桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

最上階。
広い部屋、奥のやや高い台座に座らされた私は彼らを少し見下ろす形になっている。
後ろには沢山の人ーーそして五人の神使は私を囲む様に座りこちらを見つめる。

「こうして集まってもらったのは他でもない、彼女のことです」

深月が口火を切る。

「昨夜彼女は“古都(こと)楼閣(ろうかく)”に現れました。どういう訳か、目を覚ます前の記憶が無いという彼女は“祈り(いのり)”の力を使えたのです」

あの楼閣のことだろうか。
私の身に起きた出来事をやけに仰々しく話す。

「ご存知の通り今の隠世に桜ノ命は不在です。その為、この機会を逃す訳にはいかないと考えています」

他の神使は真剣に耳を傾ける。

「私は、彼女を次の桜ノ命にするべきだと思います」

空気が固まったのを感じた。
私も固まった。

「ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

反射的に声が出てしまう。

「私は桜ノ命なんかじゃないです!!」
「すみません。でも、これはあなただけの問題ではないんです」

彼の表情は冷たく、昨日の優しさは見られなかった。
深月は私から目を逸らす。

「皆さんの意見を聞かせて下さい」

他の神使に投げかけると、周りの様子を伺う様だった。

「俺は賛成」

一番最初に声を上げたのは虎徹だった。

「桜ノ命が不在で都の治安は悪化。仮でも良いから代理を立てて、平穏を取り戻すのが最優先なんじゃないか?」

さっき悪態をついていた少年とは思えないほどしっかりと意見を述べる。

「いいんじゃない?」
「巳影さん」
「それで丸く収まるんなら、まぁいいんじゃない?」

口角を上げながら話す彼にはさほど真剣さは見られない。

「ぼくもいいよ!」
「これで四人が賛成ですね」
「白緋はどうなの?」

一向に口を開く様子のない白緋の意見を求める。

「俺は反対だ」

発する声に、瞳に、確固たる意志を感じた。

「正体も分からない。聞けば何も覚えていないという女を神ノ命にするのは危険すぎる」
「でも」
「だいたい惚けているだけで、もしかしたらカラクリ側の敵かもしれないだろ」
「それは……」
「でもさぁ」

深月に口を挟む隙を与える事なく立て続けに言葉を紡ぐ。
それに割って入ったのは巳影だった。

「その子が姫さんに関係している子って事は、俺らが一番よく分かってるんじゃない?」

胡座(あぐら)に頬杖をつきながら語りかける。
白緋の表情は変わらないままだ。

「お姉ちゃんはどうしたいの?」
「私……?」

私は、どうしたい?

「そうですね。貴方の意見も聞かせて下さい」

皆がこちらを見ている。
私はーー。

「少し……考えさせて下さい」

**

「そういえば、何故私が楼閣にいるって分かったの?」

桜ノ命については時間を置いてから決定するーーという結論が出て、協議がお開きになった後の事だった。
私は感じていた疑問を深月に問いかける。

「神使は桜ノ命の気配を察知できるのですよ」
「そんな事できるの……?」
「神使ですから」

彼が悪戯っぽく笑う。
その様子は先程の雰囲気と全く違った。

「そういえば貴方、名前は何というんですか?」
「覚えていません……」
「そうですよね。では今後のために呼び名を決めましょうか」

確かに。
名前が無いと何かと不便か。

「どんな名がいいですか?」
「うーん……」

名前を考えるなんてちょっぴりワクワクする。
考えを巡らせていると、目を覚ました時に見た桜を思い出した。

美桜(みお)ではどうだ」

白緋が突然口を開く。
聞いていないと思っていたので驚いた。

「美しい桜ですか。悪くないですね」
「私、美桜が良いです」
「決まりだね」

美しい桜ーー。
とても綺麗な名だ。

「美桜さん。もし桜ノ命になれば大変なことも多い。けれど、少しでも負担を減らせるよう私たち神使が全力を尽くすからね」

彼が私の肩に手を置く。
きっと少しでも安心させたいのだろう。

「ありがとうございます」