僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。

 右手が震える。
 鼻からうまく息を吸えないからと、口から微かに酸素を吸い込んだ。じんと鼻先に神経が集中したような気がして、すぐさま目をぎゅっと閉じた。頬の上あたりで、皮膚が熱を帯びる。閉じた瞼と涙袋が重なり合うところで、涙が滲んだ。

 そっと目を開け、ボールペンをテーブル置いて立ち上がり、ベランダに向かって歩き、不器用にカーテンを両側に引いて鍵を開けた。

 素足のままベランダに出ると、寒い風が全身を包んだ。左手で右側の二の腕に触れると、手のひらの温度が、体を温めてくるようで――それが、知っている懐かしい感覚にどうも似ているような気がした。
耐えきれず、ベランダの冷たい柵を弱々しく掴んで滑らせながら、その場で膝から崩れ落ちた。

 あなたに、生きていてほしかった。

 ただそれだけを、あのときも、今も、変わらず言いたいだけなのに。

 今すぐ会いたい、生きて、会いたい。


 会いたい。


 テーブルに置いたままのスマホから、ピコンと通知音が聞こえた。その音をたどって、周りが暗いせいでいやに明るく見える部屋を見つめる。
 部屋の片隅にずっと飾ってある写真――朋美とのツーショットに、私は、部屋へ戻って過去の自分への手紙を書くよう、呼び戻されたような気がして、立ち上がって部屋に戻った。
 書き終えたままの便せんと、その上に転がったまま動かないボールペンを見つめる。

 私は、あの頃から、何か変われたのかな。

 深呼吸をすると崩れてしまいそうに思えたから、そっと優しく、二、三秒程度の呼吸を繰り返す。
 視界がだんだんと開けてきて、スマホに手を伸ばし、暗い画面をタップした。

 十八時半。

 大学を出たのは確か、十五時頃だから……。
 私は時間の経過を、そのまま受けいれていた。

 枯れ始めた涙の最後の一滴を拭い、タツさんへ宛てた手紙を無地の白い封筒にしまい、白い小鳥のシールを一枚だけ貼って綴じた。
 そしてもう一枚、同じ便せんを取り出して、ボールペンの芯を指で押し出した。