桜ノ命は五人の神使に祈りを捧ぐ

「いってきます!」

玄関を開けると満開の桜。
私はこの家の桜が大好きなのだ。

花織(かおり)〜!」
夏帆(かほ)!」
「もう身体大丈夫なの?」
「うん、心配かけてごめんね」

私は事故にあってから半年近く眠っていたそうだ。

「花織のおばあちゃん大騒ぎだったんだからね!」
「あはは……」
「そりゃあそうだよね、こんな可愛い一人娘だもん」

夏帆は私の生い立ちを説明している唯一の友人だった。
この街に来ても何も変わらないーーー。
そう思っていた私に、日々の楽しさを教えてくれたのは紛れもなく夏帆と祖母だった。

「私、前と変わってないよね?」
「どしたの急に」
「なんかね、何か大切なことを忘れているような気がして……」

桜の匂いを嗅ぐとどうしようもなく胸が締め付けられる。
でも、私はその正体を考えつく事ができないのだ。

「なに、恋でもしちゃった?」
「そんなんじゃないよ」

夏帆はすぐこういう話に持っていく。
全く若いんだから。

「花織、これどうしたの?」
「分かんない……起きたら付いてたんだよね」
「へえ〜なんかオシャレだね」

夏帆が言うのは首筋に薄く付けられた桜のような刻印。
前は無かったはずなのだけれど……。

「まずい、早く行こ」

時計を見ると始業の時間が迫っていた。
早く行かなければ。
そう思って歩みを進めようとした時だった。

「美桜」
「……え?」

風が吹き抜ける。
懐かしい感覚が蘇る。

「今誰かいた?」
「え、誰もいなかったと思うけど」

まただ、また胸を締め付けられるような。
私はこの気配の正体をどうしても知りたかった。

「ごめん、先行ってて」
「え!?遅刻しちゃうよ!」

夏帆の静止を振り切って私は駆け出す。
桜の花弁が私へぶつかってくる。

「はあ……はあ……」

その正体を手繰り寄せるように駆けた先には、家の桜の木があった。
私は全速力で来た道を引き返していたのだ。

「はは……なにやってるんだろ」

もちろんそこに誰かがいるはずもなく。
少し落胆したのち、再び学校へと向かおうとした時だった。

「……」

鳥居の下に誰かが立っていた。
美しい銀色の髪が風になびく。
まるでこの世のものとは思えないくらい美しかった。

「……あれ?」

涙が一筋、頬を伝う。
私はこの人のことを知らない。
けれど、この込み上げる感覚の正体はこの人にあるような気がした。

「……」

彼が無言でこちらに近寄り涙を掬い上げる。

「私は、貴方に会ったことがある?」

彼の表情はとても優しくて。
そして温かかったーーー。