桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

横になったものの、一向に休む気配のない私を見て虎徹は私に告げる。

『外に出なければ自由にしていいから』

そして二人が部屋を出て行ったのは今から1時間ほど前のこと。

「横になっているのも疲れたな……」

倒れてからずっと眠っていたせいか、身体はピンピンしていた。

「自由にしていいって言ってたっけ」

私は腰を上げ襟元(えりもと)を正す。
先程まで着ていたものと服が変わっているようだった。

「綺麗……」

空色の着物に桜の刺繍が施されている。
糸の素材だろうか、角度を変える度にきらきらと輝きを放つそれは一目で高価な物だと分かった。
こんな素敵なもの着ていて良いのかな。

そんな事を考えつつ、階段を降りる。
木で出来た手すりの冷たさが指先に伝わってくる。
あの楼閣も重厚な造りだったけれど、この宮も随分重厚な造りのようだった。

降りてすぐ、建物の中に小さな庭があるのが見えた。
ひらひらと花びらが風に舞う。

「ここにも桜……」
「綺麗だよね」

耳元に低く、甘い声が聞こえた。

「っ……!?」

慌てて耳を押さえ振り向く。
その声の響きに耳が痺れたみたいだった。

「驚かせちゃったかな」

目に入ったのは見慣れない男性。
褐色の肌に、肩にかかった少し長い黒髪。
その肌と髪に合うような、光沢のある暗い色の着物を着崩して着ている。
その切れ長の瞳は緑がかっていて、目が合えば囚われて動けなくなってしまう。

「こんな所で何してるの?」

驚く私をお構いなしに話を進める。

「自由にしてもいいと言われたから……」
「そう」

彼の口角が上がる。
笑みを浮かべているはずなのに、目は全く笑っていない。
じわり、じわり、こちらへ近付いてくる。

「君は何者?」

まるで試すような口調。
友好的な雰囲気は微塵(みじん)も無かった。

「……っ」

彼が私の頬を指でそっと撫でる。
まるで蛇に囚われたように動けなかった。

「何をしている」

第三者の声によって静寂は破られた。
声の方を辿ると、そこには白緋が立っていた。

「何でもないよ」

目の前の彼は再び口角を上げ私から視線を外す。

「またね、姫さま」

そう告げると私の横を通り抜けて去ってしまった。
緊張の糸が解け座り込んだところを白緋に覗き込まれる。

「大丈夫か」
「え、ええ」
「あいつは巳影(みかげ)。蛇の神使だ」
「巳影…」
「まあ、ああいう奴だ」

少しため息混じりに先程まで居た彼の名前を告げる。
あまり仲良くないのだろうか。

「疲れはとれたか」
「ええ、調子は良いわ」
「そうか。ではついてこい」
「えっ?」

そう言いながら彼は私に背を向ける。

神使協議(しんしきょうぎ)だ」