没落している。
理由は、御一新の只中に旧幕府側へついたから。
旗本の血を引く父さまは、幼かったから処刑を免れた。
葵月幕府の分家筋にあたる母さまは、女子だったために処刑を免れた。
芙蓉のモノローグ
幕府が倒れ、新政府が発足して30年余年。
◯桜木町の夜景
鬼火が夜に灯る描写。
◯帝都の夜景
夜にそびえる塔。レンガの街並み。
怨霊を斬る軍服の青年(氷雨)の後ろ姿。
空には満月。
◯芹沢家
髪を下ろした入浴後の芙蓉。窓の向こうを見ている。
芙蓉(月が綺麗……)
芙蓉のモノローグ
帝都には、異国の服装をした人々が溢れ、石炭で動く乗り物が走っているという。
芙蓉のモノローグ
この国は、めまぐるしく移り変わっている。
◯翌朝:芹沢家
芙蓉、家を出て女学校へ行く。服装はいつも、男性用の着物に袴。
◯女学校:廊下
裁縫工場の令嬢(麗紗:17歳)が芙蓉のもとへ駆け寄る。麗紗の服装は、女性用の花柄の着物に明るい色合いの袴。足元はブーツ。
麗紗、可憐に微笑む。
麗紗「芙蓉さん」
芙蓉「麗紗さん。おはようございます」
窓の外で綻ぶ花のつぼみ。
麗紗「私たちももう卒業ね」
芙蓉「ええ……」
「麗紗さんのお父様のおかげで、私は学校に通えました」
麗紗「もう。最後まで私に畏まるのね」
「私の方がふたつも年下なのに」
芙蓉「卒業したら、また工場でお世話になります」
麗紗「私、芙蓉さんがお婿さまになって欲しいわ」
芙蓉、微笑む。
◯芹沢家
芙蓉、帰宅。
家が静まり返っている。
芙蓉「母さま?」
居間で、桔梗が血溜まりの中に倒れていた。
芙蓉「母さま!!」
芙蓉、桔梗を抱き上げる。
瀕死の桔梗が、泣きながら微笑む。
桔梗「行典さん以外は、嫌だったの」
桔梗「ごめんね。私が弱いから、あなたに守らせてしまった」
桔梗、芙蓉を抱きしめる。
桔梗「あなたは、ちゃんと幸せな花嫁になって」
冷たくなった桔梗の手首には、するどい傷跡。
芙蓉のモノローグ
かまいたちが切ったような跡。
桔梗が風を使って猫を助けるシーンのフラッシュ。
芙蓉(母さまは、自分で――)
泣き崩れる芙蓉。
血溜まりの中に、ルビーの指輪が落ちている。
◯翌々日:芹沢家
芙蓉と米子のみの葬式。
米子「申し訳ございません……私が、私がお休みなど頂戴しなければ」
泣き崩れる米子と、思いつめた様子の芙蓉。
芙蓉「違うよ。米子さんのせいじゃない」
葬式のあと、芙蓉は裁縫工場へ行く。
◯裁縫工場:社長室
洋風の室内。金の額縁に入った絵やライフル銃が飾られており、成金の雰囲気。
裁縫工場の社長(44歳)、芙蓉を見て気の毒そうに眉を下げる。
社長「芙蓉。ちゃんと食事は取れているか?」
社長「今回のことはもう、何と言ったら良いか……」
芙蓉、血のついたルビーの指輪を差し出す。
社長が表情を強張らせる。
芙蓉「倒れていた母のすぐそばに落ちていました」
社長「……」
芙蓉「母さまに、何をしたの」
社長「病気の具合が心配で様子を……」
芙蓉「母さまは、父以外は嫌だったと言って泣いていた。あなたは母さまに」
社長、にこやかに笑って。
社長「義務を果たせと言っただけだ」
芙蓉「は、」
目を見ひらく芙蓉を、社長が抱きすくめる。
社長「顔は桔梗に似ているな。その格好が興ざめだが……」
芙蓉、社長を蹴り上げ、そのままソファに置かれていた孫の手を竹刀代わりにして返り討ち。
孫の手を社長の眼前に突きつけて、社長を見下ろす芙蓉。
怯えたまま、社長は邪悪に笑う。
社長「病院代と学費を返せ。借用書がある」
芙蓉「なっ……!?」
社長「馬鹿な女だ……私の愛人になれば変わらず面倒を見てやったのに」
◯回想
芙蓉(14歳)「ただいま。母さま」
桔梗「芙蓉はね、もう働かなくていいのよ」
「私のお薬も、心配しなくていいの」
「社長さまが、全部面倒を見てくださるんですって」
「2年遅れてしまったけれど、芙蓉も学校に通いましょう」
◯回想終わり:裁縫工場:社長室
社長「おまえの母親が血判まで押している……!」
社長、デスクから取り出した借用書を掲げる。
芙蓉、ふるえる手で借用書を受け取る。そうして、額面を見て愕然とする。
芙蓉、その場に膝を突く。
◯数日後、夜:芹沢家の前
女性物の着物姿の芙蓉。髪も下ろして、完全に女性の装い。
女衒の男「ほら、来い」
芙蓉が一歩足を進めると、麗紗が取り乱した様子で駆け寄ってくる。
麗紗「芙蓉さん!!」
「芙蓉さん、どうして……!」
芙蓉に縋る麗紗に悲しい顔で笑って、芙蓉は歩き出す。
芙蓉モノローグ
借金を返せないから私は売られる。
私が向かうのは、男に夢を見せる場所。
夜に散る花びら。
芙蓉のモノローグ
女は花びらのようになよやかで、弱い。
ヒロイン(芹沢芙蓉:19歳)のモノローグ。
あなたの花嫁になることが決まったとき。
ヒーロー(東閑院氷雨:26歳)の台詞のリフレイン
『感情など不要だ、私はおまえを利用する。代わりに、おまえも私を利用すれば良い』
芙蓉のモノローグ
冷たい眼差しであなたは言った。
東閑院家の離れ(和室)
和装の白い婚礼衣装をまとった芙蓉。軍服の氷雨は冷たい眼差しをしている。
祝言の神酒が盃に注がれる。
芙蓉のモノローグ
だから、契りを交わす今宵も、あなたの眼差しに愛はない。
◯現在
芙蓉のモノローグ
女は弱くて戦えない。
だから誰も守れないなら、私は男になって母を守ると決めた。
父が事故で亡くなった夜に。
◯夕景:桜木町(芙蓉が暮らす町)
男性用の着物に袴姿の芙蓉。腰に届かない長さの髪を後ろでひとつにまとめている。手には竹刀を持っている。
剣の稽古の描写。
芙蓉、男子(頼久:14歳)の竹刀を払う。頼久、ガックリした表情。
芙蓉「腕を上げたね」
頼久「芙蓉姉ちゃんの方が全然強いくせに……」
芙蓉、くすっと笑う。
芙蓉「頼久はもっと強くなれるよ。私も、負けないように頑張らなきゃ」
芙蓉のモノローグ
――もっと、もっと強くなる。そうして、美しい母を守る。
◯過去回想
芙蓉の父(行典)「人の怨念から呪いが生まれる。裏腹に、人の願いから奇跡が生まれる」
木から降りられなくなっている猫。
幼い芙蓉が、眉を下げて猫を見ている。
芙蓉の母(桔梗)が枝に手を伸ばす。すると、風が優しい渦を巻く。風が猫を包み込み、芙蓉の手元まで猫を下ろす。
猫を抱きしめる芙蓉。微笑む桔梗。桔梗の肩を抱く行典。
行典「世界は、人の意思でできている」
「願わくは、愛しいあなたたちの世界が優しく美しからんことを」
◯過去回想終了
帰途につく桔梗。桜木町の夕景。
芙蓉(夕やけが、まるで苛烈な炎みたい)
◯芹沢家:質素だが清潔な一軒家
芙蓉「母さま。遅くなりました」
桔梗(39歳)「おかえりなさい。今日は長稽古だったのね」
芙蓉「頼久がなかなか手強くなっていて……」
芙蓉、言葉の途中で食卓を見る。
芙蓉「わあ、美味しそう」
芹沢家のお手伝い(米子:41歳)「奥様がお作りになったのですよ」
桔梗「お医者様が、もう少し動いても良いとお許しをくださったの。米子さんのお手伝いも、毎日でなくて良くなるわ」
米子「まあ。私はお役御免ですか」
桔梗「ち……違うのよ! ただ、あなたも、家庭を持っているから……」
米子「嫁ぎはしましたが、奥様はずっと、私のお嬢様です」
芙蓉のモノローグ
米子さんは、葵月幕府の時代に母さまの家に奉公をしていた女中さんだ。
夕食と入浴が終わり、桔梗は寝間着に着替えて髪を梳いている。表情が少し眠そう。
芙蓉「母さま。少し、疲れているように見えますが」
桔梗「そうね。久しぶりに、たくさん動いたから」
「でも、嬉しいの。ちゃんと、自分で家のことができる」
桔梗、少女のように笑う。
桔梗「あなたも、もう卒業ね」
芙蓉「はい」
桔梗「これも、社長さまのおかげね」
桔梗「あなたが、ちゃんと学校に通えて良かった」
桔梗、芙蓉を抱きしめる。
芙蓉のモノローグ
芹沢家は、一言で言えば没落している。
理由は、御一新の只中に旧幕府側へついたから。
旗本の血を引く父さまは、幼かったから処刑を免れた。
葵月幕府の分家筋にあたる母さまは、女子だったために処刑を免れた。
芙蓉のモノローグ
幕府が倒れ、新政府が発足して30年余年。
◯桜木町の夜景
鬼火が夜に灯る描写。
◯帝都の夜景
夜にそびえる塔。レンガの街並み。
怨霊を斬る軍服の青年(氷雨)の後ろ姿。
空には満月。
◯芹沢家
髪を下ろした入浴後の芙蓉。窓の向こうを見ている。
芙蓉(月が綺麗……)
芙蓉のモノローグ
帝都には、異国の服装をした人々が溢れ、石炭で動く乗り物が走っているという。
芙蓉のモノローグ
この国は、めまぐるしく移り変わっている。
◯翌朝:芹沢家
芙蓉、家を出て女学校へ行く。服装はいつも、男性用の着物に袴。
◯女学校:廊下
裁縫工場の令嬢(麗紗:17歳)が芙蓉のもとへ駆け寄る。麗紗の服装は、女性用の花柄の着物に明るい色合いの袴。足元はブーツ。
麗紗、可憐に微笑む。
麗紗「芙蓉さん」
芙蓉「麗紗さん。おはようございます」
窓の外で綻ぶ花のつぼみ。
麗紗「私たちももう卒業ね」
芙蓉「ええ……」
「麗紗さんのお父様のおかげで、私は学校に通えました」
麗紗「もう。最後まで私に畏まるのね」
「私の方がふたつも年下なのに」
芙蓉「卒業したら、また工場でお世話になります」
麗紗「私、芙蓉さんがお婿さまになって欲しいわ」
芙蓉、微笑む。
◯芹沢家
芙蓉、帰宅。
家が静まり返っている。
芙蓉「母さま?」
居間で、桔梗が血溜まりの中に倒れていた。
芙蓉「母さま!!」
芙蓉、桔梗を抱き上げる。
瀕死の桔梗が、泣きながら微笑む。
桔梗「行典さん以外は、嫌だったの」
桔梗「ごめんね。私が弱いから、あなたに守らせてしまった」
桔梗、芙蓉を抱きしめる。
桔梗「あなたは、ちゃんと幸せな花嫁になって」
冷たくなった桔梗の手首には、するどい傷跡。
芙蓉のモノローグ
かまいたちが切ったような跡。
桔梗が風を使って猫を助けるシーンのフラッシュ。
芙蓉(母さまは、自分で――)
泣き崩れる芙蓉。
血溜まりの中に、ルビーの指輪が落ちている。
◯翌々日:芹沢家
芙蓉と米子のみの葬式。
米子「申し訳ございません……私が、私がお休みなど頂戴しなければ」
泣き崩れる米子と、思いつめた様子の芙蓉。
芙蓉「違うよ。米子さんのせいじゃない」
葬式のあと、芙蓉は裁縫工場へ行く。
◯裁縫工場:社長室
洋風の室内。金の額縁に入った絵やライフル銃が飾られており、成金の雰囲気。
裁縫工場の社長(44歳)、芙蓉を見て気の毒そうに眉を下げる。
社長「芙蓉。ちゃんと食事は取れているか?」
社長「今回のことはもう、何と言ったら良いか……」
芙蓉、血のついたルビーの指輪を差し出す。
社長が表情を強張らせる。
芙蓉「倒れていた母のすぐそばに落ちていました」
社長「……」
芙蓉「母さまに、何をしたの」
社長「病気の具合が心配で様子を……」
芙蓉「母さまは、父以外は嫌だったと言って泣いていた。あなたは母さまに」
社長、にこやかに笑って。
社長「義務を果たせと言っただけだ」
芙蓉「は、」
目を見ひらく芙蓉を、社長が抱きすくめる。
社長「顔は桔梗に似ているな。その格好が興ざめだが……」
芙蓉、社長を蹴り上げ、そのままソファに置かれていた孫の手を竹刀代わりにして返り討ち。
孫の手を社長の眼前に突きつけて、社長を見下ろす芙蓉。
怯えたまま、社長は邪悪に笑う。
社長「病院代と学費を返せ。借用書がある」
芙蓉「なっ……!?」
社長「馬鹿な女だ……私の愛人になれば変わらず面倒を見てやったのに」
◯回想
芙蓉(14歳)「ただいま。母さま」
桔梗「芙蓉はね、もう働かなくていいのよ」
「私のお薬も、心配しなくていいの」
「社長さまが、全部面倒を見てくださるんですって」
「2年遅れてしまったけれど、芙蓉も学校に通いましょう」
◯回想終わり:裁縫工場:社長室
社長「おまえの母親が血判まで押している……!」
社長、デスクから取り出した借用書を掲げる。
芙蓉、ふるえる手で借用書を受け取る。そうして、額面を見て愕然とする。
芙蓉、その場に膝を突く。
◯数日後、夜:芹沢家の前
女性物の着物姿の芙蓉。髪も下ろして、完全に女性の装い。
女衒の男「ほら、来い」
芙蓉が一歩足を進めると、麗紗が取り乱した様子で駆け寄ってくる。
麗紗「芙蓉さん!!」
「芙蓉さん、どうして……!」
芙蓉に縋る麗紗に悲しい顔で笑って、芙蓉は歩き出す。
芙蓉モノローグ
借金を返せないから私は売られる。
私が向かうのは、男に夢を見せる場所。
夜に散る花びら。
芙蓉のモノローグ
女は花びらのようになよやかで、弱い。

